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勇者なんかじゃない  作者: ゆきや
第3章
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22

 東京駅で関東組と真綾の父親を見送った帰り道。

 五人は歩きながら、それぞれカードの事を思っていた。


 真綾の話によれば、願いを込めた物をパワースポットに何年か埋める事で、そこの力を宿すらしい。


 春菜たちの場合は、空き地にあった大樹、真綾流に言うと“御神木”が力を持っていて、タイムカプセルとして、願いを込めたカードに力が宿ったという事になる。


 真綾たちの御札は、真綾の実家の神社で作られた物で、埋めたのも神社の境内。

 期間は五年間だけだったと言う。

 神社はそれだけ強い力を持ったパワースポットなのだろう。


「そういえば……」


 風羽子は思い出したかのように一人つぶやいた。


「そういえば?」


 春菜が聞き返すと、風羽子は持っていたカバンからカードを取り出した。


「最後の一枚って誰だろうね?」

「ヒントってねえかなあ?」


 それを柊呂が奪い取り、天にかざすようにして眺める。

 背の高い秀平が柊呂から取り上げ、じっと観察するように見つめた。


 そこにはバイオリンのような絵が描かれている。


「バイオリンケースを持った子が居たのは覚えてるんだが、名前が……」

「一番オトナだったアニキの記憶が頼りなんだよ!」


 徹平は秀平の手からカードを奪い、指でカードを謎る。


「ヒントねえ……ヒント」

「バイオリンの子、居たよねっ。名前かあ」

「くっつくな!!!」


 春菜がカードを持った徹平の背後から抱きしめるようにしてカードを覗くので、徹平は大声を上げて、春菜にカードを押し付けた。


 春菜は毎度で慣れてきたため、気にせずカードを受け取って、はたと気付いた。


「あれ? これってもしかして……」

「どれ?」


 全員は歩みを止め、カードを見つめた。


 春菜はバイオリンの絵の中にあるものを指差した。


「これ、アルファベットに見えなくない?」

「えー、目の錯覚じゃねえ?」

「うーん……言われてみればそうかも」

「そうか?」

「えっと、H・O……?」


 目を細めて読み上げた徹平の言葉に、春菜は大声を上げた。


「あああああああ!?」

「何だよ!?」

「どうした!」

「わかったの!?」


 風羽子の言葉に、春菜は首を大きく何度も縦に振った。


「小野寺穂純だ! そうだ、そうだよ! 間違いない!!」


 確信を持って言う春菜に対して、柊呂が不信な顔をする。


「何でそんなはっきり覚えてんだよ? 十年前の、しかもあんま一緒に遊んだ事もねえ相手だぞ?」

「そうだ、春菜。バイオリンの子は確か、たまたま少し一緒に遊んだだけで家もどこの子かもわからない……」

「わかる!わかる!!」


 春菜は秀平の言葉を遮って嬉しそうに言い、カードを掲げてくるっと回る。

 そしてみんなにカードの絵柄を向けた。


「この前、この子の家に花束を配達しに行ったんだよねっ! どこかで聞いた事ある名前だなって思ってたんだよ」

「へえ」


 言葉を遮られた秀平は感心した声を上げる。

 それに対し、風羽子は心配そうに声を掛けた。


「ハルちゃん、配達したって、その子……」

「あ……」


 春菜は風羽子が言いたい事がわかり、一気に暗くなった。


「何?」

「どうした?」

「何かあった?」


 不思議に思った男三人に、風羽子が事情を説明した。


 カードの持ち主である小野寺穂純は、二面性のある男の子であると。


「まあ、そんな事もあるんじゃねえの?」


 柊呂は話を聞いてもけろっとして答えた。

 この事で春菜が落ち込んでいた事も知らない上に、落ち込むような内容であるとも思えなかったのだ。


「そう……だよね」


 柊呂の言葉に、春菜は何とか納得してみせた。

 それは自分も、風羽子の父親に同じような二面性を出してしまったからだ。


「行ってみようか」

「え?」

「へ?」


 突然の秀平の提案に、誰もが目を丸くした。


「カードもある。持ち主も推測出来た。住所も知っている。行かない理由が無いじゃないか」

「いきなり過ぎだろ! 迷惑だ」


 断定的なもの言いに、待ったをかけたのは弟の徹平だった。


 一年近い引きこもり生活から出てきたのはつい先日の事。

 今日は関西の人間に三人も会ってしまった。

 これ以上人と会う事は気疲れするので、個人的な意見として、会いたくなかったのだ。


「再会って言うのは、突然やってくるものだ」


 秀平は突然、家にやってきた幼馴染の風羽子を見て言った。

 風羽子もそれを受けて頷く。


「てっちゃん、しゅうちゃんの言う通りだよ。どんな場合においても、受け取る側はいつでも突然だよ」

「確かに。自分ではわかっていても、相手にはそれが伝わらないもんね」


 春菜も納得してしまい、徹平はいよいよ立場が無くなった。


 唇を噛み締めて言葉を飲み込む。柊呂がそれを見逃さなかった。

 柊呂は徹平の肩を抱き寄せながら歩いた。


「テツは何もしなくていいよ。全部、言い出しっぺのシュウ兄がなんとかしてくれるから。ちょっとだけ行ってみようぜ、な?」

「ヒーロ……」

「僕が!?」


 秀平が驚いた声を上げながらその後に続く。


 柊呂は振り返りながらも、少し秀平を睨みつけているようだった。


「そうだ。全員の意見を取りまとめて上手くやるってのが、年長者の仕事だろっ!」


 春菜と風羽子も三人に合わせて歩きはじめた。


「あれれ、何かヒイロ怒ってる?」

「みたいだね」


 合いの手を入れて、風羽子が自分の意見を加える。


「何となくだけど、しゅうちゃんの行動決定って、人の感情なんて無視してるような物言いに聞こえる」

「へ? え、じゃあ、やっぱ行かない方が良いんじゃない!?」


 風羽子と言葉を受けて、春菜は慌てたようにして言った。

 しかし風羽子は固い意志を持って首を横に振る。


「カードは持ち主に渡すべきだし、その力を知る必要があると思う。それが、わたしたちが自分たちで生み出した、それの責任だよ」


 そう言って、風羽子は春菜の手の中にあるカードを指差した。


「……責任、かあ」


 春菜はその言葉をしみじみと噛み締めた。


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