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カードに柊呂が乗っ取られた時、柊呂は多少なりとも意識があったらしい。
女性を救えなかった事と、仲間に暴行を加えた事を深く反省した柊呂は、ひとつの結論を出した。
「カードが使えないよう、燃やす……うっせえなあ!」
言った柊呂が声を荒げたのは、カードと対話をしているからだろう。
カードの力が使える者達はそれがどれほどの葛藤なのか、わかっている。
同様に、誰もがカードと対峙し始めた。
「ハナ子……」
「春菜さん」
ハナ子は状況がわかっているのに、きっちりと名前を呼んでくれた。
「カードを燃やすって事は、ハナ子が消えちゃうって事だよね?」
「はい」
あっさりした答えに、春菜は余計に寂しく感じた。
「ハナ子はそれで良いの? 本当は人になりたかったんでしょ?」
「そうですね……」
少し考えるような言葉を言うハナ子。
「春菜さんを通して見た、人というものは、思っていたよりも大変でした。学んで試験をして、学んで怒られて、誰も教えてくれない事もたくさんあって、それを自分で探し求めていって、でも結論はなかったりして……人間は本当に大変です」
「そうだね」
春菜は思わずくすっと笑ってしまった。それはハナ子がとても人らしい事を言うからだった。
「ただ、一つだけわかった事があります」
「何?」
「夢は自分の力で叶えるものであって、私たちが力を授けるものではないのですね」
「……ハナ子」
まっとうな事を言うハナ子の言葉を、春菜は深く心に刻んだ。
「春菜さんは私の力を頼らずとも、願っていた花屋で働き、その苦労を学んだ。それは私たちが力を与えてしまっては学べない事で、また、私たちが授けた力とも異なります」
一度ハナ子は言葉を区切ってから続けた。
「人間はそうやって苦労しながら生きていくものなのですね。私にはそれは出来ません。例え春菜さんの体を借りたとしても、継続は出来ないでしょう。人間とは大変であり、だからこそとても強い」
「そうかな? あまりそんな深く考えた事なかったけど……」
春菜は少し照れながらも周りを見渡した。
カードと対峙しているみんなは、最後の話し合いをしているようで、独り言のようにカードに言葉を掛けていた。
その一人ひとりを思い浮かべる。
「でもみんな、強くなった気がする。ふうちゃんは守られる立場から守る立場へ、ヒイロは自分の行いを素直に反省して行動を起こしみんなを巻き込んでくれた。しゅうちゃんはイレギュラーも認められるようになってて、てっぺいは自分の夢を再度掴んだ。ほずみんは興味無さそうな感じだったのに、ちゃんと助けてくれた。まあやちゃんはあまり怒鳴らなくなったし、むらちゃんは色んな人の面倒を見てくれる。もっちーは面識もない私達を救おうと必至になってくれた。みんな、夢を描いたカードの力によって大変な事もあったけど、すごく強くなったっ!」
「春菜さんは優しいですね」
ハナ子は穏やかな口調で春菜の考えを受け取った。
「私もそうだよ。ハナ子が居てくれたからガンバれた事がたくさんある。勉強もアルバイトも人付き合いも、みんなみんな、ハナ子のおかげ。こんなにかけがえのない仲間に出会えたんだもん! 最高だよ!」
思わず大声で言ってしまった春菜に、みんなの視線が集まった。
照れ笑いをする春菜に対して、誰もが口々に同意の言葉を述べて頷いた。
「ハナ子、今までありがとね。ずっとずっと、忘れないから」
「はい。ありがとうございます。お別れですね」
「うん……本当にありがとう。さようなら」
「さようなら、春菜さん」
静かにお別れの言葉を言った春菜の緑の目から涙が流れた。
それは自分の感情ではないもう一つの感情。
カードのハナ子が泣いているのだ。
春菜はぐっと唇を噛み締めて、何度も「ありがとう」を心の中で繰り返し、唐草のタトゥーが入った手を、同じようにタトゥーが入った頬に寄せた。
「戻れ」
タトゥーは淡い緑の光の粒子となり、その頬と掌に収まるようにして、カードの形へと戻った。
まだ会話が出来るのに、春菜はそれ以上語り掛ける事はなかった。
会話を終えたみんなが次々に押し黙る。
そして夢を形にした物を手にする。
「みんなのそれは、まあやの神社に奉納して供養するさかい、心配あらへん」
真綾が自分の御札をみんなにピラピラと見せた。
「カードと御札は、柊呂が言うように焼き灰にして、アクセサリーと同じ所に、真綾しかわからへん所に埋める。せっかくやから、年に一回でもお参りに来いや。今度は関西旅行や!」
それは真綾たちが、人に在らざる力を感じて関東に旅行に来た事の、逆を言っているようだった。
関東の六人は納得し、真綾にカードを託した。
「じゃあ、お願いするね」
受け取った真綾は深く頷き、着物の胸にカードを仕舞った。
「……まあやはちゃんはてっきり、第二段階まで御札を進化させて巫女姿なのかと思った」
みんながカードの力を収め、武装を解除しても真綾の姿だけは戻らなかった。
その事を風羽子が気にして言ったのだった。
「ちゃうわ! 神社の手伝いしとったんや。ほんなら徹平から連絡あって、助けて欲しい言うから、」
「それで関西から、文字通り“飛んでくる”とは」
秀平が感心して言うと、穂純がにこやかな笑顔で付け加える。
「これも愛ゆえでしょうかねえ」
「はあ!?」
「そんな事あらへん!!」
真綾と徹平が顔を真赤にして否定した。
からかうように、みんなが真綾と徹平にあれこれ言っている中、柊呂がぽつりと春菜に言った。
「ハル、本当に良いのか? オマエら結構、仲よかったじゃん」
「うん。でも良いんだ」
微笑んでみせる顔は少し我慢しているようにも見えた。
「ハナ子の力が無くても、自分でしっかり生きてみせる!」
「そっか。そうだな」
仲間を傷つけた事で沈んでいた柊呂の表情が、少し明るくなった。
「……でさあ、前々から思ってたんだけど」
少し言いにくそうに柊呂が口を開く。
「“ハナ子”って名前、どうなの? ハルって、ネーミングセンス、ねえな」
「えええええ!? うそっ!? 可愛いじゃん!」
「あ、それ。俺も思ってた」
二人のやり取りに参加したのは、徹平だった。
みんなの冷やかしから抜け出したかったのだ。
「せやせや! まあやも思っとった!」
便乗して真綾が言うと「相思相愛ですね」と、穂純が更に茶化すように言う。
そんなやり取りを笑っていた風羽子に、春菜が必死に問い掛ける。
「ふうちゃんもそう思う!? 変!?」
「あ……いや、その……ハルちゃんらしくて良いと思うよ」
なんだか歯切れの悪い言い方だが、春菜にとっては肯定されたので、気持ちを持ち直せた。
「つうか、そもそもカードに名前なんてつけんなよ」
「つけるでしょ!」
「いやー?」
誰もが否定的な言葉を発するが、春菜は頑としてそこは譲らなかった。
「愛情が違うんです!!」
春菜がムキになればなるほど、みんなは一様に笑い合っていた。




