焦る心
目を覚ますと、レオが俺の顔を覗き込んでいる。そうだ、フェルに剣を突き付けられて……気絶して…………
夢の内容は記憶に残ってる。一刻も早く、ヤパンを目指さなきゃ。
「レイジ様、起きたのか?」
「レオ、至急ネルガに移動の準備をさせろ、ヤパンに行く。義手の整備をしてくれ」
「え、レイジ様?…………お、おい! リーシャ、ネルガ連れてこい! ジーク、レイジ様の義手と義足をハインリヒの優秀な工房に持ってけ!」
レオの号令に控えていたらしいメイドが急いで出ていき、執事が部屋の机に置いてある義手と義足を持って出ていく。
なんか、急すぎてごめん……
「ったく……今から準備しても1日か2日はかかるぞ?」
「そんなにか?ヤパンって遠いんだな」
「遠いのもあるけどな、ヤパンは他国だろ? まずハインリヒ国王から許可証を貰う必要がある。レイジ様なら直ぐ貰えるだろうけど、義手の調整もあるし、宿泊場所の確保は? ヤパンの案内人とか手配できるのか……?」
レオが思ったよりもメイドっぽい……でも、移動手段への心配は無いのか。困ったな…他国ってだけで足止め食らうなんて……
少し悩んでいると、扉が豪快に開けられる。
「レイジ様! お目覚めになられましたか!?」
半裸の男がドアを壊すかの勢い……訂正、ドアを壊して入ってきた。恐ろしい事にドアは砕けたとか取れたではなく、粉々になっている。
ネルガ、お前まだ強くなるのか……? 今年69歳だろ……? 見た目も40代だし、フェルとまだまだ引き分けてるらしいのに……
「ネルガ、ここからヤパンまでどのくらいかかる?」
まずはヤパンまでの移動距離だ。義手のメンテナンスはヤパンでも出来なくはない。それに宿泊場所なら天照の社に泊まらせてくれるらしい。許可証も直ぐ貰えるのなら、移動時間以外気にすることは無い。
「うーむ……ヤパンですか…………レイジ様1人でしたら手段さえ選ばなければ、1時間とかからないでしょうな」
「手段を選ばなければ? ……おっさん、お前まさか…………!?」
ネルガのはっきりしない態度に、レオが何か気付いたらしい。しかし、ネルガは俺の目を見て、口を開いた。
「棒状の物にレイジ様を括り付けて、槍投げの要領で投げれば短時間で着くでしょう」
「馬鹿か! レイジ様はその移動方法に耐えられるわけ……」
「それで行こう」
肯定する俺に、レオが振り向き、ネルガは微笑んだ。
元々ヤパンへは俺1人で向かうつもりだった。天照に連絡して、受け止めてもらえるだろうし時間が惜しい。今から許可証取りに行って、気合でなんとかする。
「いやいや、レイジ様。オレは大反対だからな? お前の体じゃ移動中も耐えられない。それに着地はどうするんだ? その移動方法が可能なのは。英雄レベルの、それこそフェルレベルしか……」
(あー、あー、聞こえるか? そっちの手足無き少年と、俺っ娘と筋肉ー?)
頭の内側から、壮年男性の声が響く。正体不明の念話にレオとネルガが俺の前と後ろを警戒する。
そんな事して無駄だろう。念話をしてくる時点で、この近くには居ないだろうに。
(訳有って名乗れんが……まぁお前らの味方だ。そこの筋肉……いや、英雄ネルガ・アノルド。さっき言ってた移動方法、俺が手伝うぜ)
「ハンッ! 名乗らねえテメエを信頼しろってのか? ふざけてんじゃねーよ」
(あーそうだよなー……なんか、信頼できそうな言葉……うーん……そうだ! 少年)
「俺……?」
(桃太郎の犬役は天照……不満だが猿役は俺が務めてやるよ)
「桃……」
「太郎だぁ? ……変な事言ってんじゃねーぞ?」
ま、まさか!? コイツはシェーンが言っていた……!?




