14、嫉妬の名前
レイモンド視点です。
テントの前に護衛のため立っていると、中からガサガサと物音が聞こえた。
そのためもう1人の護衛に断りを入れ、中の様子を見ることにした。
声をかけても返事がなかったため思い切って中に入ると、真っ青な顔で今にも泣き出しそうな表情のルーナがいた。
そして部屋の中はいろいろと散らかっており、大惨事になっている。
王女のテントに泥棒でも入ったのかと思いルーナに駆け寄った。
「……どうした?何があった?」
「レイ……ペンダントが……ペンダントがないの……」
「え?」
「いつもつけている、あの赤い石のついたペンダント。あれは、大切な……」
しまったはずのところにペンダントがなく、何かの拍子に落ちてしまったのかと探していたようだ。
いつも何があっても笑っていることの多い彼女が、ひどく取り乱している。
縋るように俺に助けを求めていることに驚く。
あのペンダントに何かあるとは思っていたが、こんなになるほどとは。
ペンダントをいつも肌身離さず持っていたことで、とても大切にしているのはわかっていたが。
ルーナリアをここまでにするものは──
「あのペンダント……」
「……テオ兄にもらったものなの」
ルーナは胸元を押さえ、震える声で続けた。
「別れる時に……。ずっと大切にするって約束を……私にはもう、あれしかないのに……」
やはり──
予想していたはずなのに、胸の奥が鈍く痛んだ。
……今は、それどころじゃない。
「俺が……俺が、見つけるから。ルーナはここでじっとしてて」
「で、でも、私も」
「いいから。今のルーナには無理だ。じきにナタリーも戻ってくるから話をきいて。俺が必ず、責任をもって見つけるから」
「わ、わかった……ありがとう。お願い、します……」
そう懇願するルーナの頭をなでてから部屋をでた。
あれだけ探して見つからないのなら、ここにはなさそうだ。
しかし、探しても見つからない。
ルーナは時々抜けているところがある。
先ほどいた場所を中心に探したが、時間だけが過ぎていった。
王女のペンダントがなくなったと大騒ぎになるのは、ルーナも望んでないだろう。
そう思って単独で動いているが、王女のテントで窃盗が起きるというのは、そもそもが大きな問題だ。
先ほどまでいたコラソン公爵家のテントまでくると、テントの前にはシャルロットがいた。
昼食のため一度解散したはずだが、どうしたのか。
すると、俺に気づいたようでにっこり笑いかけてきた。
「レイモンド様、先ほどぶりですね。どうされたのですか?」
「……少し、探し物を」
「あ、もしかしてこれではない?」
そう言って見せてくれたのは、まさに探していたペンダントだった。
「どうして、それを……」
「テントに戻る途中、林のほうにきらっと光るものが見えて。近づいて見てみるとこのペンダントだったの。今ルーナのテントに届けようと思っていたところなのよ」
「そうですか……ありがとうございます。ちょうど探しているところでした。私からルーナに渡しておきます」
「ええ、お願いね。ルーナも心配しているだろうし……」
そしてペンダントを受け取り、急ぎテントに戻った。
ルーナはナタリーに慰められているようだったが、俺がテントに入ると飛んできた。
ペンダントを手渡しながら、シャルロットが見つけてくれたことを話す。
大切そうにペンダントを受け取ると、何度もありがとうと繰り返した。
あとでシャルロットにもお礼を言わなきゃ、と言っているルーナを横目に、俺は自分自身に困惑していた。
見つかってよかった。
ルーナが泣かずに済んで、安心した。
……なのに。
どこかで、見つからなければよかったと思ってしまった。
『テオ兄』のことは婚約者候補になって早いうちから聞いていた。
以前とてもお世話になった人で、大切な約束をしているのだと。
話を聞く限りもう別れてから5年は経ったはず。
それなのにいまだにルーナの心の大半をしめるのは、そのテオ兄という男で。
それを実感するたびに心に暗いものが立ち込める。
ルーナは俺の婚約者候補なのに。
……いや、今はそんな言葉遊びはどうでもよかった。
いつしか芽生えたこの気持ちは初めてのもので、この気持ちが何なのかわからなかった。
ルーナの近くにいれればそれでいいと、ルーナの力になれるならそれでいいと、そう思っていたのはずなのに。
──あいつの名前を呼ばないで。どうか俺のことだけをみてほしい。
こういうふうに思ってしまう自分もいる。
まだ屋根裏部屋で生活していたころ、手当たり次第読んだ小説をふと思い出す。
今なら恋愛小説だとわかるが、当時は何も気にせずに読んでいて理解ができなかった。
それを今たまたま思い出したが、理解できてしまった。
──そして、気付いてしまう。
何故こんなにも腹が立つのか、何故こんなにも裏切られたような気持ちになるのか。
そんな理由などきっと、ひとつしかない。
俺はルーナが好きなのか──
この気持ちが嫉妬というのか。
その言葉がとてもしっくりと来てしまう。
もちろん、今までもとても大切な存在だとは思っていた。
いままではただ自分を助けてくれた人で、その恩があって力になりたいのだと思っていたが。
恋愛感情だなんて。
ましてや自分がこんな感情を抱くなんて思いもしなかった。
初めて会ったルーナは明るくて。
笑うこともなかった俺にも優しくて。
それまで魔力なしと蔑まれ、暴力を振るわれていた俺には、眩しくて仕方ない女の子だった。
暗く閉ざされていた俺の世界に、突然差し込んだ光のようだった。
ルーナの優しさは、凍りついていた俺を少しずつ溶かしていった。
気づけば、彼女は俺の世界の中心になっていた。
あの嫌な思い出しかない公爵家から出ることができたのも、魔力が発現したのもルーナのお陰だ。
それによって魔力暴走を起こしそうになった時も、助けてくれたのはルーナだった。
心も体も救われて、いつだって笑顔で「レイ」っていう愛称で呼んでくれた。
そんなことをされて、好きにならずにいられるわけがないんだ。
……今さら気づくなんて、遅すぎる。
今までの自分の行動理由にも納得がいく。
少しでもルーナに釣り合う男になろうと、騎士になることを決意した。
見習いで入団してからも必死に訓練や魔法の練習に打ち込んだ。
それだけではなく、本をたくさん読んで知識を得ることにも余念はなかった。
全てはルーナの隣にいるため。
よくいままでこの気持ちに気づかなかったなと我ながら驚く。
しかし同い年のはずのルーナが自分に向けるまなざしはいつも、弟にでも向けるような慈愛に満ちたものだった。
ルーナが俺に恋愛感情がないことは明白で。
俺はルーナのそばにいられるだけで満足しなければならないのに、そうわかっていても込み上げてくる嫉妬心と独占欲。
それらを抑えることが難しい。
ルーナが好きだ。
離れたくない。
ずっと、隣にいたい。
……できることなら。
俺だけを見ていてほしい。
読んでいただきありがとうございます!




