↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
借物  作者: ほの、
PR
20/21

その20

 沼田咲奇は戸籍を変え、葉月咲奇と名乗るようになった。例によって稲荷が戸籍登録したわけだが、ひとつしかない『沼田咲奇』という戸籍を、どうやって二つに分け、葉月咲奇として登録したのか。合法であれ、非合法であれ、僕はこの程度のことでは何も思わなくなった。稲荷ならこれぐらいするであろう。彼の正体について探るつもりもない。それは探偵の仕事だ。

 彼女はよく事務所へ来る。なんとなくたまり場にしている僕たちとは違って、仕事の手伝いをしている。最初は凛に引っ付いて離れなかったが、今はお茶くみに書類作業を進んでする。仮にも高校生に仕事をさせるのはどうかとも思うが、役割があったほうが楽だろ、と凛は言っていた。

 彼女は未だ喋らない。あんなことがあったのだから、一生喋れないのかもしれない。それでも、無表情の奥には感情が見える。桃がそれを本人に伝えると、恥ずかしがりもせずスンと無表情に戻した。でも、それだけだ。未だ彼女は喋らない。喋れるようになったとしても、傷は癒えない。傷が癒えたとしても、過去は消えない。僕たちはそうやって、死ねないままでいる。


「かまいたちが出たんやって」と稲荷が言った。

「かまいたちって?」桃は尋ねた。

「人を転ばして皮膚を切り裂く怪異でしたっけ?」

「その後に傷薬塗ってくれる子や、だから傷の痛みはない。優しい怪異さんやね」

「……つまり害はないんじゃ? 何が問題なんですか」

「その怪異を決めてかかって話し出すクセ、やめろよ。口裂け女の二の舞いになるぞ」凛は苛立ちながら言った。

「いやぁ、そのほうが盛り上がるかなって思てん」

「つまり特定の場所で痛みのない切り傷がよく出るんだろ?」

「正解や。ついでに被害者は大体転んどる。場所も良くなくてなぁ、とある神社で報告が上がってくんねん」

 とある神社で痛みのない傷が良く発生する。いかにも意味ありげだ。

「というわけで調査、頼んだで」

「だからなんでお前は来ないんだよ」

「行ったらわかるよ。僕おっさんやからキツいねん」


 神社は、とある商業施設ビルの屋上に建っていた。六階から階段で上がるらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。