その5
公園で酔客の声を聞くともなく聞いていると、入り口から葉月が歩いてきた。
「なんだお前、まだ死んでなかったのか」葉月は呆れたようにそう言った。
「毎晩こんなとこ来て、暇なんですか?」
「不登校のお前ほどじゃねえよ」
僕は口をつぐんだ。
「そういえば、昨日あなたを探している人に会いましたよ? 稲荷正って人」
僕は稲荷に貰った名刺を見せたが、彼女は首を捻った。
「誰だこいつ」
「お知り合いじゃないんですね」
「まあ、用件の察しは付くけどな」
「闇金にでも手を出しました?」と僕は冗談交じりに聞いた。
「なんで学生が闇金に手出すんだよ」
「家庭の事情…… とか? 親が借金残して蒸発したとか」
「だとして私に返済義務はねえよ」
「でも親の借金を肩代わりする話ってよく聞きますよ?」
「全部フィクションだろうが。知ったかぶるなよ」
「……じゃあ結局、稲荷さんの用件って何なんですか」
「これから死ぬお前には関係のない話だよ」
そこまで僕にいなくなってほしいのだろうか。それでも不思議と不快感はない。
「あなたが殺してくれるんですか?」
「お前が望むんならな」
本当に死ぬべきか、死んだあと葉月に迷惑がかからないか、死んだあと親の体裁はどうなるだろうか。これらを考えつくしたあと僕は口を開いた。
「じゃあ、お願いします」
僕がそう言うと、葉月はポケットからナイフを取り出した。
「まあまあ、ちょい待ちぃや」そう言いながら茂みから出てきたのは稲荷だった。スーツのあちこちに枝葉がついていた。
「……お前が稲荷だな。盗み聞きとは趣味が悪いな」葉月は苛立った様子で稲荷に声をかけた。
「殺人止めてんから褒められるべき行為やと思うねんけど」
「お互い同意の上なんだからいいだろうが」
「それでも違法性は変わらん…… みたいな話はどうでもよくてな。ただフェアちゃうと思うねん。メガネくんは何も知らずに死んでいくわけやろ、君の正体とかな?」稲荷は葉月に指を差して言った。
「葉月さんの正体?」
「この子、人間ちゃうねん。ドッペルゲンガーや」
葉月の表情は見えなかった。




