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〈第4章〉
徹平はしばらく柊呂の家で暮らしていたらしい。
秀平も反省したらしく、親を説得し、柊呂に徹平を預けた。
徹平は学校に行けるまでにはならなかったが、柊呂の夜の巡回には同行し、時には春菜や風羽子も一緒になって、悪いとされている人物の検挙を繰り返していた。
その中で、柊呂はカードの段階を上げる事に成功し、全身黒光りする甲冑を身に纏った勇者となった。
その登場シーンはさながら戦隊物に見え、カードと話す事すら出来ない徹平にとって、柊呂は憧れの存在となる。
そんなある日の夜、悲痛な叫びが春菜の携帯端末から響いた。
『ハル! ハル! 大変だ!! ヒーロがおかしい!! 何か、変なのになっちゃった!!』
相手は徹平だった。
今夜、春菜は巡回に参加しなかった。
明日までにやらないといけない宿題があり、付き合っている場合ではなかったのだ。
『助けて、ハル!!』
「てっぺい、何があったの!? 今どこ!?」
良からぬ事が柊呂に起きていると感じ取った春菜は、直ぐ様ペンを置き、立ち上がった。
『こ、公園!! 前にみんなで迷子になった広い所! 見つかったら殺される!!』
「ええ!?」
身の危険を“死”というもので表現した事に驚き、春菜は目的地である公園を思い出した。
そこは幼かった頃みんなで探検し、迷子になり途方に暮れた場所だった。
今でも少し迷子になりそうなほど、広い公園。
徹平はそこに柊呂と居るのだった。
しかし、共に戦う立場である柊呂が徹平を襲っているような口ぶりに、春菜は身の毛がよだった。
「わかった! とにかく隠れてっ! 直ぐに行くから!!」
春菜は親に適当な言い訳をして、家を飛び出した。
「ハナ子、ヒイロの所に急いで!!」
【はい】
ブレスレットが光の粒子となり、帽子と手袋とブーツに変化する。
目的地に移動する間、風羽子と秀平にも連絡を取り、応援を頼む事にした。
生身の徹平が太刀打ち出来ないのはわかるにしても、柊呂の戦闘能力と春菜の力ではどちらが勝者になるかは明確。
加勢は多いほど良い。
到着した公園に人気は無く、すぐには二人を見つける事が出来なかった。
急いで来た風羽子と秀平に遭遇したところで、ようやく“おかしなヒーロ”を見つける事が出来た。
「アニキ! みんな!!」
木の影から徹平が大声で三人を呼び止めた。
徹平が、身の危険を感じて逃げていた事がわかる。
「ハナ子、私たちを木の上に!」
【はい】
春菜が命じて自分たちを安全な場所へと移動させて行く間、秀平は自分のカードを武器化させた。
風羽子も同じようにしたかったが、高所恐怖症のため脚が震え、春菜にしがみ付くしか無かった。
春菜は震える風羽子を抱きかかえ、身構える。
四人は木の上から、変わってしまった柊呂を見つめた。
その声は夜中だからこそ、はっきりと聞こえる。
「あーっはっはっ!! やったぞ、やった! ついに肉体を手に入れた!! これで自由だ!!」
第二変形の黒の鎧姿ではない。
むしろ普段着と何ら変わらないように見える。
しかし頬や首、腕と、肌が見えているところにはトライバルタトゥーのような模様が浮き出ている。
その上、口調までもが別人のようになってしまった柊呂を、風羽子が確認するように言った。
「あれ、ヒイロくん……だよね?」
「そう、ヒーロ。だけど何か変じゃねえ!? 肉体を手に入れたとか、頭おかしくなったよ、絶対。しかもあのタトゥーみたいなの、突然出てきたんだ!!」
風羽子の心配を肯定した徹平に、秀平が聞く。
「何があったんだ?」
春菜と風羽子が食い入るように徹平を見る。
徹平は事情を話し始めた。
いつものように悪い人が居ないかと、夜の巡回をしていたらしい。
公園で女性の悲鳴が聞こえて、柊呂と徹平が駆けつけた時には、女性が暴行を加えられた状態でぐったりしていて、周りに居た男たちが原因だと二人は直ぐに察した。
カードの力を使った柊呂が女性に暴行した男たちをやっつけようとした時、女性に変化が起こった。
女性が動かなくなってしまったのだ。
男たちが口々に「死」という言葉を発した事がきっかけで、柊呂の中で何かが切れてしまったらしい。
