第十九話 上には上がいる
豪華絢爛な玄関を抜けて、主人がいるという部屋に通された。
「息災でしたか。エリザ王女」
腰の曲がっていない老人が目元に優しさをたたえてそこに立っていた。むしろ一般人より背筋がいいくらいだ。その姿は老練と言った体で隙を感じさせず、精悍だ。
「ええなんとか。犠牲は多かったですが……」
「彼らも貴方様のために死ねたのなら本望でしょう」
「それならいいのですが」
彼女がギリッと後ろで組んだ手が強く握ったのがわかった。
「して、そちらの方々が強力な援軍ということでよろしいのですな。......もしかするとブナ様ですか?」
「おお、やっと俺のこと知っているやつに会えたぜ。最近のやつはやっぱだめだな。俺のことを知らなすぎる」
「ほっほっほ、仕方ありますまい。ブナ様が騎士団をおやめになったのは五年前ですし、当時顔を隠していらしたから」
「雰囲気で気づけよなぁ」
「して、そちらの少年は?」
「ああ、そいつはそのへんで拾ったガキだ。一応戦力だ」
「おい、俺の説明雑すぎるだろ」
「こんな年端の行かない少年が戦力ですか。お名前は?」
「名乗るときはまず自分からだろ」
そこにいる老人は不敵な笑みを浮かべる。
「礼儀をわきまえぬおちびさんに教える名はあいにくもちあわせていませんねぇ」
「てめぇ!!」
俺は全速力で刀を抜いた。門番のときのように寸止すればいいだろう。俺をなめ過ぎだ。俺の刀は最速の刀だ。最近はブナですら受けるので精一杯だ。カウンターが打てるようスピードではない。事実この爺さんも反応できていない。もらった。そう思った。
「ほっほ、若いですの」
気づいたら俺の刀は止まっていた。止めさせられていた。
「なっ!!」
俺の目には見えないスピードで俺の刀が人差し指と親指の二本の指で止められていた。
「たしかに戦力にはなりますな。申し遅れました。私、クリスト・フォン・ユダと申します。侮ったことをお許しください。実力を見るために少し挑発してみました」
「ちっ……センだ」
「悪いなぁ。クリスト伯爵、躾がなってなくて」
「構いませんよ。私だって若い頃は荒れていましたからね。エネルギーが有り余っているのですから致し方ありません」
「すまんなぁ」
「爺さんも戦えば戦力になるじゃねぇか。そうすれば相手騎士団長クラスに一対一で当たれる」
俺は刀を納めつつ、その老人をにらみながら、そう言った。
「ほっほっほ、この老骨を使い潰す気ですかな。悪くない案ですが、私ももう年で体力がありませんし、軍を率いるものがいなくなってしまいますから不可能ですかねぇ」
「そうかよ」
「セン、ひょっとして拗ねてるの?かわいい。どうしてそんなにかわいいの」
「すねてねぇ」
クリスと伯爵の前だからだろう。抱きつく真似はしなかったが、ソワソワしているのは感じ取れた。
にしてもクソ!強すぎる。あのスピードの刀を寸分もずれることなく、受け止めるって相当な実力だぞ。ブナよりつえぇんじゃねぇか。
「ほっほっほ、それではご足労いただいてすぐですが、時間もないことですし王都奪還の計画を練るといたしましょう」
「そうしましょう」
「ああそうだな」
「……」
「まずは現状を把握いたしましょう。こちらの軍勢が1万。向こうが2万。こちらに将軍格が二名。向こうには三名。という状況でございます。兵数に関してはさほど深く考えなくて良いでしょう。向こうの王の首を取れば勝ちでございます。問題は将軍格の運用です。ここまでいかがですか」
「ああ全く同じ議論をした」
「右に同じく」
「……」
「左様ですか。それなら話は早い。如何にして将軍格をできるだけ失わずに向こうの将軍格を倒せるかにこの戦いかかっております。こちらの将軍格の一角はまだ未熟ですゆえ、更にギリギリの戦いになるでしょう」
「おい、それ俺のこと言ってんのか」
「左様でございます」
「ちっ」
事実だから否定できねぇ。でも将軍格と認めてくれていることに少し頬が緩む。
「ではどのように当てるのがいいでしょうか皆さんのご意見をお聞かせ願いたいのですが」
「私達の考えだと、二人だけをなんとかおびき出して、センとブナでなんとか各個撃破。その後あと一人を撃破するのが一番現実的かと思ったんだけど」
「まあそうでしょうな。普通に各個撃破でもいいですが、そうはやらせてくれないでしょう」
「向こうには2万規模の軍隊を指揮できる人間が騎士団長しかいないから、きっと割と簡単に行けると思うわ。副団長二人は王の護衛でしょう」
「そううまくいくでしょうか」
「いかせるしかないわ。もともとかなり劣勢なのだから希望的観測にすがるしかないわ」
重い沈黙が場を支配する。事実が故に誰も何も言えない。
「では一週間後、戦闘を仕掛けることにいたしましょう」
その言葉を最後に話し合いは終わった。




