第十四話 不穏な空気
「というかブナはなにしているんだ」
あの森での修行から三年が経ったある日俺はそう聞いた。俺はあの時からほとんど背丈も伸びていない。伸びろ伸びろと願っていても叶うことはない。半ば諦めてはいるのだが、それでも大きくなりたい思いは募る。
質問を受けたブナは不思議そうに目をくりくりとさせている。
「なにってそりゃ飯を食ってるんだが…」
「そういうことじゃねぇよ。肩書っていうか仕事だよ」
「言ったろ。魔物を狩ってそれを売って生活してるって」
「それが金を得る手段なのはわかっている。だけどそれだけじゃないだろ?俺たちのもとに何度ブナを狙った魔族が来たことか」
「……」
「さすがにもう隠すなよ。もう俺も歳いったし、もうそこそこ強くなった。もう隠す必要ないだろ」
ブナは押し黙る。こんな時にルミアがいてくれたならとそう思う。彼女ならばいい感じに聞いてくれるだろう。彼女は話すのは苦手だが気遣いとか気配りが上手なのだ。森で修行したあと一回しか会っていない。彼女はその後修行に励んでいるらしい。
模擬戦しようと言っても、まだだめと突っぱねられてしまった。渋々引き下がったが、どれだけ強くなったのか楽しみだ。俺もこの三年でだいぶ強くなった。並の魔物なら余裕で倒せる。ブナにはまだ敵わないが。
ブナは腹を決めたようだ。ゆっくりと話し始めようとする。俺はそれを神妙な面持ちで聞こうとした。
「やはり教えられん」
「はぁ?」
そんな仕打ちがあるか。何度も聞いているのにはぐらかされているのだ。そろそろはっきりさせてくれないと困る。
「いやこれはお前が弱いとか信用できないとかじゃない。ただお前を巻き込んじゃいけない問題なんだ」
「もう巻き込まれてるよ」
「それでもこれ以上踏み込ませるわけにはいかん」
数秒睨み合いが続く。こうなるとブナは一切聞く耳を持たなくなる。俺も頑固だが、ここまでではない。俺は諦めた。ここからブナが決定を覆したことなどない。状況が変わらない限り無理だ。
「わかったよ」
「すまん」
「あやまんなよ」
俺もこの三年で大人になった。三年前ならここで食いかかっただろうが、今は抑えることができる。
不意に『周辺探査』に変な影が映る。
「おいブナなんか大群がこっち来てんぞ…百…いや二百いかないくらいだ…誰か追われている?女?」
「おいおいそりゃ大変だ。逃げるか?助けるか?お前決めていいぞ」
「もうちょっと情報集めさせろよ」
俺はあぐらをかいて神経を集中させる。深呼吸を一つして、意識を深い水底に沈めるように集中した。
自然に頭に入ってくる情報を取捨選択する。この三年でこの精度が上がってきて、ついにはそのものの名前と経歴までわかるようになった。だがブナの経歴だけは掴めない。自分より格下にしか効果がないようだった。
数は…百六十七…紋章が反人間派閥…追われているのは…アレキサンドロス・エリザ?女王?
「おいブナ、数は百六十七…エリザっていう女王が追われているみたいなんだが…」
「なにっ!!!」
その反応は俺の予想外だった。ブナが役職とかに興味を示したことは今まで一度もなかった。とりあえず情報としていっただけだったのに。
「いくぞ!」
俺の反応を待たずしてブナは駆け出していった。
「おい待てよ!!」
『周辺探査』では相手の兵士の数は分かったが、力量までは読み取れなかった。もちろん読み取れるものもいたが、大部分は読み取れなかった。それは俺より強い奴がたくさんいるということだ。しかも上等の鎧を着ているようだ。
ふつふつと湧きあがる不安を押し込めながら俺はブナの後を追った。
自分でも短さにびびってます。




