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解放


「くっそー、今回もルウが美味しいところ持って行くのか」

「きっと僕達にも出来ることはあるはずだよ、エドくん」

「そうなのかオゴロ? 痛って!」

「何するんですかセツナ先生」


「先程言われたことを忘れたのですか? 大人しくしていなさい」


 僕と予言の賢者、ゾロさんの3人は女神を囲み、冥府の牢獄を解き明かしている。


 脳裏で予言の賢者が助言を授け。

 ゾロさんの竜の目を通して別景色を見つつ、その作業に没頭している。


 極彩色の魔法の因子の束を、一本ずつ丁寧に取り払っていく、途方もない作業だ。


「その調子だルウ」

「……ゾロさん、けど、これは」


 取り払った魔法の因子は、その全てが強力なMPを有しているようで。


 魔法の因子は取り払った先から、予言の賢者様がある者達に与えていた。


 ある者とは、僕達がここに来るまでに感じていた、亡者だった。


「まぁ、後悔先に立たずって言うしな」


 それと、女神様を捕えている魔法の因子はこの世界と凄く密接で。


 僕らが1本ずつ解いて行った先から穴が出来て。


 その穴に向かって冥府の風が引き込まれている。


「……」

「心配そうな顔してるなルウ」


 ゾロさんから問われ、僕は正直に首肯した。


 クスィーじゃないけど、今僕の目には冥府の闇が拡がっていき。


 言い様もない恐怖が、脊髄を走っていた。


「うう、怖くない怖くない、こわく……ない」

「ねぇちょっと! いつまで掛かるの!? クスィーが」


 アンナが叫び、後ろを振り返るともはやクスィーは自分の力で立つことさえ出来ずにいた。


 何も異変をきたしているのはクスィーだけじゃなく。


「……」

「せんせー顔真っ青だな」

「エドくんは平気なのですか?」

「俺もちょっと辛いかな」

「そうですか、なら君は私よりも才能があるということですよ」


 セツナ先生も胸を手で押さえ、苦しそうにしていた。


「賢者様、リタとはいつ会えそうですか」


 ガラルさんも両目を手で塞ぎ、酷く汗を掻いている。


 女神様を解放するにはまだ時間が掛かりそうなのに、仲間の限界が迫っている。


「諸君、うろたえるでない。気をしっかり持つのだ」


 予言の賢者がみんなに平静を保つよう呼びかける。


 冥府は酷く不快だ。


 それは生者である僕ならではの見解かも知れない。

 今も僕達の背後で隙を窺っている、亡者からすれば、心の拠り所だったのかも。


「……すまない、私のために、お前達に無理強いを」


 僕達の女神、モルガン様が懺悔するような口調でこう言った。


 しかし、台詞とは相反するようにモルガン様の顔色は良くなっている。


 その逆に、僕達の調子はどんどん不穏になっていく。


 冥府に来る前に予言の賢者が口にした、僕以外の者には死んでもらうとの言葉を思い出し。


 僕は、今自分がしていることの正誤を考えていた。


 次第にモルガン様の心臓に打たれていた杭のような魔法が解ける。


「……今軽くイってしまったよ。お前の名前は何と言うんだ?」

「その子の名前はルウって言うんだ、いつかモルガンが言っていた約束の子だよ」

「そうか、なんとも可愛らしい容貌をしているな」


 女神に褒められた僕は素直に「恐縮です」と返した。


「他の皆に関しても、一先ずお礼を言う」


 ――ありがとう。女神様がこの言葉を口にしたと同時に、風が靡いた。


「……ど、どう、いたしまして」

「少し私と話しをしよう。臆病屋のお嬢さん」


 モルガン様が混乱していたクスィーに話し掛けると、彼女は落ち着いて行った。


 僕と予言の賢者と、ゾロさんが作業に没頭している中、モルガン様はみんなと会話していた。


 昨日の一番印象深かったこととか、誰が一番大切な人なのかその理由もとか。


 どれをとっても他愛ない会話だったけど――


「私には最愛の妻と、最愛の娘のどちらかを選べと言われても答えられません」

「それはそうだな、仮にガラル殿が2人のうち1人を選んだ場合、日常には戻れないだろう」

「……最愛の娘のための、母親で、最愛の妻のための、娘です」


 ――だから、私は自分の命を賭してでも、ここにやって来る必要があった。


「ですから、どうかモルガン様のお力で娘と妻を会わせてやってください」

「ああ……そのように努力するよ」


 時間を追うごとに、女神の束縛は解けて行った。


「いいぞルウ、もう少しでこの作業も終わりだ。他のみんなもよく堪えたな、褒めて遣わす」

「おじさん、貴方って一体何者なの?」


 アンナがそう問うと、ゾロさんは一度深呼吸して胸部を拡縮させる。


「俺は、単なるルウの友人だよ。それ以上でも、それ以下でもない」

「嘘臭い」


 2人のやり取りに微笑ましい気持ちになった。


「……そろそろか」

「ああ、ここまで来れば後はモルガンの力で解除できるだろ?」

「再度お礼を言う、ありがとうお前達……ッ!」


 魔法とは、この世の万物が意志を持てば起こせる奇跡だ。


 僕らのような矮小な存在でも、丈に見合った奇跡は起こせるし。


 ましてや僕らを創造したという女神様であれば、起こす奇跡の偉大さは計り知れない。


 女神モルガンが力を籠めると、彼女を捕えていた大樹は極彩色の光となって拡がる。


 その時。


「――え?」


 僕はとてつもない力に引き寄せられ、文字通り、身体が宙を舞った。


「っ、これに捕まれルウ!」


 咄嗟に反応したエドは僕に魔法剣を差し出したのだけど。


 僕の身体は冥府の彼方へと、誘われてしまった。


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