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勇者なんかじゃない  作者: ゆきや
第4章
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28

 春菜の言葉を聞き入れたハナ子は、帽子やグローブ、ブーツを光の粒子に戻して、春菜の体にタトゥーとして現れた。


「そんな……」

「春菜まで」


 愕然とする二人に、春菜は振り返ってVサインを送る。


「大丈夫。半分だけだから」


 えへっと笑う表情はいつもの春菜だ。

 しかしその顔の半分には唐草のようなタトゥーが広がり、片目だけ緑色に光っていた。


「半分?」

「そんな事、出来んのかよ……」


 春菜はカードに乗っ取られても、柊呂が止められるならそれでも良いと考えていたが、一方、ハナ子の方は違っていた。


 人の体を乗っ取った先にあるものが、幸福だと思えなかったからだ。

 それはハナ子が春菜を通して学習した事。


 だから、力を求める春菜と交渉した。


 力を半分与える代わりに、意識を半分だけ残す。

 春菜の体の半分にタトゥーが現れ、片方の眼だけ緑になったのはそのせいだった。


「ハナ子、行こう」

「はい」

 一人二役をしているような春菜は、今までのように武装はしていないのに、それよりも早い速度で駆け出した。


「春菜さん!?」

「ハルちゃん!!」

「春菜!」


 戦っていた風羽子と持国、秀平が驚いて春菜を見ている。


「大丈夫です。春菜さんは半分、居ます」


 緑色の眼光を鋭く、柊呂を見ていた。


「なにケチケチしてんだよ。全部乗っ取っちゃえよ」


 軽く笑いながら、柊呂は春菜以外をあっさりと弾き飛ばした。


「ぐはっ!」

「きゃあ!」

「うわああ!」


 飛ばされた三人に対し、直ぐに紫が救護に向かう。


「ほんま、信じられへん!! 人間はそない簡単に人を殴らんよお!?」

「ご忠告、どーも」


 怒る紫に対して、柊呂はやる気のない返事を送り、半分だけカードに乗っ取られた春菜を見る。


「何で半分なんだよ」

「春菜さんと一緒に、貴方を封じるためです!!」


 声を張り上げた春菜が、唐草の絡み付く手を柊呂にかざす。

 柊呂は一瞬で距離を取り、春菜から逃げてしまった。


「あっぶねえなあ!」

「こら、待てえっ!!」


 声色がコロコロ変わる春菜を、みんなが唖然として見ている。


 その逃げ惑う柊呂の動きが一瞬で止められてしまった。


「ほずみん!!」


 結界の中に現れたのは穂純だった。

 何かを握っているような仕草で歩いている。


「本当に君たちは五月蝿いですねえ! 何でうちの近所でこんな大騒ぎを起こしているんですか!」


 現れた早々に怒っている。


「誰やん?」

「こっちのカードの最後の所有者。呆然としてたから信じてないのかと思ったけど、力が発動出来たみたいだな」


 紫の疑問に、手当てをされている秀平が答えた。

 そして風羽子がカードの絵柄を思い出す。


「わかりやすい夢だったもんね」


 穂純の持つカードはバイオリンの絵柄が描かれたもの。

 バイオリニストを目指している事が容易に知れる。


「そんなんじゃ無理だって」


 捕まった柊呂はヘラっと笑うと、何かを口の中で唱え、自分を拘束している線に火をつけた。

 それは穂純が握り締めている中へと真っ直ぐに進んでいく。


 穂純は炎が自分に到達する前に手を離して、危険を回避した。


「ホズミですら力が発動してんのに、俺は……」


 突然現れてくれた戦力の穂純に対して、徹平は未だに力を発揮出来ず、こんなにも大勢の人の助けを呼ぶ事になった。それを悔やんでいた。


「徹平……」


 真綾は掛ける言葉が見つからず、名前を呼ぶだけだった。

 同じように徹平を呼ぶ人間が居た。


「徹平!! まだウジウジと自分の事がわからずにいるのですか!?」

「なっ!?」


 悩んで結論が出せないままでいる徹平に、穂純が容赦なく言葉の刃を突きつける。


