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冥府の光景


「それで、私は何をすれば?」


 メフィストさんが自分の師と対立する中、ユルシアが声を出す。


 そこで僕は思い出したのだ。


 双子の兄が言っていた、ユルシアの魂の在り処について。


 母とユルシアの魂は死の魔法によって、冥府にいるのではないか?


「ユルシア、それからメフィストの両名には冥府への道を現世から繋いで欲しい。お前らが冥府への門戸を開いている間に、儂らは囚われている神、モルガンを探しだし、救出してみせよう」


 ……魔法と言うのは、つくづく驚異だ。


 ありえない現象を、さも当たり前の如く起こして見せる。


 今回は死に至った存在を、魔法で救い出し、甦らせようと言うのだから。


 ◇


「準備はいいかメフィスト、お前達が最大の胆じゃぞ」


 あの後、僕らは予言の賢者の目論見どおり冥府に向かう運びになった。


 メフィストさんが反抗してくれていたものの、押し切られてしまったのだ。


「いいかルウ、それから子供達、危険だと思ったらすぐに帰ってこいよ」


「了解っすー、俺は父ちゃんから貰ったこいつで」

「エド、お前が今回の件で活躍しようとするのは無謀でしかないよ」

「えー」

「えー、じゃない。お前達は今正に、命の危機に瀕しているんだぞ?」


 お前達の誰かが死ぬのは、覚悟しておいた方がいいな。


 と、メフィストさんはことさら僕達に言い聞かせていた。


「もうよいかメフィスト」

「……ルウ、決して死ぬなよ」


 メフィストさんの心配はとてもありがたかったけど。


 僕にはその覚悟が今から出来ていた。


 覚悟と言うか、諦めに近いけど。


 しかしこの場面では、メフィストさんを安心させる言葉を伝えるのがいずれにしろ最適なんだろうな。


「もちろんですよメフィストさん、僕は大望を果たすその日を迎えるまで死にません」

「いつになく強気だなルウ……では師匠、約束どおり」

「ああ、今回の件が終わったら、お前の昇格を王室に口添えしよう」


 メフィストさんは今回の件――神の救出の功績を一手に引き受ける。


 これで名実共にメフィストさんは王国でも絶対的な立場を築けるようだ。


 死ぬ気で冥府に向かおう、そしてメフィストさんに恩返しするんだ。


 メフィストさんとユルシアは共鳴するように瞼を閉じると。


 周囲に置かれていた予言の賢者の魔法具がカタタ、カタタと小刻みに震えはじめる。


 その振動は次第に部屋全体に伝わり、臆病なクスィーが僕にくっついた。


「私達、どうなるの」

「……なるようになるんだよ」

「ルウくんの言う通りですよクスィーさん」


 室内が明滅し始めた時、セツナ先生がクスィーを諭す。


「私や、君といった最低の屑が、生にしがみつくのは傍から見ればたいへん不格好なのですよ」

「セツナ、あれほど熱心な生徒だったお前が今やその姿勢とは、同級生として情けないよ」

「ガラル、私はいつの日か決めたのだよ」

「何をだ?」


 ガラルさんとセツナ先生が在りし日を懐かしむよう会話している。


 僕達は2人の話に注目を集め、先生が次に言う言葉に耳を傾けた。


「所詮、我々は夢や希望といったものからかけ離れた存在だ。なれば私は逆の道を探求してみようと思った……私はこの国を、この国の人間を絶望に導く存在になってみようと。魔法学校に居た私の夢は唯一無二の存在になることなのだからな」


「セツナ先生、熱弁している所申し訳ないが」


 メフィストさんから声を掛けられると、先生は手で合図した。


「そろそろ、冥府への道が作られるぞ。みんな心して掛かれ」

「……子供達は儂の傍を離れるでないぞ」


 そして、僕達の前に冥府の門が現れた。


 冥府の門は青白い光を纏っていて、僕達を一瞬で飲み込む。


 その瞬間、全身が脱力し、ひどい失望感を味わう。


「……いや、嫌ッ!」


 僕にしがみついていたクスィーが悲鳴を上げれば。


 僕達の視界には、冥府の光景が広がっているのだった。



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