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勇者なんかじゃない  作者: ゆきや
第3章
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23

 突然、穂純の家を訪問するといっても、手ぶらでは行けないと判断した風羽子は、自らの“ケーキ屋さん”カードの力を利用して、手土産用のケーキを作り出した。


 風羽子は、自分で作った事のある菓子類なら何でも生み出せるとわかり、カットケーキを十個程、魔法のように出現させては、その度に春菜の目を輝かせた。


 春菜の案内で全員が穂純の家にたどり着いた。


 インターホンの前に秀平が立ち、その横に、十個分のケーキを持った風羽子が緊張の面持ちで並ぶ。

 二列目はに徹平を挟むようにして、春菜と柊呂が並んだ。


 徹平は先ほどから、口を一切開かなくなった。

 それは心を閉ざしてしまったのと同じように思えた春菜は、心配そうな顔をして徹平を見る。


 柊呂がそれに気付いて、口だけで「大丈夫だ」と言ってくれた。


 柊呂はどんな時でも仲間を見捨てたりはしない。

 徹平はカードの力が発動出来なくても、もう立派な仲間だった。


 春菜は静かに頷いて、穂純が現れるであろう玄関を見つめる。


「お待たせしました」


 ガチャっと開いた玄関から、笑顔の穂純が現れた。


 休日だというのにきちんとした服装で、行儀が良く、良く出来たお坊ちゃんに見える。


「ハナ子、あの子だよね?!」


 春菜がカードの持ち主を確認するため、ブレスレットになった元カードのハナ子に聞く。


【はい】


 短くだけど、はっきりとした声が全員の頭に響く。

 みんなで視線を合わせて頷き、秀平は軽く前に出た。


「お久しぶり、穂純。覚えている……かな?」


 穂純を見ても、誰も顔と名前が一致しない中、穂純は「ああ」と何かを思い出したような素振りで答えながら、玄関から出て、春菜たちが居る門まで歩いてきた。


「確かボクが、練習が嫌だった時に逃げ出して、その時に一緒に遊んでくれてた人たちですよね?」

「おお」


 十年前の記憶であろうに、それを詳細に覚えていた穂純に対して、柊呂が驚きの声を上げた。


「あ、あのっ!これ、よろしかったら!」


 風羽子は緊張した状態のまま門越しに、穂純にケーキの入っている白い箱を差し出した。


「そんな、お気遣いは結構ですよ。昔馴染みなんですから……って」


 他人行儀で断った後に、穂純は二人の後ろに居る春菜に気付いた。


 会ったのはつい数日前。

 十年前の事も何となく覚えていた穂純が忘れるわけがない。


 穂純の顔は一瞬にして、他人行儀な表情から、十四歳相当のものとなった。


「……何で花屋が居るんですか。あなた達は何なんですか?」


 風羽子が説明してくれた『二面性のある男の子』と言う言葉を、誰もが納得した。

 先ほどの対応と明らかに違う。きっとこちらの方が穂純の素なのだろう。


「今日は折り入って話があって来た」


 相手の変化を感じ取った秀平は、真剣な顔をして穂純にカードを差し出す。


「カード……?」


 出されたカードを受け取った穂純は、手にしながら不思議そうにそれを見ていたが、突然の音に反応して周りを見渡す事となる。


【そのカードの持ち主は穂純さんです】

「わっ!?何!?」


 穂純が周りを確認しても、誰もいない。

 話し掛けているのはハナ子だからだ。みんなの頭の中に直接話し掛けている。


【お会い出来る日をお待ちしておりました】

「な、何ですか、これは!!」


 受け入れ難い現実に直面した穂純が慌てふためく。


 それを秀平が手で制して「大丈夫だから、話を聞いて欲しい」と伝え、穂純は驚いた状態だが、取り敢えず頷いた。


【私は春菜さんに作られたカードです。大地が育む力と、春菜さんの希望する願いによって目覚めました】

「……」


 穂純は黙って聞いている。

 生唾を飲み込む音さえ、みんなに聞こえる程静かだった。


【穂純さんのカードにも力が宿っています。穂純さんが当時、カードに秘めた思いと願いを念じれば、カードは穂純さんの力になってくれます】

「思いと願い……」


 ハナ子が黙った事で、話が終わったと認識した秀平は、自分のカードを穂純の前に出した。


「百聞は一見に如かず」


 そう言ってカードに願いを捧げ、カードを光の粒子にすると、裁判官の持つ木槌に形を変えさせた。


 穂純はそれを口と目を開いて見ていた。


「あっ……あ……」


 声が出ない程驚いている。

 無理も無いだろう。

 最初は誰もが驚く。


 このような状況を嬉々として受け入れたのは徹平だけだ。


「つまり、こういう事」


 秀平は木槌をカードに戻して、胸元に仕舞った。

 話を続ける。


「力を使う、使わないは個人の自由だ。もし使うなら気をつけてくれ。この力は現実世界に大きく影響を及ぼしてしまう。それを自覚し、制する事も必要だから。もし困った事があったら、これに連絡して。僕の連絡先だ」


 淡々と伝えた秀平は、閉ざされた門越しに、自分の連絡先を記したメモを渡し、穂純から引き下がる。

 すると、呆然としている状態の穂純の手に、風羽子がケーキの箱を強引に持たせた。


「またね、ほずみん」


 春菜は穂純に手を振って踵を返すと、他の四人も続くようにして穂純の家を去った。


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