契約魔法の随想
「師匠、冗談を聞かせるためだけに私達を呼んだのですか」
「お前は今一儂を信用してないな、儂は本気だよ」
予言の賢者は僕やジャンククラスのみんな。
それから裏町の錬金術師ガラルさんや、竜のゾロさんを招集し。
その名――神の名を口にしていた。
エヴィン家に残されていた本にも、その名は載っていて。
なんでも僕達、魔法王国の神様と、他国の神はそれぞれ別にいるらしく。
王国の人間と、他国の人間はそれぞれの神によって創造された。
予言の賢者である彼が示唆したのは、王国の神だろう。
「不思議そうな顔をしておるな諸君」
「それはそうでしょ、唐突に神を冥府から救いだす。などと言われましても」
「……これは実際にあの方と面識のある者にしかわからないことなのだろうが、我々の神、モルガンは今でも冥府に囚われている。あの方の救出こそが、儂の最後の試練だったのだよ」
予言の賢者様の言葉を、メフィストさんは馬鹿馬鹿しいと一蹴していた。
彼は国に現存する最古の賢者であれば、軽口を叩けるメフィストさんが凄い。
「師匠、私達は帰らさせて頂きますよ」
「ならんよメフィスト、これは儂だけの問題ではない」
予言の賢者がそう言うなり、ガラルさんが口を開く。
「メフィスト、冥府に向かうのは……実は私の宿命でもある」
「ガラル殿、それはどういった理由で、だろうか?」
「貴方は私の妻をご存知だろうか? リタと言うのだが」
「リタ? それはもしかして、私の同期の彼女だろうか?」
「そうだ、私とリタ、それからそこに居るセツナは奇しくも、貴方の同期だった」
ガラルさんが告げた隠された事実、クラスのみんなは先生に視線を集中させる。
「なんですか皆さん、今の話のどこに私を見る必要がありましたか?」
「せんせーって、意外と年喰ってるんだな」
「君はねぇエドくん、普段から失言が過ぎるんですよ」
その点ではメフィストさんは今でも絶世の美貌を保持している。
メフィストさんの種族はエルフだからかな?
「で、彼女がどうかしたのかガラル殿」
メフィストさんは追究するようにガラルさんに聞く。
「私の妻であるリタもまた、どうやら冥府に囚われているらしいのだ」
「ガラル殿、その話はひょっとしなくてもこの人から聞かされたのではないか?」
間髪容れず、メフィストさんは自分の師を指差した。
ガラルさんが首肯すると、彼女は深いため息を吐く。
「乗せられているんじゃないか? 人が死ねば冥府に行くのはこの世の理だろ?」
「これだから賢者は、どいつも自分のことしか信じない頭でっかちで困る」
「ゾロ、お前のようなチンピラが何故ここにいる」
メフィストさんの目を以てしても、ゾロさんの正体は看破出来てないのか。
そう考えると、ゾロさんが如何に高次の存在なのかがわかる。
「俺もこの人に呼ばれて来た口だよ、な、ルウ」
なって言われても……将来的にゾロさんは間違いなく墓穴を掘るだろうな。
「百歩譲って、ガラル殿やゾロが冥府に向かう理由はわかったとしよう。だが師匠、何故ルウをお供にするのですか」
「ルウのMPは0と出ているのだろう? その存在は儂の予知に出て来た」
「なりませんよ師匠、貴方はいつもこう言っているではないですか」
この世に『絶対』はある、『絶対』などない絶対が。
「であれば、自分の予知魔法も絶対ではないと、まるで保身のように唱えていたはず」
「ふぉふぉ、余程ルウを気に入っている様子だなメフィスト」
「当たり前だ、ルウは私の婚約者だからな」
メフィストさんがそう言った時、クラスのみんなは僕に視線を集中させた。
「ルウ、お前ってすっげージゴロだったんだな」
「それって褒めてるのエド? 今は黙っていようよ」
でないと話が進まない。
「婚約者か、まぁ安心しろ。ルウだけは何としてでも生きて返すと約束しよう」
「じゃあ他の者には死ねと言うのか」
「そうだ」
「っ、貴方はいつもそうだ、だから私は師匠に不信感を抱くのですよ」
予言の賢者は苦言をていされると、乾いた笑いを木霊させる。
そして――
「師匠っ!!」
「気付くのが遅いなメフィスト、お前達はもう儂の言うことに従うしかない」
メフィストさんが声を荒げる。
何事かとその場に居た全員が思っていると。
「ど、どうしたんだよメフィストさん」
エドが早口で訳を尋ねる。
「契約の魔法じゃよ」
「契約の魔法?」
予言の賢者がエドの疑問に即座に答えていた。
「そう、もしも儂と交わした契約を反故にすれば、お前達は死ぬぞ」
そんな魔法も存在するのか、やはり魔法は奥が深い。
「貴方のは契約の魔法を改良した、対象を奴隷化させるための悪辣な魔法だろ」
「なにをもって悪辣と言うのかは、人によって変わるよ」
「戯言をほざくのは止して頂きたい」
……2人が言い争っている間に、僕は自身の身体を調べる。
契約の魔法に掛かっている様だが、異変はない。
しかし、実際に予言の賢者の言い分を反故にする勇気はない。
もしかしたら彼は嘘を吐いているのかもしれない。
彼はMPを使わず、言葉一つで僕達を掌握したのかもしれない。
だとしたら彼は、僕が想像する魔法使いで相違なかった。




