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結界を作った黒髪の少女、神崎真綾の話によると、結界は別空間を作るだけであって時間は操作出来ないという事がわかった。
春菜はアルバイト中だったため、急いで結界を解いてもらうと、案の定、店長が心配してあちこち春菜を探し回っていた。
突然現れた春菜に驚きつつも、店長は安堵した顔を春菜に向けてくれた。
真綾たちは関西から来た友達という事で、アルバイトを早退させて欲しいと願って早引きし、その足で風羽子の店に向かう事にした。
ついでに秀平も強制的に連れて来られている。
そこに柊呂も呼んだ。久しぶりの再会をした秀平と柊呂は何だかぎこちない挨拶を交わし、本題へと移る。
「目立ちすぎや、虚け者が!」
真綾は、今度は店の中という事で、小さく春菜を叱咤した。
それを受けて、春菜は横に居る柊呂の腕を肘でツンツンと小突く。
自分だけの責任じゃないと言いたいのだ。
「オレ、関係ねえだろ」
むっとして返すと、質問をしてきたのは秀平だった。
「最近、この地域で傷害事件の犯人が捕まったり、暴走族が捕まったりしたと言うのは、柊呂がやっていた事なのか?」
驚いた顔をしている秀平に対して、春菜は笑顔で「そうですっ」と柊呂の代わりに言った。
言われた柊呂は照れを隠すように少し顔をしかめた。
それが本当にしかめる事態となる。
「それがいかんのや!!」
「はあ? 何言ってんだ、ガキ」
真綾は中学一年生。
高校二年生の柊呂に比べれば子供に見える。実際、体格は親子ほど違う。
「ガっ、」
反論しようとする真綾を、関西から来たもう一人の少女、スタイル抜群の日下部紫が手を伸ばして口を塞ぐ。
「この子、ちょっーと口が悪いんや。堪忍な?」
「性格も悪いんやけどな」
ニカッと笑って言ったのは同じく関西から来た少年、北野帝だった。
この二人は高校一年生。春菜と同い年になる。
「ふんぐううう!!」
真綾は紫の手で口を塞がれながらも、怒りの矛先を帝に向けて、短い手足で殴りかかろうと必死にもがいていた。
その姿はまさに子供が駄々をこねているようだった。
――あ、可愛い。
春菜の中で真綾に対する恐怖の気持ちが変わったところで、紫が話を続ける。
「ほんでな、うちらがわざわざ来たちゅうのは、その事を注意しに来たんや。別にケンカしたかったのとちゃうで?」
「その事?」
風羽子が不思議そうに紫に聞いた。
「せや。あんたら目立ちすぎやねん。ニュースになったらあかんやろ」
帝が真綾のパンチや蹴りを掌でちょいちょいと受け取りながら言った。
「確かにそれは……」
思い当たる節があった春菜は素直に認めた。
「まさか、ハルちゃんがあの“奇跡の金木犀”の犯人だったとは……」
「驚いたよ」
風羽子と秀平に言われて、春菜は照れ笑いを浮かべた。
「褒めてへんで、自分?」
帝に突っ込みを入れられて春菜は、はっと顔を上げた。
「いや、褒めてへんから」
紫に再度言われて、春菜は少し落ち込んだ。
それを風羽子がよしよしと励ましている間に、紫はおとなしくなった真綾から手を離した。
真綾ははあと呼吸をしてから言った。
「別に全部を否定してるわけやあらへん。目立たないようにやりいって事を言っとるんや。春菜たちのその中に、結界を使えるカードはあらへんの?」
真綾は机に置かれた秀平のカードを指差した。
『その中』と言うのは一緒にカードを納めたという意味だろう。
「うーん」
春菜はカードを思い出している。
「私はお花屋さんだし、ふうちゃんはケーキ屋さん。柊呂が勇者で……」
視線を秀平に移すと、全員が秀平を見た。
秀平のカードは伏せられているため、そこに何が描かれているのか知らない。
唯一知っている風羽子が答えを言った。
「しゅうちゃんは裁判官だったよね?」
「ああ」
全員が眼鏡で秀才そうな秀平の容姿を見て納得の声を上げた。
