ダグラス:新しい決意
■Side-ダグラス
「すごい、ダグラス君、やっぱり天才……」
視線の先に、柵で囲まれた町を見つける。
地図にもなければ、国が認識もしていない町だ。
どの道にも繋がっていない地点だったので、移動には時間がかかった。
レジーナが、俺に聞いてくる。
「えっと、どうやって近づく?」
「話を聞くなら、仲間になりに来たと言い張っていくしかないだろう」
「そっか、分かった」
しばらく歩いて、入り口の前に付く。
見晴らしの良い場所なので、だいぶ前から認識されていたと思う。
「止まれ、みない顔だが、誰の紹介で来た?」
「今までのご活躍から統計的に割り出しました」
「とうけいてきにわりだす……?」
「……頑張って自力で見つけました」
「そ、そんなわけ……」
門番は、俺とレイジーナの方を交互に見比べた。
「詳しい話は、中で聞こうか。ついてきてくれ」
レジーナが獣人だから、少し警戒が緩くなったか。
いいや、単純に黙って返すわけには行かないんだろうな。
案内される間、拠点の中を観察する。
獣人の比率が多いが、そこまで大きな偏りはない。
獣人保護と言うより、反貴族の団体なんだろう。
設備も充実していて、想像よりずっと、大きい組織なのが分かる。
門番が扉を叩く。
中から、しわがれた声が聞こえた。
「はいってくれ」
彼が扉を開ける。
そこには、大柄な老人が立っていた。
長い体毛に特徴的な顔は、猿獣人だろう。
その姿を見るなり、レジーナが老人へ駆け寄っていく。
「ブルーノおじさん!!!」
老人の方は少し戸惑った後に、彼女の名前を答えた。
「……もしや、レジーナか?」
どうやら、旧知の仲らしい。
その様子をみて、門番は何も言わずに去っていた。
俺もしばらくは様子を見る事にする。
「覚えていてくれたんですね!」
そう言うと、彼女は老人の胸へ飛び込んでいった。
老人もそれを受け入れ、二人は抱擁を交わす。
「ああ、もちろんだ。大きくなったな。……あの時は突然消えて、すまなかった」
「良いんです、きっと、事情があったんですよね?」
しばらくして二人は離れると、レジーナが俺に向き直る。
「ダグラス君、こちら、ブルーノさん、前にちょっと話していた、私が探していた人」
続いて、ブルーノの方へ。
「ブルーノおじさん、こちら、ダグラス君、今、私とパーティを組んで冒険者をしているの」
なるほど、そういうことか。
彼女の目的の一つが果たせて、良かったと思う。
だけどこれは、難しい事になったな。
「はじめまして、”希望の剣”リーダー、ブルーノだ。それで……君たちは、どうやってこの場所を知ったんだ?」
「調査によって特定しました」
俺は地図を取り出して、レジーナにしたのと同じ説明をする。
ブルーノは俺の渡した地図を持って、ワナワナと震え出した。
無理もない。
犯罪心理学は、前世でも近代になってやっと研究が進んだ分野だ。
俺にとっては初歩的な雑学にすぎなくても、この世界の文化レベルでは、考えもしないことだろう。
まあ、これは偏見ではあるが。
「こ、これを君が考えたのか?」
「はい」
「ふむ……乱世には、いつも傑物が現れる。もしかしたら、君もその一人なのかもしれないな」
「この組織は、どういう目的で、何をしているんですか?」
「君たちは、仲間になるつもりでいる、と考えて良いのかな」
空気が、僅かに緊張感を持つのを感じた。
彼がレジーナの知り合いである以上、嘘はつきたくない。
「実は、まだ考えているんです。詳しい話を、聞かせてもらえませんか」
ブルーノが、俺とレジーナへ交互に視線を向ける。
「……レジーナの仲間なら、信用しよう。場所を変えようか」
彼に促され、町を出る。
湿地帯に入ると、一本の大樹の前にたどり着いた。
大樹には梯子が吊るされており、登れるようになっている。
登った先からは周囲を一望できた。
これなら、近くに誰かがくればすぐに分かるだろう。
「私たちは、革命を起こそうとしている」
ブルーノが、遠くを眺めながら口を開く。
傾いた夕陽が、砂漠と湿地帯を赤く染めていた。
彼の言葉に、レジーナが問いかける。
「本当に、それしか無いんですか……?」
「数年前の飢餓が、決定打になってしまった。私たちが動かなくても、いずれ革命は起きるだろう。それも、今よりもっと最悪な状況で、だ」
ブルーノは遠くを眺めたまま、彼女の問いに答える。
あるいは、見つめているのは帝国の未来なのかもしれない。
俺も彼女に続いて、質問を投げかける。
「”希望の剣”の存在が、無秩序な暴動を抑制し、より流血の少ない革命を実現すると?」
「そうなれるよう、努めている」
「……」
ふと、袖が引っ張られた気がして視線を向ける。
「えっ…あっ。ごめん、ちが、違うの……」
レジーナと視線がぶつかる。
彼女はとんでもない事をしてしまった、と言った風に手を離す。
「私、ダグラス君が頑張っているの、知ってるから。ペンギーちゃんを助けたいって気持ち、応援したいと思ってるから」
彼女は俯いて、続ける。
「これは、私たち、バルバナット帝国の貴族と、獣人の問題だから、ダグラス君には、関係ない……」
俯いた彼女の頬から、涙がこぼれる。
「……」
レジーナを抱きしめる。
無意識に頼ってしまう程、助けて欲しいのに。
俺を気遣って、そんな事を言ってくれる彼女の思いが、俺に新しい決意を抱かせた。
「俺たちは”希望の剣”に協力する」
俺は、変わらなければならない。
思えば俺は、ずっと流されて生きてきた。
ブラック企業に入社した時だって、本当は、やれることは沢山あったはずなんだ。
例えば、会社を変える為に働きかけるとか。
もっと簡単に、転職活動をするとか。
だけど俺は、忙しさを言い訳に、何もしなかった。
そして、過労死する。
「……いいの?」
もう、流されるままに生きるのは、やめよう。
大勢や古い習慣に逆らうのは、怖い。
俺には、何をしてでも助けたい人がいる。
俺のことを頼ってくれる人がいる。
現代知識という、答えを持っている。
神様にここまで、レールを引かれて。
立ち止まってなんていられない。
「俺たち、仲間だろ?」
「……うん!」





