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春菜の言葉を聞き入れたハナ子は、帽子やグローブ、ブーツを光の粒子に戻して、春菜の体にタトゥーとして現れた。
「そんな……」
「春菜まで」
愕然とする二人に、春菜は振り返ってVサインを送る。
「大丈夫。半分だけだから」
えへっと笑う表情はいつもの春菜だ。
しかしその顔の半分には唐草のようなタトゥーが広がり、片目だけ緑色に光っていた。
「半分?」
「そんな事、出来んのかよ……」
春菜はカードに乗っ取られても、柊呂が止められるならそれでも良いと考えていたが、一方、ハナ子の方は違っていた。
人の体を乗っ取った先にあるものが、幸福だと思えなかったからだ。
それはハナ子が春菜を通して学習した事。
だから、力を求める春菜と交渉した。
力を半分与える代わりに、意識を半分だけ残す。
春菜の体の半分にタトゥーが現れ、片方の眼だけ緑になったのはそのせいだった。
「ハナ子、行こう」
「はい」
一人二役をしているような春菜は、今までのように武装はしていないのに、それよりも早い速度で駆け出した。
「春菜さん!?」
「ハルちゃん!!」
「春菜!」
戦っていた風羽子と持国、秀平が驚いて春菜を見ている。
「大丈夫です。春菜さんは半分、居ます」
緑色の眼光を鋭く、柊呂を見ていた。
「なにケチケチしてんだよ。全部乗っ取っちゃえよ」
軽く笑いながら、柊呂は春菜以外をあっさりと弾き飛ばした。
「ぐはっ!」
「きゃあ!」
「うわああ!」
飛ばされた三人に対し、直ぐに紫が救護に向かう。
「ほんま、信じられへん!! 人間はそない簡単に人を殴らんよお!?」
「ご忠告、どーも」
怒る紫に対して、柊呂はやる気のない返事を送り、半分だけカードに乗っ取られた春菜を見る。
「何で半分なんだよ」
「春菜さんと一緒に、貴方を封じるためです!!」
声を張り上げた春菜が、唐草の絡み付く手を柊呂にかざす。
柊呂は一瞬で距離を取り、春菜から逃げてしまった。
「あっぶねえなあ!」
「こら、待てえっ!!」
声色がコロコロ変わる春菜を、みんなが唖然として見ている。
その逃げ惑う柊呂の動きが一瞬で止められてしまった。
「ほずみん!!」
結界の中に現れたのは穂純だった。
何かを握っているような仕草で歩いている。
「本当に君たちは五月蝿いですねえ! 何でうちの近所でこんな大騒ぎを起こしているんですか!」
現れた早々に怒っている。
「誰やん?」
「こっちのカードの最後の所有者。呆然としてたから信じてないのかと思ったけど、力が発動出来たみたいだな」
紫の疑問に、手当てをされている秀平が答えた。
そして風羽子がカードの絵柄を思い出す。
「わかりやすい夢だったもんね」
穂純の持つカードはバイオリンの絵柄が描かれたもの。
バイオリニストを目指している事が容易に知れる。
「そんなんじゃ無理だって」
捕まった柊呂はヘラっと笑うと、何かを口の中で唱え、自分を拘束している線に火をつけた。
それは穂純が握り締めている中へと真っ直ぐに進んでいく。
穂純は炎が自分に到達する前に手を離して、危険を回避した。
「ホズミですら力が発動してんのに、俺は……」
突然現れてくれた戦力の穂純に対して、徹平は未だに力を発揮出来ず、こんなにも大勢の人の助けを呼ぶ事になった。それを悔やんでいた。
「徹平……」
真綾は掛ける言葉が見つからず、名前を呼ぶだけだった。
同じように徹平を呼ぶ人間が居た。
「徹平!! まだウジウジと自分の事がわからずにいるのですか!?」
「なっ!?」
悩んで結論が出せないままでいる徹平に、穂純が容赦なく言葉の刃を突きつける。
「貴方の夢は宇宙飛行士でしょう! ボクに再三ロケットを押し付けて、憧れを話していた本人が忘れ、刷り込まれたボクが覚えているのは、納得出来ません!!」
