第十三話 事後談
「おつかれ」
喜びのあまり腰を抜かした俺にトコトコと近づき、上から労いの言葉をルミアはかける。
「ああ」
それしか俺は返事できなかったが、確かな成長に少し俺は酔っていた。浸っていた。もう少しこの甘美に浸っていたかった。
そんな俺をルミアは慈悲の眼差しで見ていた。いつでもルミアの若葉色の瞳は綺麗だと思った。
「じゃあ…いこうか」
「いくってどこに?」
「ブナの元…センは…鍛錬を終えた」
「終えたって…俺は一ヶ月ここで修行しろって言われて」
「そうなの?でも…ブナはあの魔物…倒せたら…連れてきていい…って言われた」
「そん時他に何か言ってなかったか?どうせあいつには無理とか」
「…ああ…言ってた」
「あの野郎」
いらっと一瞬したがよくよく考えてみると俺がブナを出し抜いたことになる。そう考えるとむしろ気分がいい。あの調子に乗った鼻っ柱を折ってやったのだから。
「じゃあ、帰ろうぜ」
「分かった」
そうやって俺らは帰り支度をする。と言っても俺には荷物なんかほとんどない。刀とナイフだけだ。それ以外はここで調達したものだから置いていって構わない。ルミアも同じだったようだ。俺は俺より背丈の低いルミアを見る。彼女も不思議そうにこちらを見るのだが、やっぱり彼女の若葉色の瞳に見られると落ち着かない。
俺は歩き始める。俺は最初来た時恨めしく見えたこの森に感謝するような気持ちで歩いた。
「おっどうしたんだ。ルミアにセン。まさかギブアップか?なさけねぇな。がっはははは」
開口一番ブナは愉快そうに笑ってのける。俺はやっぱりイラッとした。久しぶりに会うからどう接しようかなんて考えていたのがバカみたいだ。いやバカみたいじゃなくてバカそのものだ。
口で説明しても面倒だろう。ルミアが説明しようとしたが俺はそれを手で制して、刀を抜いた。
「お、お、なんだやる気か?いいぜやろうぜ」
俺は大きく息を吸い込んで止めた。視界が良好になり、見えるもの全てのスピードが遅くなる。『周辺探査』の効果もあるのだろう。周囲の状況が完璧に見える。
ブナはニタニタ笑うのをやめた。俺の森に入る前のオーラとは違ったのだろう。少し警戒しているようだ。
俺は刀を振るった。すべてが止まって見えるはずだった。俺の見える世界のすべてが止まるはずだった。あの熊魔物を倒した時には世界が止まった。だけどそんな世界でブナだけが唯一動いていた。俺は自分の速さに対応されたのだと肌で感じた。
「がきん!!!」
重い鉄と鉄が交錯する。その音は冗談ではないほど大きく、不快だ。その重い感覚にブナの強さと自分の斬撃の強さを感じた。
「おいおいおいおいマジかよ。やっぱりお前尋常じゃねぇな」
「尋常じゃない俺の刀を悠々と受け止めてる奴は一体なんて呼べばいいんだ」
「はっはっは、そりゃ怪物とでも呼んでくれっ」
鍔迫り合いの状態からブナは膂力で俺を吹き飛ばした。想定していた俺は受け身を取りながら、体勢を立て直す。
やっぱり強い。底が見えない。これだけ修行してもなお限界が見えないのは本当に怪物としか言いようがない。
「この上達のしようはあの主を倒したってことか、そりゃめでてぇ。いいことだ。よくやったなぁセン」
俺に近づくとガシガシと俺の頭を無造作に撫でた。俺はうれしかったが素直に慣れずその手を弾いた。
「おおっ、つれないねぇ」
そんなことを意にも介さない。途端にブナは首を傾げ始める。俺とルミアは不思議に思い、ブナを見つめた。何かあったのだろうか。
「というかあの速さ。もしかして嬢ちゃん負け…
「それ以上言ったら私も怒る」
ルミアは全身から怒気を発している。顔は悪鬼羅刹のようになっている。怖い。ルミアのあんな怒っているのを初めて見た。ほほをふくらませるなんて可愛いレベルの怒り方じゃない。寝ているところを叩き起こされてブチギレたみたいなキレ方だ。
「悪い悪い嬢ちゃん。冗談だ」
「二度と…そんなことは…言ってはいけない」
「勝てるようにまた師匠に一から稽古つけてもらえ?」
「ブナ!」
ブナはケタケタと楽しそうに笑っている。俺だけが取り残されている感じにちょっと疎外感を覚える。ルミアの師匠なんか知らないし。
「まぁともかく修行お疲れ。話を聞かせてくれや」
ブナはどっかりと焚き火のそばに腰を下ろした。俺もルミアも何も言わずに近くに座った。話したいことはたくさんあった。死にかけたことからめちゃくちゃ素振りしたことまで。俺は疲れるまで話した。その全てにブナは楽しそうに手を打ちながら聞いてくれた。ルミアも途中で茶々を入れながも楽しそうに聞いてくれた。なんだか包まれているようで温かった。




