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借物  作者: ほの、
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19/21

その19

「君、少しは躊躇を覚えたほうがええで? 僕が来んかったらどないなってたか、わからんわけでもないやろ?」

 私は稲荷さんが運転する車に揺られていた。

「でもあなたが言ったんでしょ。あの洞窟が出口だって」

「電話口の僕が偽物やったとしたら?」

 ……言われてみれば。無条件に信頼していたが、あの電話も怪異であると疑うべきだったんだ。

「ホンマに君は警戒心薄いなぁ」稲荷さんは呆れるようにケラケラ笑った。


「結局、きさらぎ駅ってなんだったんですか? 誰かをあそこに閉じ込める場所ってこと?」

「真逆やね、黄泉への道。それがきさらぎ駅の正体や」

「じゃあ、あの駅はあの世だったと?」

「あの世とこの世をつなぐ道、やね。黄泉へ攫う駅で、黄攫ぎ(きさらぎ)駅ちゅうわけやね」

「伊佐貫トンネルは、あの世への入口だったと。……そもそもなんて読むんですか? いさぬき?」

「いざなぎ。イザナギ様を無理やり当て字にしたから、難読になってん」

 ……イザナギ様ってなんですかって聞いたら怒られるだろうか。

とにかく自分がどれだけ危険な状況だったかを、ようやく理解した。今更やってきた身震いに、我ながら呆れてしまう。車は山道を走っていた。悪路のせいで車が揺れる。ちょっと酔いそう。

 

 唐突に電話が鳴った。

 スマホを見ると祥也くんからだった。

「桃! 今どこにいる!」電話口から祥也くんの切迫した声が聞こえてきた。

 ああ、そういえば最初にラインしてたんだっけ。

「えっとね、きさらぎ駅からは出れたよー。今は稲荷さんの車で送ってもらってる」

「……今すぐ車から飛び降りろ!!」


後日談

 祥也くんに事務所まで送ってもらった私は、ソファでくつろいでいた。

 車から飛び降り、電波が復活してたことに気づいた私は、コンビニまでのルートを検索して山道を歩いた。枯れ葉や枝を体中につけ雑草臭くなった私は、無事コンビニに着き、そこから祥也くんに送ってもらって今に至る。

「勢いにまかせて飛び降りちゃったけど、なんで飛び降りなきゃいけなかったの? ていうか稲荷さん置いてきちゃって良かったの?」

 凛ちゃんは頭を抱えた。

「お前、きさらぎ駅のオチ知らねえの?」

 首を振った。きさらぎ駅自体知らなかったんだから、オチなんて知るわけがない。

「知らないおっさんに車に乗せてもらって、そのまま音信不通になるんだよ」

「……つまり?」

「今頃、黄泉の世界でよろしくしてたろうな、あのままだったら」

 最初にラインしてたこと。電波が繋がって、それが送られたこと。これらがなければ私は今頃死んでいたわけだ。もう鳥肌が立つスペースもないよ……。

 咲奇ちゃんは何も言わず、じっとこちらを見つめていた。その目からは呆れが感じ取れた。

 警戒心の薄さ。それが一貫して今回の原因だった。その奥にある理由だって私は知っている。それでも振り返ることはない。きっと死ぬまでこのままなのだろう。バカは死にかけたって治らないのだ。


「じゃあ、あの場に本物の稲荷さんはいなかったってこと? 電話も、車も」

「さあ? まあ、全部きさらぎ駅から出た怪異だったんじゃない」祥也くんは言った。

「でも、今日見てねぇぞ、稲荷。少なくとも事務所には来なかった」

「……じゃあ、あれ。本物だったかもってこと?」

 誰も口を開かなかった。

 私たちはいつまで、彼に振り回され続けるのだろう。

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