竜のいずる場所
翌日の僕はメフィストさんよりも先に起きて。
裏町に出向き、井戸に沈んだ魔法水を汲み上げることから始まった。
汲んだ魔法水を用意した小瓶に注ぎ、即席のポーション薬を作る。
「ルウくんおはよー」
「お早うクック、朝早いんだね」
「そうだねー。所でルウくん、もしかしてポーション作ってるの?」
「え、うんまあ、授業で使うかも知れないから」
「そうなんだー、だったら私がポーションの作り方教えてあげるよー?」
それはありがたい申し出だ。
「お願いしてもいいかな」
「うん、だったら今日の放課後、街外れの森にいこー」
僕らみたいなMP値が少ない人間にとって、回復薬は必需品だ。幸いなことに錬金工房の1人娘のクックは母親から口伝されたポーションの製造法を知っているらしい。
クックと約束したあと、僕は学校に向かった。
「起立、気をつけ、礼」
「おはようジャンククラスの皆さん、昨日の疲労は取れたでしょうか?」
「着席」
「……では、今日は昨日に引き続き、ゴブリン退治ですが。今日相手するゴブリンは昨日のゴブリンと同じとは思わない方がいいですよ。何せ敵は手傷を負っているのですから。では参りましょうか」
一同でクラスを後にし、校門まで向かう廊下を歩いていると。
「なあ、あいつらが今年のジャンククラスだって」
「雑魚ーい、憐れなぐらい雑魚ーい」
この学校の生徒は当然のようにクラスの面々を揶揄していた。
その揶揄を受けて、クラスメイトの女子の1人であるクスィーは泣いてしまった。
セツナ先生は担当する生徒が泣いてるのにも関わらず、無関心のまま進む。
これは本当に酷薄だよ。
◇
街外れの森につくなり、セツナ先生は矜持をほどこす訳でもなく、泣いていたクスィーに言った。
「君が泣きたい気持ちは正しいよクスィー、だけど、それは向こうが言っていることが本当だったからだ。君達、ジャンククラスの人間はこの先どう足掻いても最低の屑だ。そろそろ悟ってもいいんじゃないかな?」
「……喧しい」
と、憤怒したようすでそう言ったのは同じく女子のアンナだった。
「昨日は戦えました、今日も戦えます、そしてこの先もずっと私達は戦えます」
「ふむふむ、勝気な女の子は異性からモテるよ。性的な対象としてね」
「誰が何と言おうと、私達は戦えます!」
「みんな一先ず聞いて欲しい、今日はみんなのためにポーションを持って来たから、常備して。もしも危なくなったらすぐに叫ぶこと、仲間を呼ぶこと、これが僕達の鉄則だと思って」
セツナ先生とアンナの口論に水を差す形で悪かったが、みんなにポーションを配った。
これさえあれば費やしたMPを回復できる。
「それと今日は気合いを入れて臨みたいと個人的に思ってるから、昨日よりも強力な召喚獣をみんなにつけるよ。今日初めて召喚する対象だから、扱い方はみんなで考えて」
そう言い、朝立ち寄った時にもらった6枚の魔法紙に新しい魔法陣を描く。
魔法陣が描かれた魔法紙を中心において、神経を集中させてその名を呼ぶ。
「――来い、ケルベロス!」
魔法陣と、僕の血脈が一体化していく感覚が過ると。
ケルベロス――3つの頭を持つ巨大な猛犬がその姿を現した。
「……ちょっと、扱い辛いかもしれないけど、頑張ろう」
泣き虫のクスィーはケルベロスの姿をみてやはり泣く。
ケルベロスの1体が、クスィーに近づき鼻で鳴き、心配そうにしていた。
「これはこれは、壮観な光景だ。ケルベロスを使うのなら、この森のゴブリンは一掃できそうだし……君達には更なるミッションとして、森を抜けた先にある幻想湖の魔獣を1人1匹ずつ狩ってきて貰おう。それでいいよね、アンナくん」
「えぇ、私達は屑じゃないから、魔獣の1匹や3匹、私の力で!」
セツナ先生の煽りを真正直に受けて、アンナは独断専行してしまった。
「マズイ、エドくんとオゴロくん、アンナさんのフォローを頼む!」
「しょうがねぇ女だなぁ、だけど好みのタイプだから、死なせやしない!」
「僕、犬が苦手なんだよね」
2人はアンナを追い、森の先にある幻想湖へと向かったようだ。
僕は残された2人の女子と、3体のケルベロスの様子を覗う。
「君達は行かないのかな?」
「精神状態が安定しない時に戦場に向かっても、ろくな目にならないでしょ」
「正論だ、だがこんなことは知っているかな」
セツナ先生は意味深な様子で言葉を続ける。
「アンナくんが向かっていた幻想湖には竜がいる。竜種は現状の君達じゃ敵わないだろう」
「……それ、もっと早く言ってくださいよ!」
「手遅れになる前に、彼女達を連れ戻してきなさい。そしたら今日の授業は終わりとします」
賢者の塔からほど近い森、森にはゴブリンやマジックウルフと言った魔物が生息していて、森の魔物であれば僕達でもなんとか戦えそうだったけど、よりにもよって竜か。その存在を仄めかされた僕は急いで3人の後を追うことにした。
「クスィーさんとヒューさんはここで防衛しててください!」
叫び、ケルベロスの背に乗って、竜のいずる場所へと向かうのだった。




