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「どういう事だ!」
「どういう事、ハナ子!?」
春菜が大声で聞くのと同じように、秀平も自分のカードと対峙していた。
【そのままの意味です】
「そう言う事を聞いてるんじゃないよ!! 何で、何でカードがヒイロの体を乗っ取ろうとするの?! 何で! 何で!?」
春菜は怒りを顕にして憤慨した。
受け入れがたい現実を拒否していた風羽子は絶望したまま、目を見開いて涙を流している。
「ハル、フーコ……どうしたんだよ?」
怒る春菜と泣く風羽子。
カードの声が聞こえない徹平が、二人の変化に驚いて声を掛ける。
そして秀平を見ると、秀平は沈痛な面持ちで眉間を指でつまんでいた。
何かを思い悩む姿は心当たりがある。
自分が不登校となった時、家族がよくリビングで話しをしていた。
そんな時、秀平は大抵、こうやって考え事をしていた。
「アニキまで何だよ? 何が起こってるんだよ!! 教えろよ!」
あの時の事を思い出してしまい、徹平は訴えるように秀平へと問い掛けた。
あの時、自分もその話し合いに参加していたら状況は変わっていたかもしれない。
除け者にされ、勝手にまとめられて、その結果を押し付けられる。
もう、そんな思いはしたくなかった。
秀平は徹平の問い掛けに、包み隠さず説明してくれた。
「カードにはレベルが三段階あるらしい。最初はカードとして持ち主に使われる状態。次が装飾品として武装出来て、持ち主と同等になる状態。そして最後は……」
言葉を切って秀平が前方を見据えると、他の三人も気配を感じて同じように前を見た。
そこには薄ら笑いを浮かべている柊呂が居た。
「カードが持ち主を乗っ取る状態。つまりアレは、柊呂の皮を被った、カードだ」
「そんな……」
愕然とする徹平に対し、三人は身構える。
「いきなりぶち込んで来るとか、いい度胸してんなあ」
ヘラヘラとした笑みを浮かべて、緑目の柊呂が秀平に言ってきた。
秀平は覚悟を決めるように一度、眼鏡を押し上げ、巨大な木槌を構える。
「そりゃあ、相手が勇者様だから、手加減は無用かと思いまして」
秀平は三人を守るように、柊呂の前に立った。
「そりゃいいね。まだこの体にゃ慣れてねえから、良い運動が出来そうだ」
ニタッと笑いながら肩を回して準備運動を始める柊呂。
そんな顔を一度も見た事がない春菜は、背筋が凍る思いがした。
「けええええええっ、かああああああい!!!」
「うひゃああ!」
「わああああ!」
今にも戦いを再開させようとする状況の中、上空から三人の人間が降ってきた。
周りは一瞬で赤と白と黒の世界に閉ざされる。
「まあやちゃん! むらちゃん!!」
三人は風羽子が用意したシフォンケーキの上にぽんと着地した。
「うっは、ケーキや、ケーキ!!」
「はあ、ホンマしんどお……もう、あかん。あかんで」
訴えた少年がシフォンケーキの上に突っ伏した。
「だ、誰?」
見た事のない人物に動揺して、春菜が聞く。
「北野持国、中学二年生。ヒーローの力を持つ子で、帝の弟や。……変身!!」
紹介してくれた日下部紫はヘアピンを十字に構えて看護師の格好になった。
「この前はアニキが世話んなって、ありがとさん」
ニカッと笑顔を作って片手を上げる持国。
その表情は帝そっくりだった。
兄弟というのも納得出来る。
しかしまだあどけなさの残る顔や外ハネにさせた茶髪は、どうも柊呂の中学生時代を思い出させる。
その持国は直ぐに力尽きた。
その背中に、紫が容赦無く巨大な注射器を突き刺す。
そして何かを注ぎ込んでいた。
真綾は巫女の格好をしていた。
膝立ちで周りの状況を確認する。
「まあやちゃんに、むらさきさんまで……何で?」
突然、空から関西の人間が降ってくるとは思わなかったのはみんな同じだった。
風羽子の口に出した疑問を、紫が説明してくれる。
「てっぺーから、まあやの所にヘルプの連絡が入って、遠路はるばる助けに来たっちゅうわけや。ただ、こっちも東京まで飛んで来れる方法は、もちのヒーローの力だけやらか、両手に一人ずつで、最大三人までしか来られへん。せやから、バトル要因より、援護のまあやとうちが来たっちゅうわけや。こいつはそのうち復活させたるさかい、それまで耐えてやあ」
「ああん、紫姐さん、もっとお」
「こんの、変態が!」
紫の注射針を刺された事がある春菜は、痛さを思い出して、とっさに頭を抑えた。
それを難なく受け入れただけでなく、看護師姿の紫に足蹴にされているのに喜ぶ持国。
みんなの中で、持国が少し変わった人間であり、紫を溺愛している事がよくわかった。
「あれが、柊呂なんか?」
真綾には見慣れた光景なのだろう。
紫と持国の事は気にせず、薄ら笑いを浮かべている緑目の柊呂を見た。
現実に戻された春菜が答える。
「そう。カードに体を乗っ取られた、ヒイロ……」
何でそんな事をするのか、理由を聞いてしまった春菜は恐怖で体が震えた。
自分もいつ、そうなるかわからない。
ハナ子との信頼関係の崩壊は、確実に刻一刻と迫ってきている。
地中に埋められ、力を得たカードは意志を持ち、自由になれる肉体が欲しくなった。
最初はカードを描いた人物としかコンタクトが取れない。
それが、カードを持つ者の願いが強いほど力を増し、形態を変化させて、他ともコンタクトが取れるようになり、更に強い力を求めた事により、いよいよ体を乗っ取る事が出来るほどの力を手に入れる事が出来た。
そして柊呂はカードに体を乗っ取られてしまった。
どのカードもそれを最終目的にしているという真実。
「なんか違うけど、似たようなのが来たな」
ニタニタとした笑顔を空から降ってきた三人に向けた柊呂。
その意識を自分に引き付けるため、秀平は問答無用で襲いかかった。
「せいっ!!」
「あっぶねえ。人間って怖いなあ」
そう言いながらも、秀平が全力で振りかざしている木槌を、いとも簡単に掌で制している。
力の違いは歴然だった。
「徹平! 紫を、危害を加えられた人の所に案内したってやあ! 風羽子と春菜は秀平の援護を! 持国が何とか復活するまで、何とか!!」
「了解! ほな、行こか!!」
「任せろ!」
返事をした徹平と紫は結界の中から飛び出して行った。
春菜と風羽子は視線を合わせて頷くと、風羽子は泡立て機でボールを数回かき混ぜ、それを柊呂に向けた。
「ヒイロくん、ごめんね! ゼリー漬け!!」
あっという間に透明なゼリーの中に閉じ込められた柊呂に、春菜が場違いな声を出す。
「あ……ちょっとうらやましいかも」
「……ごほん!」
「あ、うそうそ!」
真綾の冷たい視線と咳払いに取り繕った春菜は、直ぐに柊呂に近付いた。
そして風羽子が作ったゼリーの周りに種を蒔く。
春菜に合図された秀平が下がると、春菜は種に向かって掌をかざした。
「大きくなあれっ!!」
かざした手を上空に一気に振り上げると、何もない地面からにょきにょきと芽が生え、小さな木が絡みあうように一本の巨大な木となって、柊呂を覆い隠してしまった。
「取り敢えず……どうする?」
柊呂が動けない状態になったのは良いが、この先をどうするか考え無くてはならなかった。




