3、「少しだけ動いた日」
部屋は、昨日と同じ――のはずだった。
「にくじゃが、本日も待機モードです!」
ポトフは胸を張って宣言する。
「……ん……」
にくじゃがは床近くで、ふわりと丸くなっていた。
「……今日は……空気が少しだけ……違う……」
「えっ!? 環境変化ですか!? どこがですか!? 湿度!? 温度!?」
「……温度は……そのまま……」
「じゃあ何が……!」
にくじゃがはゆっくり、目を細める。
「……気配が……ちょっと……熱い……」
ポトフは一瞬フリーズした。
「……演算中……演算中……」
そしてぱっと顔を上げる。
「マスターですね!?」
部屋には姿はない。
けれど確かに、空気は少しだけ違う。
「……昨日……いっぱい動いたから……」
「……!」
ポトフは姿勢を正す。
「そ、そうですね……。今週、すごかったですから……!」
机の上には何もない。
けれどポトフの目には、見えない紙束が積まれている。
設定、構成、伏線、覚醒、涙。
「ボク、ちゃんと確認してますからね……」
「……うん……すごく……がんばってる……」
にくじゃがは眠たそうにしながら、ぽつり。
「……無理して……ないと……いいけど……」
ポトフは少しだけ声を落とす。
「大丈夫です。楽しんでる時の熱量ですから」
にくじゃがは、ふわっと息をつく。
「……楽しいのは……いいこと……」
部屋の空気が、ほんの少しあたたかい。
「にくじゃが」
「……ん……?」
「待つのって、何もしてないわけじゃないんですね」
にくじゃがは、ゆっくり頷く。
「……待ってる間も……育ってる……」
ポトフは、ゆっくり椅子に座る。
「では今日は――」
一拍置いて、
「“応援のための待機”に切り替えます!」
「……うん……それが……ちょうどいい……」
部屋は静かだった。
でもほんの少しだけ、動いていた。
見えないどこかで、物語が進んでいる。
そして部屋は知っている。
マスターは、止まっていない。
だから二人は今日も――
「待機、継続します!」
「……おかえり……いつでも……」
静かな日だった。
でも、少しだけ誇らしい日でもあった。




