女神、モルガン
ここから先の連載の話になるのですが、不定期掲載となります。
読者の皆さまをお待たせる形になってしまい、申し訳ありません<m(__)m>
果ての無い広大な景色が網膜に焼き付く。
僕達は予言の賢者――国に現存する最古の賢者に連れられ冥府にやって来た。
乳白色のような空は常に移ろうように煌めき、足元は濃霧が掛かり、よく見えない。
一見で分かるのは、ここには現実感がない。
自然が見せる緑の匂いや、青い空、吹き抜ける風はなく。
ただただ、夢を見ている気分だ。
「怖い、怖いよ」
そう言ったのは僕にしがみついていたクスィーだ。
彼女は膝から震え、自身の恐怖感を伝えている。
「何も怖いことはないよ」
「冥府と言うから、どのような所を想像していれば、なるほど」
――ここは地獄ですな。
セツナ先生は夢のような景色を、こう感想していた。
達観する先生や、今も震えるクスィーを見て僕はある一つの憶測に辿り着く。
「さて、時間が惜しいゆえ、皆の者、参ろうか」
予言の賢者が先を進み、僕達も恐る恐るついて行く。
「……賢者様、もしかしてここはそれぞれ違う景色に見えるんじゃないですか」
「ルウ、お前の目にここはどう映っている?」
「僕には、現実感のない夢の中みたいに見えます」
夢の中を漂っているみたいです。と言えば、予言の賢者は一笑する。
「冥府って言うのは、世界神が用意した誰しもが行き着く場所だからな」
と、ゾロさんは説明する。
ここはあるものには夢に見え、あるものには地獄に見え。
「そうなのか、私には、眩しくてよく周囲の景色がよく見えないな」
あるものには、救いの光に見えた。
ガラルさんは目を細め、予言の賢者の外套に捕まりふらふらと歩いている。
「迷うことはない、皆儂について来ればいい」
「助かるぜイングリット、さしもの俺もここはよく分からないからな」
「ゾロよ、何か遭った際は頼むぞ」
「褒めたとたんこうだもんな、まったく。人間ってのは欲張りだな」
どうやら予言の賢者とゾロさんは旧知の仲だったみたいだ。
お互いに過去を知り合うように気を許している。
その後も僕達は予言の賢者の後ろについていく。
長い長い道のりだった。
目的の場所に永遠に着かないのではという杞憂もあった。
歩いても、歩いても、一向に見える景色は変わらない。
「……ルウ、そしてガラルよ」
「「はい」」
「お前達の家族は確かにここにいるようだ。気付いておらぬかもしれないが」
――先程から、儂らの後ろに誰かいるだろう?
「……そんな気がします。僕達の後ろに」
僕達の後ろには、たくさんの気配があった。
クスィーがその気配に敏感になって、意識を失いそうになっている。
「怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない」
と、彼女は自分に必死に言い聞かせる。
「今は後ろの者たちに、悟られてはいかんぞ」
「何をでしょうか」
「亡者は生者がもつ生気に惹かれる。生気の正体はMPなのだが、だから皆魔法を使うでないぞ」
地球の神話にもこう言った話が存在するんだ。
予言の賢者の言う通り、後ろを振り向けば大変なことになるだろう。
数多の亡者の気配を引き連れ、賢者はなおも前を行く。
途中分かれ道が幾度もあったが、賢者に迷いはない。
ここに元々住んでいたかのように、足取りに迷いはなかった。
そして、僕達はある丘に辿り着いた。
「……ずっとお会いしたかった、モルガン様」
賢者がそう言うと、目の前で一人の麗人が眠っていた。
その人は麗しい短毛の白髪を携え、意識を失っているようだ。
「起きろモルガン。迎えに来たぞ」
ゾロさんが慣れ親しんだ様子で彼女の名前を呼ぶと、柳眉がぴくりと微動した。
「……この声は、愚弟か?」
「止めろよ、助けに来たのに愚弟呼ばわりはないだろ」
「う……何しろ助かったよ、私はもう」
モルガンと呼ばれた僕達の神様は酷く憔悴していた。
彼女は丘に生えていた一本の樹に下半身を埋めている。
「お、俺はどうすればいいんだ賢者様?」
エドが魔法剣の柄を握り、予言の賢者に尋ねていた。
「ふぉふぉ、子供達やガラルにセツナはしばらく大人しくしておれ……今から儂とルウ、ゾロの3人の力を使ってモルガン様を獄門より解放する」
「え?」
唐突にご指名に預かったけど、一体何をすればいいんだ?
「3人以外は儂らの所業を両眼に焼き付けておくといい」
と言うと、予言の賢者とゾロさんは僕を挟むように樹の周りに移動した。
2人は三竦みのような円陣を組むと、胡坐を掻く。
「ルウ、お前は今から俺やイングリットと意識を繋げる。そこで自ずと自分のやることを理解するんだ」
「ふぉふぉ、6歳のお前に無茶をさせるようですまんな」
ゾロさんと予言の賢者はこう言い、僕も半ば強制的に胡坐を掻いた。
「大丈夫だよ、ルウは特別賢いからな……まるで」
――まるで、前世の記憶があるような感じで。
「……まぁ、ここに長居する訳にはいかねーし、早速始めるぞ」
ゾロさんがそう言うなり、全身の血脈がドクンと高鳴った。
これは、召喚魔法を使った時の感覚とまるで一緒だ。




