竜のゾロ
「なんで、なんでこんな所に竜が」
「いいからケルベロスにしがみつけよ!」
3人の後を追うと、森を抜けきった先から何かが空に影をつくっていた。大きい、全長およそ20メートルはありそうな巨大な体を、竜は力強く繰って空を飛んでいる。
「アンナ! エド! オゴロ! 平気か!?」
「ルウくん、大変だ! アンナが竜を起こしちゃった」
「それは見ればわかる、で、アンナは今竜に追われてるのかな?」
「う、うん、たぶん」
オゴロは後方で待機していて、僕に現状を知らせてくれた。
けど、竜に対処できそうな召喚魔法を、僕は知らない。
ここは一旦賢者の塔まで引いて、メフィストさんに助けを――
「ッ……ッッッ!!」
凄い気迫だ、アンナ達を追い回している竜の鬼気迫る咆哮に、思わず手で庇った。
駄目だ、とてもじゃないけど、メフィストさんを呼んで来る暇がない。
竜はなおも中空を旋回し、アンナ達を追尾している。
「ど、どうすれば」
「……オゴロ、君はここで待機して、アンナとエドの2人に伝言を頼む」
「伝言?」
「僕に秘策がある、けど、君達がいる状況だと危険だから」
だから、オゴロはアンナとエドを連れて先生の所まで下がってくれ。
そう言い残し、僕は跨っているケルベロスを走らせた。
「どうするつもりだ」
すると僕が使役しているケルベロスが人語で語り掛けて来た。
「……正直言うとね、秘策なんかないんだ」
「では囮になるだけなって、仲間のために死を選ぶと?」
「うん、僕が竜をひきつけてる間に、2人を逃して、後はなるようになる」
伝えると、ケルベロスは鋭い眼差しで僕を見詰める。
まるで僕の人生や、本質を見極めるような瞳だった。
「もしも、お前が竜を屈服できれば、相談したいことがある」
「できるといいけどな……できるように頑張るよ」
すると、前方から物凄い勢いでアンナとエドの2人がやって来た。
2人とも跨っているケルベロスから落ちないよう必死にしがみついている。
「アンナ! エド! 君達は森まで下がって!」
「わかった!」
「後のことは僕に任せてッ!」
僕は2人とすれ違うように、竜の前に姿を出した。
「?」
すると竜はさきほどまで居なかった僕の存在に気付き。
「――来い、スプリガン!」
「っ!? ――ッ」
僕に召喚された狂暴な妖精、スプリガンを警戒するよう高度を上げる。
「ケルベロス、スプリガンと一緒に竜と戦ったら、勝算はどのくらい?」
「1割にも満たないだろう、だが、決して勝てない相手ではない」
1割にも満たないか……でもケルベロスの台詞だと、囮役ぐらいは出来そうだ。
なら、僕としても本望というもの。
「……ルウ、こんな所で何してるんだ」
すると、上空で両翼を羽ばたかせていた竜は唐突に僕の名を呼んだ。
「僕のことを知っているのですか?」
「そらそうだろ、俺はよくお前と話してるじゃないか」
そう言えば、竜から聴こえる声音には聞き覚えがあった。
これは露天商の店主、ゾロさんのものとそっくりだ。
と思っていれば、竜は翼を休めさせ、その巨躯を僕達の前に下ろした。
「こんな格好してるからわからないだろうが、俺はゾロだよ」
「本当にゾロさんなんですか?」
尋ねると、巨大な両翼を誇る竜は、人間の格好に化けた。
頬やあごに無精髭を生やし、薄手の羽織を1枚着ている、小汚い露天商の姿に。
「とうとうバレちまったなぁ、ルウ、ここは人間が立ち入っていい場所じゃないぞ」




