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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
第二章

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32、忘れていた記憶②



『!?……これね!あの人が欲しがっているのは!……え!?ぎゃー!!!』



 そんな声も聞こえてくるけど私はそれどころじゃない。



『リア!抑えて!魔力が……!!』



 テオ兄の言葉も聞こえるが、もう、コントロールできなかった。

 テオ兄はぎゅっと落ち着くようにか抱きしめてくれる。


 テオ兄が私を抱きしめてくれたおかげか、魔力はほぼ放出したのか。ゆっくりと落ち着いてくる。

 


『はぁ、はぁ、はぁ』



 荒い呼吸を繰り返しながらも、魔力のほうは落ち着いたときだった。



『なんなのよ……この私に、一体何をした!!お前!!』



 そう叫んだ女の人がいて視線を向けると、片手で顔を抑えてこちらをすごい形相で睨みつけていた。 そして周りをみると、金色のキラキラした光であたり周辺は少し明るくなっていた。

 テオ兄をみると、服などについてしまった血はそのままだが、怪我は治っているようだった。


 何が起きたのか。よくわからないことしかないが、怪我が治ったのはよかったと思ったのも束の間。



 体がガクンと重くなる。

 倒れそうになった私の体を今度はテオ兄が支えてくれた。、



『魔力を急に放出したから……!しっかりするんだ、リア!』



 普段体中を巡っている魔力が急に失われると、こんな風になるのか。

 まるでごっそり血がなくなって重度の貧血にでもなったようで頭がくらくらする。



『ペンダント……はつけているね。じきに治ると思うけど……今はそれよりも』



 そういって女の人をにらみつけたテオ兄は、外套を脱いでその上に私をそっと置いた。



『テ、オ兄……』

『リア、ありがとう。君のお陰で怪我は治ったよ』



 一瞬私に視線を向けて私に笑いかけた。そのとき遠くから恨みの籠った叫び声が聞こえた。



『殺してやる……!!この私にこんなことをして、許されるとは思わないことね……!!』



 そしていままで感じたことがないような大きな魔力の塊を女の人は作りだした。

 テオ兄も負けじと同じくらいのものを作ろうとするも、その魔力の塊が飛んできた。


 間に合わなかったのか、少しは相殺できるもすべては無理だったようで。

 魔法の勢いがすごいのか大きな爆風が起きる。飛ばされそうになったところで、テオ兄は私の上に覆いかぶさった。


 爆音が響くもテオ兄が覆いかぶさっていて視界が真っ黒で何が起きているかわからない。


 しばらくして静かになったときに少し体を動かすも、テオ兄が上から動かないので動けない。



『テオ、兄……?大丈夫……?』



 揺さぶってみるも反応がない。さきほど怪我が治ったのではなかったのか。

 ゆっくり抱き起こして顔を見てみると、かろうじて息はあるようで。



 必死に呼びかけると意識が戻ってきたのか、目をゆっくり開いた。そして私をじっとみて、困ったように微笑んだ。

 しかしほっと安心したのは一瞬で。全身に目を向けると、テオ兄は素人目でも助かりそうにないと分かってしまうほどの大怪我をしていた。



『リア、無事……?』

『……私は、テオ兄のおかげで大丈夫、だけど……』

『それなら、よかった……』



 そういって安心したのか目を閉じてしまった。



『やだ、いやだ、テオ兄……死なないで……!!』


(──テオ兄が、死ぬ?)



 咄嗟に出た言葉で改めて認識してしまった。でもそんなこと、信じられるはずもない。

 テオ兄がいたから、楽しい、嬉しいという感情を知ることができた。生まれてきて良かったと、初めて思えたのだ。


 頭が真っ白になり、怖くて泣きたくて、どうしたら良いのか分からず、涙だけが零れ落ちていく。



『っすぐに、人を呼んでくるから──』

『……リア、僕は、大丈夫。こっちに、おいで』



 助けを呼ぼうとする私を引き止め、地面に横たわったまま私を抱き寄せる。


 抱きしめられるのと同時に、ゆっくりと身体中から魔力が奪われていく感覚がした。そしてそれと同時に入ってくる魔力もあった。


 ──何が起きているかわからない。でもこれをしているとテオ兄は助かるの……?


 そんな期待を胸に、そのままじっとしていた。すると遠くから「テオ……どこ……か?」と叫ぶ声が聞こえた。

 テオ兄が誰かと一緒に来ていて、先ほどの爆発でここにいることが分かったのかもしれない。助けが来たのかもしれない。


 その思いで声のするほうを振り向き叫ぶ。



『こ、こっちに!!ここにいます!!』



 私の声が聞こえたのか、声が近づいてくる。

 そのことにほっとしてテオ兄をみると、テオ兄は微笑んで震える手で私の頭を撫でてくれた。

 気づけばテオ兄を抱きしめていた私の身体も、真っ赤に染まっていた。



『リア……君は、なにも、悪くない……忘れるんだ……』



 その言葉とともに意識が遠のいていく。


(な、何が……待って、まだ……私は……!)


 何が起きたかはわからないけど、ここで目を閉じてはいけないことだけはわかる。

 必死に抗っているとテオ兄は涙で濡れた私の頬を、冷たくなり始めた手のひらでそっと撫でてくれる。



『僕は、幸せ、だったんだ。リアと過ごせて。リアに必要としてもらえて。生きていたいと、生きていてもいいんだと、初めて思ったんだ』



 血が滲む唇が、小さく弧を描く。掠れ、震える声で続ける。



『……リアの未来が、たくさんの嬉しいこと、幸せなことで、いっぱいに、なりますように』



 だんだんと目を開けていることができなくなり、瞼をとじた。

 遠くからいたぞ!こっちだ!という声が聞こえるも、その言葉を最後に、それ以降の記憶はない。



ーーーーーーーー



 眩しさに目を開けると、朝になっていた。そしていつも通り孤児院のベットにいた。


 当時は自分でも気づいていなかったけれど、気を失う1か月分くらいの記憶がなくなっていた。急に寒くなったな、と思っていたことを覚えている。


 そして多分その1週間後くらいの夜。日課になっていたテオ兄からもらった赤い石を眺めていると、いきなり何の前触れもなくピシっと石にヒビが入った。

 そして私の掌の上で粉々に砕け散って、かけらも残らずに消えた。



『この石は、僕そのものなんだ。僕の魔力でできているからね』

『テオ兄、そのもの……?』

『そう。だから、砕けるのは僕が死んだときかな』

『し、死んだら、嫌だ……!』

『ふふっ大丈夫だよ。リアを残しては死なないよ』

『うん!約束よ!』



 そんな会話をしたことを思い出す。

 私は何もなくなった掌をみつめたまま、動くことができなかった──






読んでいただきありがとうございます!

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