「貴方の夢は宇宙飛行士でしょう! ボクに再三ロケットを押し付けて、憧れを話していた本人が忘れ、刷り込まれたボクが覚えているのは、納得出来ません!!」

「ちっ、おまえ、後から出てきた割に、余計な事言うなよ!」


 緑目の柊呂が不満そうに穂純を見て言った。


「戦力は少しでも多い方が良いですからね!」


 何かを企むようにふふっと笑った穂純。

 心強いようでありながら、敵に回すと面倒なタイプだとわかる。


 徹平は穂純に言われ、自分のカードを見つめた。


「思い出したん?」


 真綾が徹平に問い掛ける。


「ああ……うん!」


 徹平の顔が見る見ると晴れていく。


「そうだ、俺、宇宙飛行士になりたかったんだ! それをアニキが出来ないって、真っ向から否定するから、俺は、俺は……アニキ!!」


 思い出した途端、徹平は声を張り上げて秀平を呼んだ。

 誰もがわかり得なかった絵は、宇宙を表したものだったのだ。


「全部、アニキのせいじゃねえか!! 俺はどんなに否定されても、宇宙飛行士になってやる!!」


 その言葉が宣言であるかのように、徹平が手に持っていたカードが光の粒子となった。

 そして全身をピッタリとした宇宙服のような物で覆われる。


「何か凄い事、言うてるんやけど?」

「なん? しゅう兄、喧嘩しとったん?」


 事情がわからない関西の二人が、怒りの矛先である秀平を見た。


「しゅうちゃん、あんまり押し付けはダメだよ」


 こんな時でも、風羽子はふんわりと笑って、秀平に苦言した。


「ああ、そうだな」


 秀平は、自分の足でしっかりと立ち戦う姿勢を取っている徹平の姿を見て、納得した。


 ただ、その徹平は地面から足が離れ、宙を漂いはじめた。


「おいおい、何や、あれ……」

「浮いてるね」


 持国と風羽子が驚いて徹平を見る。


「宇宙飛行士っちゅう事は、重力が関係あらへんって事やない? さあ、あんたらもぼさっと見とらんと、行って来いや!」


 処置を終えた紫が秀平、風羽子、持国の三人を叩く。


 叩かれた持国は紫を見て、キリッと表情を引き締めた。

 そして紫の手を、両手で握り締める。


「無事に生きとったら、今度こそ結婚してえな」


 突然のプロポーズに風羽子と秀平が唖然とする。

 しかし紫は慣れたもので、パッと手を離して、代わりに持国の肩をどついた。


「アホか。死ぬわけあらへん」

「ええー、死ぬかもしれへんやろ!?」


 それでも食い下がる持国。

 まるでコントのようなやり取りに、思わず現状を忘れてしまいそうになる。


「きゃあああっ!」


 四人は春菜の悲鳴で現実に戻された。


「さっさと行かんかい!!」

「はい!」


 紫に活を入れられた三人は返事をして立ち上がり、仲間であったはずの柊呂を見た。


「何なに? みんなで寄ってたかって弱い者いじめ?」


 そんな時でもヘラヘラしている柊呂に、春菜の腹の虫が暴れ出す。


「ヒイロは弱くないでしょ!!」

「たとえ強い相手でも、一斉攻撃なら耐えられないでしょうね」


 言った矢先、穂純がバイオリンの弦を出し、柊呂を拘束した。


 直ぐに呪文を唱えて炎を出そうとする柊呂の口に、風羽子がロールケーキを入れてしまうと、柊呂は甘い物が苦手なので、一瞬で嫌そうな顔になった。

 持国がタックルをして柊呂を動けなくすると、宙に浮いている徹平が手をかざして、柊呂の重力をコントロールする。

 柊呂の足が地面に少しめり込んだどころで、秀平が木槌で柊呂の頭を軽く打った。

 柊呂は何も音を発する事無く、ぐったりと持国に倒れ込んで、口に入れられたロールケーキを吐き出した。


 自分よりも大きな体の高校生を支えきれなくなった持国は、柊呂をその場に寝かせると、半分だけカードに乗っ取られた春菜が近付き、膝を着いた。


「ごめんね、ヒイロ」


 春菜は柊呂のトライバルタトゥーに手をかざし、「戻れ」と小さく言って、五秒の後、柊呂の体からタトゥーは消え、代わりに胸の上にカードがポンと現れた。


 なんともやるせない感情がその場に残った。



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