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高校一年生二人と中学一年生一人だけで関東に旅が出来るわけがない。
実は真綾の父親が関東の神社に用事があるという事で、三人は東京観光という名目でついて来たのだった。
案外あっさり春菜たちと出会う事が出来たので、翌日は本当に東京観光をする事になった。
もちろん案内は関東組。
しかも秋葉原に行きたいと言う真綾のマニアックな期待に答えられるのはその時居なかった徹平だった。
兄の秀平の話だと、徹平は極度のオタクで、秋葉原にも詳しいらしい。
「者ども、着いて来い!!」
関西組三人、関東五人の大所帯を徹平が先頭に立ち、連れ回していた。
「何、どうかした?」
「あ、いや……」
最後尾からその様子を見ていた秀平が、少し感慨深そうに徹平を見ている事に気付いた柊呂は声を掛けた。
「徹平のあんな姿、久しぶりに見たもんだから」
まだ信じられないかのように呆然と見ている。
「そう? 私達と一緒の時はいつもあんな感じだよね?」
春菜が同意を求めるように柊呂に言うと、柊呂も「そうそう」と頷いた。
「てっちゃん、おうちでは違うの?」
風羽子が何気なく聞くと、秀平は思い出すように少し上を見ながら言った。
「家って言うか外でも、かな。そもそも、徹平が外に出るのも一年ぶりくらいかもしれない……」
中学三年生で一年も外に出ないと言うのは引きこもりで登校拒否をしている事を示唆していた。
徹平の髪が長い原因がわかった。
「今日、家を出る時に親がちょっと涙ぐんでた」
「……」
三人は徹平がそんな事になっていたなど知らなかったので、沈痛な面持ちになってしまった。
その変化に気付いたのはハナ子だった。
【春菜さん、落ち込んでいては徹平さんも暗くなってしまいますよ】
「あ、うん。そうだねっ!」
春菜はハナ子に元気付けられ、最後尾から一番前まで走って行き、徹平に抱きついた。
「んなっ!?」
「てっぺい! 次、どこ行くの!?」
「離れろおおおおお!」
顔を真赤にして春菜の体を離そうとしているが、春菜はその手を離さなかった。
離してはいけないと思ったのだ。
「……ハルちゃん、中学生の男の子にそれはダメだよ」
「だろ? あれ、何とかしてやれよ。さすがにテツが可哀想だ」
「そうだね。ハルちゃーん!」
風羽子が追いかけていくと、秀平がぼそっと言った。
「もったいない。これから女性に抱きついてもらえる機会なんて、お金を払うしか方法がなくなるというのに」
秀平が持ち上げた眼鏡がきらりと光った。
「……シュウ兄、爽やかそうで、案外エグい事、言うようになったな」
会わなくなった数年の間に、それぞれが違うように成長していた。
「うわあ、たっかーい」
「すっげえ遠くまで見えんな」
「はうー、これはあかん……あかんで。なあ?」
同意を求められた風羽子は無言でコクコクと頷き、目を見開いて真っ直ぐ前を見ている。
もう、どこを見て良いのかわからないのだ。
「なっさけなっ!」
紫はガラス張りから一番遠くの壁にへばりついている二人、帝と風羽子を吐き捨てるように言った。
高所恐怖症の二人にとって、東京スカイツリーは拷問の場所でしかなかった。
秋葉原で生のメイドに興奮していた矢先、真綾が東京スカイツリーに行きたいと言った事がキッカケで、全員で行くはめになった。
「風羽子は良いとして、帝くんが高いところが苦手って言うのはどうなんだ?」
あまりに怯える帝に対し、秀平が同じ男として少し呆れて聞いた。
「どうもこうもあらへん! 怖いもんは怖いんや!」
「大丈夫だってー」
春菜が強引に帝の腕を引っ張って景色の良い窓際まで連れて行こうとすると「あかんて!!!」と情けない声を出して抵抗していた。
それを柊呂は笑って見ているだけだった。
「おい、こっちにガラスの床があんぞ!!」
「みんな、早う来いや!!」
先を行っていた真綾と徹平が手を振っている。
「何や、あの二人。デートみたいやないか」
クスクスと笑う紫に秀平が冷静に突っ込みを入れる。
「と言うより、修学旅行みたいなノリなんじゃないか? 恋人同士に見えないし」
誰もが気を使って徹平を“女の子みたい”と言わなかったのに、それを匂わせる発言に、柊呂がため息をついて秀平の肩に手を置いた。
「シュウ兄、言ってくれるな。テツだってこれから成長するんだろうし」
「……ああ、そうだな」
秀平は少しだけ笑顔を浮かべていた。
引きこもりで登校拒否だった弟が外に出てきた途端、仲間と言える人に囲まれて、同時に自分もその悩みを打ち明けられる人が出来た事は、秀平にとっても喜ばしい事だった。
「こうやって外と触れ合っていればいずれ、成長してくれるだろう」
「当たり前だろ! 人間なんだから」
柊呂は笑顔で秀平の背中を叩き、呼ばれた二人の元へと駆け寄る。
その後に春菜が続いた。
「昔のまんまだな」
「何なに?」
秀平の独り言を紫が聞いていた。
「ああ、春菜は昔から、柊呂の後をくっついてたんだよ。何をやるにもいっつも一緒で、本当の兄妹みたいに見えてた」
「へえ」
感心したように紫は声を上げ、子供四人がガラス板を踏んでいる姿を笑いながら見ていた。
「しゅう兄は?」
「僕?」
突然話題の矛先を向けられて、秀平は驚くが、紫は特に気にしている様子はない。
「せや。しゅう兄は小さい頃、どないしてんたん?」
「僕は……」
秀平はクスっと笑って紫の手を握った。
「なんっ!?」
今度は紫が突然の行為に一瞬で頬を染めて驚く。
秀平はもう片方の空いている手で帝を掴むと、動かされた帝がとっさに風羽子の手を掴んだ。
「うわあああ!」
「いやあああ!!」
全員が手をつなぐ状態となって、秀平は小走りで四人の元へ向かった。
「僕は、バラバラなみんなをまとめる役だった!」
「全然、まとまってへんやろお!!」
秀平はあははと笑い、吹っ切れた顔からは生真面目が少し抜けていた。




