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ゴブリン狩り


 ――……意識が覚醒すると、全身ずぶ濡れだった。


「起きましたねルウくん、お早うございます」


 視界がはっきりすると、セツナ先生がバケツを持っている。

 僕は今まで意識を失っていて、水を掛けられて起きたようだった。


「セツナ先生、なんで」

「君達のような最低の屑が体制批判とはおこがましいのです、今日はそれが学べましたね」


 っ。


 先生の吐き捨てた言葉に、唇を噛みしめる。


 苦渋の面持ちで、視線を下にやると、教室の地面とは違った土壌が見えた。


 そこで僕は今の居場所に気付いた、ここは街外れの森だ。


「今日、皆さんにして頂く作業はこの森に居るゴブリンの掃討です。3人1組の班を作り、各々ゴブリンを討って来てください。ちなみに1匹もゴブリンを獲れない生徒は落第点とします」


 セツナ先生はそう言うと、その場であぐらを掻いた。


「……どうしました皆さん、さっさとゴブリンを討ちとって来て下さい」


 そう言えばメフィストさんが言っていた。

 確か魔法学校には戦闘実習があると。


 セツナ先生の指導は無茶苦茶過ぎる。

 ゴブリンがどんな外見と特徴をしているのか予習せず。

 端的に、ゴブリンを見つけ、討ち取ってこいと命令するのだから。


 とりあえず、僕はその場にあった肥沃な土壌にアーヴァンクの魔法陣を描き始めた。

 アーヴァンクはあれで居て、水の精霊の一角で、怪力だから。


「来い、アーヴァンク」

「キュ?」

「アーヴァンク、実は――」


 呼び出したアーヴァンクに、早速事情を説明した。


「ゴブリン狩りをするのだな? ならルウよ、儂の兄弟達も召喚するのじゃ」

「わかった、クラスメイトは5人だから、アーヴァンクも生徒分召喚すればいいよね」

「そうじゃの、それでいこう」


 召喚したアーヴァンクと、今回の戦闘実習の算段をつけると。


「卑怯ですね、さすがは最低の屑の一員です」

「セツナ先生、御託は後にしてくださいませんか」

「怒っているのですか?」

「当たり前ですよ! 僕たちが親族から預かった大切な魔法具を奪われたのですから」


 貴方達はそうやって、僕らの希望を根こそぎ奪い、何がしたいんだと憤怒した。


「私にやり場のない怒りをぶつけるのはいいですし、殺意を覚えたらいっそのこと殺してしまった方が君達のためかもしれません。要は貴方達がこの先、絶対的な自覚を持つまで、私は徹底して貴方達を鍛え抜きます」


 クラスメイトの5人に対し、5匹のアーヴァンクを召喚し付けてやった。


「……絶対的な自覚ってなんですか?」

「どんなに努力しようとも、一生敗者であることの自覚です」


 僕は、セツナ先生が言った一生敗者である自覚を、彼女と出逢う前までは持っていた。

 この先僕が何をしようとも、価値のないことしか出来ず、無意味なまま生きて死ぬ。


 しかしその自覚は大きな間違いだった。


 例えこの先、価値のないことしか出来ず、無意味なまま生きて死んでも。

 人は意識の持ちようによって、人生を謳歌できる。


「ではルウ、この森のゴブリンたちを手短に掃討しようではないか」

「うん、でもほどほどにね」


 最初に召喚したアーヴァンクが号令を掛けると、クラスメイトの手を掴んで森の中へ入っていた。僕も後に続くように森の中へ入り、草陰に忍んで隙を窺っているゴブリンの姿を目視で捉える。


「そこの草陰にゴブリンいるよ!」

「本当? なら――エアニードル」


 エアニードル――空気を圧縮させ、先端を槍状にしたものを敵に向けて放つ魔法。

 彼女の魔法を受けたゴブリンは心臓部を串刺しにされ、地面に倒れた。


「うぇ、グロイ」

「トドメはわっちに任せてお嬢!」


 彼女に付いていたアーヴァンクはどこからか巨大な岩を持ち出し、ゴブリンの頭部に目掛けて打ち下ろした――――ッッ!! 金切り音の断末魔があがると、森の中にいたゴブリンが騒ぎ始めた。