突然怒号を上げ、黒の鎧が粒子へと変化し、タトゥーとなって柊呂の体に張り付いた。
ただそれだけなら良かった。
柊呂は無言で男たちに片手を振り降ろした。
たったそれだけで男たちは薙ぎ倒され、意識を失ってしまう。
徹平はとにかく逃げないといけないと感じ、直ぐに木の影に隠れて春菜に電話をしたのだった。
「じゃあ、やっつけられた奴らと女性は!?」
秀平が最初の目的であった人物らが見当たらない事を示唆して聞いた。
すると徹平は「隣のエリアに居る」と、ここまで徹平が逃げてきた事を告げた。
そして柊呂が逃げる徹平を追いかけてきたのもわかる状況だった。
「だって、しょうがねえじゃねえか!助けてる場合じゃだかったし、俺だって逃げるのに必死で!!」
助けたくても助ける力を持っていない徹平。
更に自分の身に危険が差し迫っている状態では、自らの命を優先するのが本能。
自らを犠牲にして手を差し伸べられる人間は、そうそう居るものではない。
「徹平は正しい判断をした。間違ってない」
秀平はぐっと堪え、必死に弁解する徹平の正当性を肯定した。
被害者を残して自分だけ逃げるなど、今までの秀平なら徹平を叱咤しただろう。
しかし外に出られるように変わった徹平。
同じく秀平も寛容さを見せるまで、変わっていた。
変わらなければこの不思議な力も理解出来ない。
春菜は風羽子と視線を合わせ、頷いた。
介入出来なかった兄弟喧嘩の決着を見たからだ。
そして春菜が口を開く。
「そうだよ、徹平。私達に助けを求めてくれてありがとねっ」
こんな時、いの一番に徹平を褒めてくれる人物が、地面から大声を上げた。
「おーい!! いい加減、降りて来いよー!!」
柊呂の目は真っ直ぐに春菜たちを見上げている。
誰もが背筋を凍らせたのは、その目を見たからだ。
「緑……」
「嘘だろ……おい」
柊呂の黒い目が緑色に光って見えた。
それは自分たちが持つカードの放つ光にそっくりだった。
「来ないなら、こっちから行くけど?」
柊呂は簡単にそう言い、軽く膝を曲げただけで、春菜たちが居る木の上まで飛んで来てしまった。
薄ら笑いを浮かべた緑色の目をした柊呂が、不安定な木の枝の上を堂々と歩きながら近付いてくる。
「こそこそしてんなよ? 仲間だろ」
「ち、違う!!」
風羽子が恐怖のあまり、叫んでしまった。
それが合図とばかりに、春菜は木の幹に手を当てる。
「みんな、衝撃に備えて! 木よ、種に還れ!!」
その瞬間、みんなが乗っていた木が一気に収縮を始める。
秀平は急いで徹平の手を取り、春菜は風羽子を抱きかかえた腕に力を入れる。
風羽子は木から落下し、意識が飛んでしまいそうになるが、春菜から感じる強さと熱で自分を取り戻す。
助けられているだけでは昔と変わらないと思った風羽子は、自分のカードに祈りを捧げ、両手に調理器具を持った。
「えっと、えっと、シフォンケーキ!!!」
風羽子が叫びと共に足元に泡立て機を指すと、地面に巨大なケーキが出現した。
徹平は落下の衝撃が備えられたとわかり、秀平の手を離して頷いた。それに対し、秀平も頷く。
「んなら、こっちは!!」
自由になった秀平の手にある木槌が巨大なハンマーと化し、落下する柊呂に振り下ろされ、柊呂は彼方に飛ばされてくれた。
四人はちゃんと、風羽子が作ったふわふわなケーキの上に落ちたおかげで、怪我をすることはなかった。
「ちょっとあれ、何かヤバいって絶対!!」
とっさの判断とは言え、何とか難を逃れたが、勇者の力を得た柊呂がこんな事でくたばるとは到底思えなかった。
みんな、夜の巡回で柊呂がどれだけ強いかを知っているからだ。
三人はケーキから降り、臨戦態勢を取って気配に耳を澄ます。
それと同時に、春菜はハナ子に聞きたい事があった。
「ハナ子、あれはどういう事!? ヒイロはどうしちゃったの?」
【……】
いつもは何でも答えてくれるハナ子が押し黙る。
すると、風羽子が悲鳴のような声を上げた。
「いやっ、嘘!?」
「ふうちゃん!?」
「風羽子!」
名前を呼ばれたが、風羽子はいやいやと首を横に振るだけだった。
「どうしたんだよ、フーコ!!」
徹平が風羽子の体を揺さぶって尋ねる。
風羽子は震えたまま、目を見開いて徹平を見た。
「カードがヒイロくんの体を、乗っ取ったって……」




