その16
スマホの電波がつながらない。相当山奥にいるのだろうか。うーん、どうやって帰ろう。祥也くんに「きさらぎ駅ってどこ?」、とLINEしてみた。あ、ダメだ、送信エラー。仕方がないのでとりあえず電車から降りた。
きさらぎ駅は山沿いにあった。電車の進行方向から見て、右手が山、左手は道路だ。駅の駅名表は『きさらぎ駅』と読めるのみだ。隣駅名は潰れて読めない。駅の掲示板には色々張られてた。重要指名手配の顔写真、JR九州からのお知らせ、降車されたお客様へ、列車運行に関するお知らせ、ワンマン列車に関するご案内。駅内を見渡しても掲示物はここにあるものだけだ。あるべき何かが足りないような気がした。
ポスターの右下の更新日付はどれも二〇〇四年の一月八日だった。ポスターって一日で全部張り替えるものなんだろうか? 違和感はあるものの、それを確たるものにできる知識がない、そしてネットがないから調べられない。つくづく私は無力である。
ポスターの中でも『係員のお手伝いが必要なお客様へ』が気になった。『車いすのご利用等、係員のお手伝いが必要な方へ』と電話番号が乗せられていた。少し悩んだが、他に頼る当てもないので電話してみた。かかったらなんて言おうか……。障がい者のためにある番号に、迷子なので助けてください、と相談するのはあまりに恥ではなかろうか。そんな思いも宙に消えた。しばらくしても電話は繋がらなかったから。
ホームの階段を上り、駅の外へと出てみた。正面には駐車場らしき空間があったが、車は一台として止まっていない。左手には駐輪場があり、錆びた自転車の隣に石碑が立っていた。苔むした石碑には文字が刻まれていたが、潰れて読めない。唯一『伊佐貫』という文字だけ読み取れた。
……これ、なんて読むんだ? いさらぎ? きさらぎ? これがきさらぎ駅の正式な漢字表記とか? 大体なんのための石碑かすら不明だ。定礎を示すもの、とか? だとしてもこの石碑は大きすぎる気がする。
首を傾げているところに、スマホが鳴った。画面を見ると、稲荷さんからの電話だった。