「ちっ、おまえ、後から出てきた割に、余計な事言うなよ!」
緑目の柊呂が不満そうに穂純を見て言った。
「戦力は少しでも多い方が良いですからね!」
何かを企むようにふふっと笑った穂純。
心強いようでありながら、敵に回すと面倒なタイプだとわかる。
徹平は穂純に言われ、自分のカードを見つめた。
「思い出したん?」
真綾が徹平に問い掛ける。
「ああ……うん!」
徹平の顔が見る見ると晴れていく。
「そうだ、俺、宇宙飛行士になりたかったんだ! それをアニキが出来ないって、真っ向から否定するから、俺は、俺は……アニキ!!」
思い出した途端、徹平は声を張り上げて秀平を呼んだ。
誰もがわかり得なかった絵は、宇宙を表したものだったのだ。
「全部、アニキのせいじゃねえか!! 俺はどんなに否定されても、宇宙飛行士になってやる!!」
その言葉が宣言であるかのように、徹平が手に持っていたカードが光の粒子となった。
そして全身をピッタリとした宇宙服のような物で覆われる。
「何か凄い事、言うてるんやけど?」
「なん? しゅう兄、喧嘩しとったん?」
事情がわからない関西の二人が、怒りの矛先である秀平を見た。
「しゅうちゃん、あんまり押し付けはダメだよ」
こんな時でも、風羽子はふんわりと笑って、秀平に苦言した。
「ああ、そうだな」
秀平は、自分の足でしっかりと立ち戦う姿勢を取っている徹平の姿を見て、納得した。
ただ、その徹平は地面から足が離れ、宙を漂いはじめた。
「おいおい、何や、あれ……」
「浮いてるね」
持国と風羽子が驚いて徹平を見る。
「宇宙飛行士っちゅう事は、重力が関係あらへんって事やない? さあ、あんたらもぼさっと見とらんと、行って来いや!」
処置を終えた紫が秀平、風羽子、持国の三人を叩く。
叩かれた持国は紫を見て、キリッと表情を引き締めた。
そして紫の手を、両手で握り締める。
「無事に生きとったら、今度こそ結婚してえな」
突然のプロポーズに風羽子と秀平が唖然とする。
しかし紫は慣れたもので、パッと手を離して、代わりに持国の肩をどついた。
「アホか。死ぬわけあらへん」
「ええー、死ぬかもしれへんやろ!?」
それでも食い下がる持国。
まるでコントのようなやり取りに、思わず現状を忘れてしまいそうになる。
「きゃあああっ!」
四人は春菜の悲鳴で現実に戻された。
「さっさと行かんかい!!」
「はい!」
紫に活を入れられた三人は返事をして立ち上がり、仲間であったはずの柊呂を見た。
「何なに? みんなで寄ってたかって弱い者いじめ?」
そんな時でもヘラヘラしている柊呂に、春菜の腹の虫が暴れ出す。
「ヒイロは弱くないでしょ!!」
「たとえ強い相手でも、一斉攻撃なら耐えられないでしょうね」
言った矢先、穂純がバイオリンの弦を出し、柊呂を拘束した。
直ぐに呪文を唱えて炎を出そうとする柊呂の口に、風羽子がロールケーキを入れてしまうと、柊呂は甘い物が苦手なので、一瞬で嫌そうな顔になった。
持国がタックルをして柊呂を動けなくすると、宙に浮いている徹平が手をかざして、柊呂の重力をコントロールする。
柊呂の足が地面に少しめり込んだどころで、秀平が木槌で柊呂の頭を軽く打った。
柊呂は何も音を発する事無く、ぐったりと持国に倒れ込んで、口に入れられたロールケーキを吐き出した。
自分よりも大きな体の高校生を支えきれなくなった持国は、柊呂をその場に寝かせると、半分だけカードに乗っ取られた春菜が近付き、膝を着いた。
「ごめんね、ヒイロ」
春菜は柊呂のトライバルタトゥーに手をかざし、「戻れ」と小さく言って、五秒の後、柊呂の体からタトゥーは消え、代わりに胸の上にカードがポンと現れた。
なんともやるせない感情がその場に残った。




