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真綾が作った結界はエリアを縮小し、やんちゃな男の子が力試しをする場所となった。
結界から出て店の椅子に座った風羽子の前には、先ほど出した銀色のボールと泡立て機がそのままの状態である。
それを呆然とした目で見る風羽子に、真綾は声を掛けた。
「会話は出来るん?」
真綾の問いに、風羽子はまばたきもしないで何度も縦に首を振った。
それを、あからさまに落ち込んだ表情で見ている春菜の存在に、紫が気付いた。
「嬉しくないん?」
「うん……何て言うのかな」
「心配、か?」
秀平は木槌の感触を確かめるように左右に振りながら、春菜に聞いた。
まさにその通りの感情だった春菜は驚いて秀平を見た。
『何でわかったの?』と言いたそうな表情に、秀平は当然だと言うように答えた。
「春菜は昔っから、いじめられていた風羽子をかばっていたじゃないか。下手に力など持ってしまって、何かに巻き込まれては心配って事だ」
「……うん」
「なん? ふうこはいじめられっ子やったんか?」
「まあ、そうなるかな。昔は結構おっとりしていたからな」
「なんや、その『昔は』って言う意味ありげな発言は」
「ああ、それは……」
秀平は紫に、風羽子が突然会いに来てカードの話をしてきた度胸についてを伝えていた。
その一方で、ブレスレットのハナ子が春菜に声を掛ける。
【春菜さん】
「ハナ子ー……」
春菜は情けない声を出しながらその場にしゃがみこんだ。
【風羽子さんに力が宿って、嫌でしたか?】
本当のところはその通りだが、男の子たちには力を願って、風羽子だけには力を願わなかった事は不公平にも感じる。
春菜は返答に困っていた。
その心の葛藤もすべてハナ子には届いている。
【人間はたくさんの感情があるのですね】
ハナ子が感心したように言った。
「そうだよ、ハナ子。人間はぐちゃぐちゃなんだよっ……」
今がまさにそれであるように、春菜はうずくまったままグチグチとハナ子と話をしていた。
それを見ていた紫と秀平。
紫は注射器を振りかざして春菜の頭にぶすっと太い針を刺す。
結界から出たというのに紫は看護師姿の武装は解除していない。
店内に居るのはケーキを買いに来た数人の客と風羽子の両親なので、本人は特に気にしないらしい。
なので春菜たちも、紫の看護師姿を単なるコスプレとして解釈する事にした。
「うぎゃああああっ!」
突然の痛さに驚いて春菜が大声を上げる。
驚いたのは春菜だけではない。
自分の横でそんな光景を目の当たりにして動かないわけにはいかない。
秀平は持っていた木槌が自然と大きくなり、バットのように振るう。
すると注射器は柊呂たちが居る結界の中へと飛んでいった。
「危ねえだろおおおお!」
現実世界では何もない空間から声が聞こえた。
結界の中に居る柊呂は剣の広い面でその注射器をガードすると、力を無くした巨大な注射器は地面へと落ちた。
それがバトル終了の合図となり、帝はその注射器を担いでみんなの元へ歩いて行く。
その後を柊呂も続いた。
必要が無くなったので、真綾が出した結界を解いた。
春菜は針の刺された頭を抑え、涙目で紫を見上げる。
「ううっ……」
紫は仁王立ちで春菜に活を入れる。
「いつまでグチグチしとんねん! なってしもうたんやから、受け入れるしかあらへんやろ! ええやないか、仲間がおるって言うんは!」
「ん? ……そや、そや」
今一つ話しがわかっていない帝は適当に相槌を入れて紫に注射器を返した。
それを受け取った紫は帝に「怪我してへん?」「大丈夫やった?」とやたらと心配していた。
それを帝がニカッと笑い「問題あらへん」と答えている。
まるで夫婦のような関西の二人の仲の良さを、関東の人間は驚いて見ていた。
「ハルちゃん、大丈夫?」
その気まずさを打ち破ってくれたのは風羽子だった。
春菜は現実を直視する事が出来ず、風羽子から目を逸らした。
益々心配した風羽子は春菜をギュっと抱きしめる。
「え?」
「もうこれで、わたしもハルちゃんを守ってあげられるね」
「……ええ!?」
思っても見なかった言葉を言われて、春菜は驚いた。
「守ってって……だって、ふうちゃんは私が」
「うん。昔はそうだったよね」
風羽子は優しく春菜を撫でた。
「カードの事で、ハルちゃんがちょっと変だったからヒイロくんに相談したの。で、二人で話している間に、もしかしてハルちゃんはわたしを危険な目に合わせたくなくて、力を発動させないように避けてきたのかな、って思って」
そのとおりだった春菜は何も言えなかった。
それが肯定であると風羽子は受け取る。
「今までありがとう、ハルちゃん。わたしはもう高校生になったんだから、大丈夫。ちゃんと自分で責任を取れるから」
力強く言う風羽子は昔、春菜に守られていた小さな子供ではない。
立派な女性に成長していた。
「ふうちゃーん……」
悩んでいた事や心に引っかかっていた物が取れた春菜は、大粒の涙を流して風羽子に抱きついた。
上手く話がまとまった一方で、完全にギャラリーと化した者どもはそれぞれだった。
「うわ、泣き顔、汚な」
「ちょお、女の子にそれは無いんやない? まあ、ちょっとあれやけど」
「紫、整形手術って出来るん?」
「さあ? やった事あらへんけど、価値はありそうやな」
「二人とも、春菜の個性でもあるからそっとしといてやってくれ」
「秀平兄やんは優しいんやねえ」




