13、失くしたくないもの
「……そんなことだろうと思ったわ。こんなに早く戻ってくるなんて」
「でもルーナに怪我がなく終わってよかったわ」
「私は怪我とかしてないわ!何かする前に終わってしまったもの……」
「やらかしてはいるけどね」
テントに戻りすぐにドレスに着替えさせられた。
おそらくもう狩場に行かないように。
仕方がないのでフェリシアのテントに行くと、予想通りシャルロットと2人でお茶をのんでいた。
2人とも開始早々、開会式で来ていた乗馬服ではなくドレスに着替えてきた私に目を丸くしていたが、話をすると納得していた。
目の前に広げられているおいしそうなお菓子を見つめていると、すぐに私の分も席を用意してくれた。
あの十歳のお披露目会以来、シャルロットとフェリシアとは定期的にお茶会をする仲になっていた。
おっとりしたシャルロットと、はきはきしたフェリシア。
けっこう反対の性格ではあるが、3人仲良くできていると思う。
今では気の置けない友人と言えるだろう。
「うーん!!これ美味しい!!」
「今、城下で1番人気がある焼き菓子みたいよ」
「ルーナは本当に、甘いものが好きねぇ」
2人は最近の流行りとかも教えてくれる。
勉強ばかりで街に出ない私にお菓子とかも買ってきてくれる。
2人ともとてもいい子だ。
最初は頑張ってマナー通りに接していたけれど、それももうおざなりになってしまっている。
「エスパーダ公爵令息もご一緒にいかがです?」
シャルロットがそう言って、私の後ろに立っていたレイモンドへ視線を向ける。
「いえ、私は……」
「レイ、一緒に食べよう!ごめんね、気が利かなくて。ずっと立っているのも疲れるでしょ」
「いや、護衛が……」
「ここでは何も起きないわ。私のテントだもの」
「そうそう!ほら、座って!」
「……では、失礼します」
一瞬だけ迷ったあと、レイモンドは勧められた椅子に静かに腰を下ろした。
「こうやってお話しするのは初めてね」
「……お気遣いありがとうございます、ディアマンテ公爵令嬢」
「私のことはシャルロットとお呼びくださいな……これから先、長い付き合いになりそうですもの」
そう言ってシャルロットは、私のほうをちらりと微笑みながら見つめた。
私も笑い返したところで逆からも「私もフェリシアでいいわ」という声も聞こえる。
「わかりました。シャルロット嬢、フェリシア嬢。よろしければ私のこともレイモンドとお呼びください」
いつも無表情なレイは、終始聞き役ではあるが参加してくれたことが嬉しかった。
◇
「あれ、そういえばいつものペンダントはしていないのね?」
話が一区切りしたところで、ふとフェリシアが問いかけてくる。
「え?あ、そうなの。ドレスに着替えたときに着ければよかった。何かあってちぎれたり傷ついたりしたら嫌だったから、テントに置いてあるの」
「自分の部屋じゃなくてテントなのね」
「ふふっ大切なものはいつも持ち歩いているの、ルーナらしいわ」
フェリシアに突っ込まれつつも、シャルロットがフォローしてくれたが、はっとした顔で私をみた。
「そういえばルーナにあげるために刺繍したハンカチを渡そうと思ってたんだったわ。先ほどは時間がなかったのだけど……もう遅くなってしまったけれど、今取ってきてもいいかしら」
「そんな!気持ちだけでも嬉しいのに!ありがとう!」
「ふふっちょっと待っててね」
わざわざ私のためにハンカチに刺繍をしてくれたなんて。
本来であれば狩猟大会に婚約者や想い人が参加するときなどに渡す風習があると聞いている。
もう私の狩猟大会は終わってしまったけれど、嬉しさから頬が緩んでしまう。
そしてシャルロットからハンカチをうけとり、刺繍の出来栄えがすばらしいことで絶賛していると、昼の合図である鐘がなった。
昼食は各自のテントでとることになっているため、一度解散することになりテントに戻った。
もうドレスに着替えて狩猟にも行けないから、ペンダントをつけておこうと、しまっていたアクセサリーケースを見てみるも、見つけることが出来ない。
今までは入浴と寝る時以外はつけていたが、そのときはきちんとしまっていて、今日もこの携帯用のアクセサリーボックスにしまったはずだった。
自分でしまった記憶もある。
しかししまった記憶のある場所にはない。
何かがぶつかったときに、落としてしまったのか。
周辺一帯を探してみる。
ナタリーに聞こうにも、今は昼食をとりに行ってくれているためいない。
焦燥感が込み上げ、ガサガサとテント内を物色する。
それでも見つからない。
あれはとても大切なものなのに。
なくしてしまうなんて、そんなことあってはならない。
そもそもそんな大切なものをこんなところにつけてくるな、と言うことかもしれないが、ずっと肌身離さず持っていたかった。
顔から血の気がひいていく。
もし本当に失くしてしまったら。
そう思っただけで、心臓がドクンドクンと嫌な音を立てた。
テントをひっくり返す勢いで探していると、レイが物音で気づいたのかテントに入ってきた。
探すことに夢中になっていた私は入ってきたことに気づかなかったが、人の気配がしたため勢いよく振り返った。
私と目が合った瞬間、レイモンドは珍しく目を見開いた。
「……ルーナ?」
自分でもわかる。
きっと今の私は、ひどい顔をしている。
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