その4
僕は悩み事を人に打ち明けるのが苦手だ。信頼できる他人が居ないという話でもあるが、僕の場合悩み事を打ち明けること自体が苦手だ。昔は母によく愚痴を聞いてもらっていた。内容なんて覚えていない。学校で徒競走に負けただとか、友達が嫌いだとか、勉強が辛いとかその程度のことだっただろう。
だが僕は母に悩み事を打ち明けるたび嫌な思いをしていた、何を言っても合理性で詰められるからだ。徒競走なんて大人になってからは役に立たないだの、学校は嫌いな人との関わり方を学ぶものだの、勉強を頑張れない人は何にも頑張れないだの。言っていることは至極正しい。それでも自分の悩みを話し痛みに共感してもらえたことはない。愚痴とはそういうものであるし、このような悩み事自体をを持つ自分が間違っているんだと今でも思う。
翌日、僕たちはねずみ公園のベンチに座って話していた。
「それは…… なんというか、大変だったね? 結構危なかったんじゃ?」昨晩のことを卯月に伝えるとそう返ってきた。
「大変は大変でしたけど、危なかったんですかね?」
卯月は呆れながら口を開いた。
「まずね? 第一声から殺害予告してくる人間と話しを続けるべきじゃないと思うの。絶対やばい人でしょそんなの。胡散臭いスーツ姿の男なんてあったら真っ先に逃げなきゃ。気づいたら美味しいお肉として裏ルートに回ってたかもしれないよ?」
最悪それでもいいと思った。自分で死ぬ勇気がないんだ、殺してくれる分にはやぶさかではない。しかも、めったにできない経験というおまけつきだ。
「……もう少し危機感を持って生きた方がいいと思うよ?」卯月はため息をつきながら言った。
「努力します」
「……する気ないでしょ。「また明日、学校でね」って言った時と同じ顔してる」
「そんなに表情に出てましたかね」
「私、表情読むの得意なんだ」
「……じゃあ、今僕が何考えてるかわかります?」
「嘘くさいなぁ、とか?」
「生きるの大変そうだな、ですよ」
「君にだけは言われたくない」
「……ねえ、どうしてここまで良くしてくれるんですか?」と僕が訊ねた。
卯月は首を傾げて答えた。
「そもそもそんなに良くしてる覚えはないんだけどな。お喋りしてるだけでしょ?」
「でもそのためには毎日教師に僕の所在を聞いて、毎日保健室をチェックしに行って、毎日お昼休みを返上してここに来なきゃいけないわけでしょ?」
「そう言われると確かに大変だね」
「だから、どうしてわざわざそんな大変なことを続けてるのかを聞きたいんです」
「……単純に君のことが気に入ってるから、じゃダメなの?」
「つくならもっとマシな嘘ついてください」
そう僕が答えると、卯月は困ったように微笑んだ。




