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第十七話 道中

 柔らかな風が俺の鼻をくすぐる。わずかに香るのは草木の匂いだ。なんとも言えないあの匂いに得も言えぬ快感を覚えて、一つ伸びをする。天気は驚くほどの快晴。見渡す限り緑がいっぱい。お出かけ日和と言っても遜色ないこんな日に俺たちは戦闘のためにこの気持ちのいい草原を歩いていた。


 三人の間の空気は軽いものではない。最も俺とブナの二人きりのときだって、そんな会話があるわけでわないのは先に行っておく。けれど別段心地悪い感覚はない。ただ話すことがないから話さないみたいな心地の良い沈黙があるのだ。だがことこの三人になるとその沈黙は少々心地悪くなるらしい。誰が原因というわけでもないのだろう。

 俺もブナもワイワイ騒ぐようなタイプではないから、一人異分子となっているエリザとうまく会話することができない。必要事項の会話ならあるいはいけるのだろうが、そう簡単に必要事項が転がっているわけもなく、必然少々重苦しい雰囲気の行軍になっているのだった。かといってエリザが悪いのかというとそれも違うような気がする。いきなり二人で旅しているところに乱入して、うまく話せる人間などそう多くはあるまい。王女様ならなんとかなるのかもなんて期待していたのだが、あんまり得意ではなさそうだ。さっきからずっとこちらを見たり、ブナを見たり視線が忙しない。


 俺は一つため息をつく。これみよがしに見せつけるように。そうするとびくっとしたエリザがおずおずとこちらを見る。


「ああ……ええとだな……その。いい天気だな」


 俺のバカ!お見舞いで二人きりにされて、話す話題がなさすぎて、絞り絞った挙げ句に出るようなお天気話題なんて。


「ええそうですね。本当に良い天気だわ……」

「……」

「……」


 ほら終わっちゃったじゃん。どうすんのよこの空気。さっきより悪くなってない?


「お前ら初お見合いしてるみたいだな。ハハ」


 てめぇ後で覚えとけよブナ。睨みを一つ聞かせると、おおこわいこわいとばかりに肩をすくめて、また前を向く。そもそもお前がしゃべんねぇからこうなってんだからな。


「そうだ…ええと…うーんと…話題が…」


「フフッ」


 一生懸命になれないことに頭を使う俺を見て、口元に手をやって上品に笑う。気まずい空気は払拭されたが、なんだか釈然としない。


「……なに笑ってんだよ」

「ごめんなさい。一生懸命考えている姿が可愛くって」

「かわいいって言うな!」

「ごめんなさいね……フフッ」

「また笑いやがった……」

「ところでセンはいくつなの?」

「……今年で十だ」

「えっ?まだ十なの?!」

「おーそうだーかわいいもんだろお」

「うっせぇ、ブナは黙ってろ!!」

「へいへい、やだやだ。王女様と話したくてしょうがないってか?」

「……おいてめぇ、本格的にやってやろうか?」

「おお怖い怖い。おじさんは退散してやるよ」


 ケタケタと笑いながら、ブナは少し前を歩く。横並びになっているエリザは横でそっぽを向いて肩を震わせている。こいつ笑ってやがるな。


「十歳?十歳なの?」

「......うん?俺か?そうだぞ」

「十歳......我慢できないわ。ブナ!いいかしら?!」「うん?なんのこ……ああ、そういやそうだったな。好きにしてくれ、噛まれないようにな」

「なんのこと言って……うわ、やめろ何すんだ」

「かわいい!!!」


  そう言ってエリザは俺のことを後ろからこれでもかとばかりに抱きつく。


「ああああ、なんて可愛いんでしょう。背丈は小さいけど、発言がしっかりしていたから私と同じ十七くらいかと思っていたけれど、まさか十歳なんて……こんな幼気な十歳が、あんな大人びた発言をしてるなんてギャップが!……しかもそれなのに年相応の強がりなんかしちゃって、もう可愛すぎるわ!!!!!」


 背中に当たる感触が妙に柔らかい。妙にいい匂いがする。包まれるその感覚にムズムズする。だけど悪い感じはしない。でも妙に気恥ずかしい。


「やめろよ!おいブナどういうことだ!!」


 ブナは理解不能とばかりに首を傾げ、両手の手のひらを天に向け、お手上げポーズだ。


「ああ、そいつなちっちゃい男の子が大層好きでなぁ。まぁ我慢しろ」

「はぁ?どういうことだよ。それ!」

「覚えとけ。王族は基本的に性癖が歪んでんだわ」

「知らんわ!!」

「でもお前の力なら、振りほどけるだろ?なのになんで振りほどかねぇんだ?あれぇさてはお前……」

「ちげぇよ、ほら!」

「あん……いけず……」

「指摘されるとムキになって抜け出すとは……怪しいなぁ?」

「セン?私にもう一回抱かれてみないぃ?」

「お前らいいかげんにしろよ?!」


 だめな大人っているんだな。そう思った。エリザに至っては頬には朱色が指し、目には力がなくてトロンとしいて、さらにはかすかに口元が光っていた。その状態で頬に手を当てるその姿は小説の挿絵にあった恋する乙女そっくりだ。そして俺の見間違いでないのならばあれはよだれなのだが......。いやまてよ、仮にも一国の王女であった彼女がそんな事するかと思って考え直したのだが。


「行けないいけない私ったら、よだれが……」


 そう言って拭う姿を見て、俺は大人を信用するのをやめることを決意した。さらに言えば、王族がちょっと信用できなくなった。


「あれはまだマシな部類だぞ」


 ブナのその俺の心を見透かしたような発言に俺はまいった。ちょっとじゃねぇ絶対信用しない。そう決めた。

でも翌々考えてみたら、あの心地の悪い沈黙を打破するために色々やっていたので丁度いいといえば丁度いい。沈黙はなくなったし、気まずさももちろんない。ただ少々エリザが近い。一歩進んだのか、後退したのかよくわからない。いやでも多分前進はしたのだろう。そう思うことにした。というかそう思わないとやってられない気がする。


もう少しでユニークが千人行きそうですね。喜ばしいことです。ありがとうございます。更新頻度がゆっくりになっていますが、おそらく途中で息絶えることはないと思いますので気長に待っていただける方はお待ち下さい。

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