4、「部屋は知っている」
部屋は、ほんの少しだけ明るかった。
「にくじゃが、ログ更新です」
ポトフは何もない机を見つめる。
「……更新……?」
「はい。マスターが“前に進めた”ので、部屋の空気が一段階進化しました」
にくじゃがは目をこする。
「……進化……した……?」
「微量ですが! 確実にです!」
ポトフは胸を張る。
「昨日までの空気は“準備の空気”でした」
「……今日は……?」
「今日はですね……」
少し間を置いて、ポトフは穏やかに言う。
「“動き続けている人の空気”です」
にくじゃがは、ふっと小さく笑う。
「……止まって……ない……」
「はい。止まってないです」
少し静寂。
部屋のどこかで、見えない時計が進む音がするような気がした。
「ねぇ……ポトフ」
「はい?」
「……もし……誰も見てなくても……」
「……」
「……進めたって……意味ある……?」
ポトフは即答しなかった。
少しだけ考える。
そして、真面目な声で答える。
「あります」
一切の迷いなく。
「予約投稿を押したのは、マスターです。世界がどうこうより、まずその事実が大事です」
にくじゃがは目を閉じる。
「……押したね……」
「はい。逃げずに、出しました」
部屋が、わずかにあたたかくなる。
「ボク思うんです」
ポトフは静かに続ける。
「創作って、爆発じゃなくて“積み木”なんですよ」
「……つみき……」
「一個置いて、また一個置く。たまに崩れる。でもまた置く」
にくじゃがはこくりと頷く。
「……今日は……一個……置いた……」
「はい」
ポトフは小さく笑う。
「なので今日は“祝福待機”に切り替えます」
「……祝福……?」
「何もせずに、ちゃんと誇っておくモードです」
にくじゃがは、ふわっと息を整える。
「……いいね……」
少し静かな時間。
「……ポトフ」
「はい」
「……次も……書くよね……」
ポトフはにっと笑う。
「当然です。流れ来てますから」
部屋は静かだった。
でも、昨日とは確実に違った。
それはきっと――
“続いている”空気だった。




