その17
「と、いうわけで困ってるんです。道案内してくれません? あわよくば車で迎えにきてくれません?」
「……君、きさらぎ駅も知らんの?」
「そんなに有名な駅なんですか? 私聞いたことないですけど」
電話口でため息がした。
「まあ、知らぬが仏かもな。ええよ、案内したる。まず、線路に下りるやろ?」
「殺す気ですか? 電車に轢かれて死んじゃうじゃないですか。ふざけてないで案内してくださいよ」テレビ電話にして、スマホを左右に振った。「どっちの道にいけばいいんですか? あるのは畑か木で目印なんてありませんが」
さっきより深いため息がした。
「もうええわ。わかったよ。とりあえずどっちかの道ずーっと道なりに進んでみ? そしたらわかるから」
「何を言ってるんです? 稲荷さん、道に迷ったときは左右どちらに進むか、が一番重要な選択なんですよ?」
「わかったて、ほな右に進み」
右側の道は田んぼ道だった。とうもろこしがずらーっと並んでいた。アスファルトで舗装された道をずーっと進んでいく。
「この道をまっすぐいけばわかりやすい道に出れるんですか?」
「そやそや、とーってもわかりやすいもんが出てくるから」
「……なんかさっきからずっと投げやりじゃありません」
「アホに物事を伝えるんって大変なんやなって苦しんでるとこやねん」
「はぁ、頑張ってくださいね?」
「ホンマにありがとうな」怒気を抑えた声だった。
「そう言えば稲荷さん、今どこですか? 事務所?」
「そうやけど、なんで?」
「いや、凛ちゃんいるのかなーって」
「今日も仕事来とらんよ。しばらくは咲奇ちゃんの面倒見るって。甲斐甲斐しくお世話しとるんやろ」
「赤ちゃんじゃないんですから」
「赤ちゃんみたいなもんやろ。発生した年月から言えば」
私の眉がピクリと動いた。
「少し話は変わるけど、卯月ちゃんはなんかしたいこととかあるん?」
「……なんでですか?」
「いや、佐藤くんの自殺阻止は叶ったわけやろ? それやったら晴れて人生を謳歌できるんと違うん?」
「まあ、大学生活を楽しんでますよ」私は嘘をついた。
「ふーん、それはええことや。頑張って楽しまんとやね」
私は稲荷さんの言葉を無視した。
眼の前に駅が見えてきた。駅標識にはきさらぎ駅と書いていた。