 なんと言ったってこちらは彼らの仲間を1人殺してしまったのだ。


 ゴブリンは復讐のつもりで、僕らを襲って来るだろう。


「いいですかジャンククラスの皆さん! 敵は脆弱なゴブリンだからと言って舐めて掛からないように! 油断は大敵ですよ! それと皆さんはチームワークを大切にして効率良く戦いましょう!」


 森のどこからか、セツナ先生の大音声での教訓が始まる。


 僕らは先生の教訓を尻目にして。


「アーヴァンク!」

「わかっておる!」


 召喚したアーヴァンクや、それぞれ使える初級魔法を駆使して、全力でゴブリン達と闘い抜いた。


 ◇


「お疲れ様です皆さん、初実戦の割には目覚ましい成果だったので、特別に褒めて差し上げますよ」


 セツナ先生は全然平気そうだったが、他は息切れを起こしている。


「ちなみに、ジャンククラスの大半の授業が戦闘実習になります。明日も戦闘がありますので、今日は今から裏町の温泉施設に向かって英気を養いますよ。皆さん二言はありませんね?」


「「「「「キュー」」」」」


 アーヴァンクは全員、人の温泉施設に行けるのが嬉しそうだった。


 して、僕達はセツナ先生の引率で裏町の温泉に向かった。


 ここは裏町の人間が愛用している大事な場所で。


「大人1人、子供6人、それからペットが6匹だ」

「へい毎度、施設の利用は丁寧にお願いしますね」

「当たり前だよ、では男子のみんなは私について来るといい。女子は女子で仲良く入りなさい」


 セツナ先生が男子の引率を受け持つと、アーヴァンクが鳴き声を上げた。


「なぁわっぱ、ここには混浴はないのか?」

「ないだろうね。混浴施設って大抵はリゾードにしかないから」

「キュー、せめてユルシア殿と混浴が出来ればなぁ」


「私がどうかした?」


 するとユルシア当人が温泉施設に居て。

 さすがに裏があると思ったけど、アーヴァンクがすぐさま飛び掛かる。


「ルウも一緒に入れてあげるよ?」

「姉様、ここは公共施設ですから」


「おお、そこに居るのは昨年の魔法学校を首席卒業したユルシア殿かな。なら女子の諸君は彼女の引率を受けるといいだろう。女は女同士で、存分に語らい合うのだぞ」


 そして男と女、それぞれの性別で違う暖簾をくぐり。

 僕達は超高密度な温泉に浸かり、今日費やした疲労やMPをガンガン回復させる。


 明日も戦闘実習があると言うし、明日は朝一で井戸の魔法水を汲んでストックしよう。

 僕には疲労を回復させるぐらいしか使い道ないけど、他のクラスメイトには有効だ。


「ルウくん、今日はドタバタしたけど、ほんとおつかれー」

「あ、うん、そうだね。でもそこはかとなく充実した一日だったね」


 クラスメイトのエドとは温泉に癒されつつ、安堵した口調でお互いに労った。


「でも、ショック……父さんがくれた魔法具を取られるなんて」

「そうだよね、伝統だかなんだか知らないけど、あの風習は本当に駄目だ」


 同じくクラスメイトのオゴロは父から譲り受けた魔法具を取り戻したいと考えている。


 2人とも今日の戦闘実習ではまぁまぁ動けていたと思う。


「ずびびびび、悲しいねぇ。俺が受け持つクラスの宿命は、この国の馬鹿どもには到底理解できないものなのだ。だがなぁ、俺はお前達を見捨てたりしないぞぉー、えい、えい、おー」


「「先生?」」


 豹変したセツナ先生の態度に、エドとオゴロは驚いていた。

 これはこの人の悪い癖で、酒が入ると緊張感が消え去ってしまうんだよな。


「先生が見受けた所、君達はちゅーとはんぱに強い。いや弱いんだが、それでもゴブリン程度なら圧倒できる力の持ち主だ。だが言わばゴブリンの相手は雑草取りと一緒だからな、明日の実習はすんなり行くと思わない方がいい」


 先生の助言に、僕達三人は「はい」と口を揃えた。


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