「そんな感じするわあ」
「せやな。生真面目そうやもん」
「昔っからそういうとこ、変わってねえよな」
「うんうん。いつでもきっちりっ」
口々に言いたい事を言われた秀平はぐっと堪えてカードを持ち、みんなに見せた。
「そのうち、お前らなんて裁いてやる!」
そう言った瞬間、カードが光の粒子になってしまった。
「わあっ」
「結界!!」
一瞬にて御札を出した真綾が再び世界を赤と白と黒に染めると、他に居たはずの客や風羽子の親までが消えてしまった。
「え?お父さん、お母さん!?」
風羽子が驚いて立ち上がり、声を掛ける間も無く、店の中心部へと行ってしまった。
その間、みんなは秀平のカードだった物に集中する。
秀平の手の中には木槌が握られていた。
「ぽいな」
「ぽいね」
「まんまやん」
カードから武器が想像出来たみんなは、それぞれ納得して言った。
「結界、調度ええから、ちょお、やろうや」
気軽にそう提案してきたのは帝だった。
御札をこちらに向けていたがクルッと紙の向きを変えるとそこに汚い字で“警察官”と書いてあった。
「へえ」
柊呂がニヤッと笑うとそれが合図と言わんばかりに帝は「変化!」と言って御札を二丁拳銃に変えた。
「お巡りって言ったら拳銃一丁だろう」
「細かい事、言うなや。もう少しで手錠出せそうなんや。ちょお、付き合えや」
「上等じゃねえか」
簡単に挑発されてしまった柊呂がカードを剣に変える。
「うおおおお!めっちゃかっけえやん!!」
さすがは男の子同士というものだろうか。
帝は柊呂の剣に目を輝かせている。
「それ結構すっぱり切れるん?」
「さあ、味わってみれば?」
柊呂が剣を構え、帝に向かって飛び出した。
「危ない!!」
今一つ状況が掴めていない秀平が叫ぶと、それを帝が余裕で制する。
「問題あらへん。こっちには看護師がおんねんな」
ニカッと笑って紫を見た。
それに合わせるように、柊呂が「看護師だと!?」と紫を見る。
二人が視線を紫に送るので、残った者も紫を見た。
「看護師と医者はちゃうねん!治せへんのもあるんやで!」
そう言った紫は先程と同じようにヘアピンを十字に合わせて「変身」と言うと、看護師姿になった。
「おお……」
「むらちゃん、可愛い!!」
男たちが白衣の天使に感心するような声を上げる中、春菜は上機嫌で紫を見ていた。
「どうしよう!お父さんとお母さんがどこにもいなっ!?」
戻ってきた風羽子は目の前に広がる光景に絶句し、動きを止めてしまった。
方や剣と拳銃で本気のバトルを楽しんでいる男たちと、巨大な注射器を持った看護師姿の女。
それに絡むようにはしゃぐ春菜の横で、真綾は優雅にお茶を飲んでいる。
風羽子は一番話やすそうな秀平に視線を送った。
秀平はそれを受けて、手に持つ木槌を左右に振った。
「僕にもさっぱりわからない」
「どりゃああああ!」
「こん、のおおおおお!」
戦う男たちは範囲がわかってないらしい。
柊呂がみんなの居た席まで吹き飛んで来た。
「いやあああ!わたしのお店で暴れないで!!」
結界の中なので現実世界に影響は及ぼさない。
それを理解していない風羽子は店が壊されると思い、胸に手を当てて大声を上げていた。
その瞬間、風羽子の胸のポケットが激しく光った。
「え? ふうちゃん!!」
風羽子がカードの力を手に入れるキーワードは違うものだと思っていた春菜は、驚いて風羽子の名前を呼んだ。
風羽子にとってカードを発動させるキーワードは、お店を守るという気持ちだった事がわかる。
「こ、これって!?」
驚いている風羽子の胸元の光は収まった。
そして、両手には銀色のボールと泡立て機が握られている。
「ハルちゃん。わたし、ケーキ屋さんだ……」
春菜のブレスレットが羨ましく思っていた風羽子だったが、自分のカードが実際に形になると、どうしていいのかわからないらしい。
持ち慣れたはずのボールと泡立て機がカタカタと音を立てていた。




