30、襲撃
「な、なに……?わ、私は何もやってないわよ」
「「そんなことはわかっている(わよ)……」」
場所は違えど、前科があるため一応弁明しておく。レイもフェリシアもこんなときなのに、という顔をしている。
全員で周りを警戒していると、女性の声が聞こえてきた。
「まあ、そんなにうまくいくとは思ってなかったけど……こんなにすんなり侵入することができたのだから、上出来かしらね?」
振り返ると顔を仮面で半分隠している妙齢の見た事のない女の人がいた。身体のラインを主張するようなスリットがはいった黒いドレスを着ている。
細いのに豊満な胸元、くびれた腰、どれも女性があこがれるようなスタイルだ。
女は艶やかに笑うと、私に向かって言った。
「お久しぶりね、王女様。あなたのこと、1日たりとも忘れたことはなかったわ。さあ、私とともに来てもらうわよ」
「久しぶり……?」
「貴様、なんでここに……!!」
その言葉に疑問を覚えつつも、反応したのはテオドール殿下だった。
「あら王太子殿下、ご機嫌麗しゅう。あなたに向けて伝言も授かっていますのよ。『急ぎ帰ってくるように。帰ってこない場合は見捨てる』と」
「は」
「私は王女様を連れてくるように、としか言われていないの。だから今は貴方様に構っている暇はないのよ」
そういうとその女の人は私に向かって閉じた扇子を向けた。
何か魔法がくるのか。状況が突然すぎて追い付けないが、直感的にそう悟り防御魔法を展開した。
「あら、発動が早いのね。でもまだまだひよこちゃんね」
その言葉とともにパリーンっと防御壁が割れた甲高い音が響いた。
そのことに動揺していると、レイが私の前に立って剣を構えた。
「これはこれは……エスパーダ公爵令息?護衛騎士だものね。まあいるとは思っていたわ。……実の親を殺した犯人をいまだに知らないのかしらね?」
「は──」
「それくらいで動揺するならまだまだおこちゃまね」
どんどんその女性は攻撃魔法をレイに向けて放ってくる。
しかしレイも最初は動揺していたが、すぐに立て直し応戦している。私を庇っているからか防戦一方だが。
「……はぁ、埒が開かないわね。王女様はまだ傷つけるつもりないのだけど……あなた、どうにかなさいな」
応援が来たのかと身構えるも、そこで姿を現したのはまさかのシャルロットだった。どこから現れたのか。
「急に呼びつけるから何かと思えば……しょうもない男爵令嬢を貸すくらいしかしてくれなかったのに、よく言うわ。あいつ結局レイモンド様に惚れてたのよ」
「そんなこと言わないでよ。私もあそこまで使えないとは予想外だったの」
「……レイモンド様を傷つけてないでしょうね?あの女はどうなろうがどうでもいいけど、あの美貌が損なわれることはあってはならないわ」
「大丈夫よ。ピンピンしてるわ」
世間話をしてますというような雰囲気で話しているが、内容はひどい。
「そろそろ教職員もきてしまうし、王女様さえくれたら魔物たちに丸投げしちゃって大丈夫よ」
そう言いながらその女性が手を前に構えたとき。レイの前にテオドール殿下が立った。
「これ以上、貴様の好きにはさせない。もうこれ以上大切なものを失うのなんて、ごめんだ!」
普段は穏やかなテオドール殿下が声を荒げて叫んだ。
こちらからは後姿しか見えないが、その声からその女性への憎悪が含まれていることに気づく。
「あら、王太子殿下。この私に向かってくるその気概だけは評価してあげるわ。でも今貴方様はお呼びではないのよ。少し大人しくしていてちょうだい?」
その言葉が終わるとともにテオドール殿下に魔法が放たれた。しかしテオドール殿下も負けじと応戦している。
シャルロットも加勢していて次第にテオドール殿下は押され始めた。
レイは私の護衛が優先だからか様子を見つつもまだ動かない。
「なかなか成長したけど、ここまでよ」
「っつ……!!」
テオドール殿下への今までの魔法よりも高威力の魔法が放たれ、テオドール殿下も練った魔法をぶつけた。
すると、2つの魔法がぶつかり合い大きな爆発が起きた。
その爆風に飛ばされそうになるも、レイが私を抱きしめてかばってくれたこともあり、飛ばされずにすんだ。咄嗟に飛ばされそうになっているフェリシアの腕もつかんだ。
爆音と爆風の中でも遠くから「きゃーッ」と聞こえたのは誰の声か。
しかしそのとき、私はそれどころではなかった。
(この魔力と、爆発……前にも見たことがある……?)
──前?前って、いつ?
そんなことはないはずなのだが。どうしてこんなことを思うのか。
知らない。でも知ってる?
今目の前で起こっていることをよそに頭の中は混乱を極めていた、そのとき。
『リア……君は、なにも、悪くない……忘れるんだ……』
その声が頭に響いた途端、体中に雷が落ちたようにびりびりと衝撃がはしり、ひどい頭痛が起きた。
「……うぅっ!」
「っ!ルーナ!?」
頭が、ガンガンする。
そこに、『思い出したくない何か』があるのがわかる。
立っていられなくなった私は、思わず痛む頭を抱えてうずくまり動けなくなる。
「ルーナ!どうした!?しっかり──」
レイが私を支えながらも叫んでいる声が聞こえる。その声を聴きながらも意識が遠くなっていった。
ああ、そっか。なんで忘れていたんだろう。
私のせいで、テオ兄は──
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