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陋習


 翌日、賢者の塔から街に向かい、大通りを伝って魔法学校に向かった。


 今日から本格的に授業が始まるし、そのための準備も入念にした。


 何が遭ってもいいようにガラルさんの店で仕入れた魔法紙を100枚はストックしている。紙と言えど、束ねると膨大な幅と重量を持つため、収納具には魔法の代物を使っている。


 昨日、入学祝としてガラルさんがくれた逸品なんだけど。


 ガラルさんがくれたのは持ち物を際限なく収納できるポーチだった。


 料理屋から賢者の塔に帰った後、メフィストさんが使い方を説明してくれた。


 学校の校門を注意しながら通り、足早に自分のクラスに向かう。

 警戒していたのは同じ初等部に通う三人の兄達だ。


「おはようございます」


 快活な挨拶を口にし、クラスに入ると僕より先に来ている生徒はいなかった。


 昨日の入学式では総勢で5人のクラスメイトがいたけど。


 昨日の今日だし、全員ちゃんとやって来るのだろうか。


「……おはよう」

「おはようございます」


 10分もすればクラスメイトの1人がやって来る。


「おはようございまーす」

「おはようございます」


 1人、また1人とクラスを訪れ、黒板に書いてあった席に座る。

 始業の20分前には、クラスメイトの5人が揃った。


 しかし――


「おいルウ、お前なんで学校に来た?」


 カイン、エヴィン家の次男で蛇のように執拗な兄がやって来て。


「馬鹿だねお前、何で僕の施しを理解しなかったんだよ」

「……カイン兄様、僕は女賢者メフィストの弟子です」


 ――ですから、兄様であろうと屈する訳にはいかないのです。


「それが例え誰だろうと」


 喉は震えていたけど、僕は立派にカインに反抗できた。


「ふーん、まぁいいや。ジャンククラスのゴミ共、よく聞けよ」


 と、カインがクラスメイトのみんなを脅すように愚弄すると。

 カインの後ろから上級生らしき子供達が現れる。


「今から君達の持ち物は僕らが徴収するよ、これはこの魔法学校に由緒代々伝わる洗礼でね。ジャンククラスの新入生はさ、大抵初日に気合いの入った魔法具を持ってくるんだよ。馬鹿だから」


 カインを筆頭に上級生達は手提げ袋を持って僕達の持ち物を押収しようとする。


「別にいいだろお、お前達が持っていても宝の持ち腐れなのは明白なんだから」


 その傲慢な態度と台詞に業を煮やした僕は、ポーチから魔法紙を取り出す。


「ヤメロ!! 兄様であろうとこれ以上横暴を働けばただじゃ済まさない!」


「……どうするつもりだよ」


 兄、カインは僕の喝破にひるむことなく睨み返していた。


「この魔法紙にはスプリガンを召喚するための魔法陣が予め印してあります。僕だって何度も同じ過ちを繰り返すほど愚かじゃない。もしもクラスのみんなに手を出したらスプリガンを召喚します」


「ほ、本気かよ。そんなことすればお前は一発で退学だぞ、ルウ」


「貴方達のような人に、一生おびえて暮らすよりかははるかにましだ」


 お互いに牽制し合っていると、学校の予備チャイムが鳴る。


「チ、そろそろ授業が始まるし……今回は僕の愚弟に免じて一旦下がろうみんな」


 時間が押して来たこともあり、カインは連れて来た仲間を下がらせる。


「ルウ、お前だけは、この学校を生きて卒業させないからな」

「肝に銘じておきますよ」


 上級生が帰ると、クラスメイトは一様に安堵していた。


「よくわからないけど、ありがとう」

「怖かったぁー」


 まだまだ幼い同級生は、口々にお礼を言う。

 こんなか弱い1年生に、酷いことを強いる。


 それが僕達が通う魔法学校の実態であり。

 僕達が住まう魔法王国モリタブルの実態だった。


 その後、昨日酷く酔っぱらっていた担任のセツナ先生がやって来る。


 僕の口から事情を説明すると、先生は思案気な顔をしていた。


「なるほどねぇ、皆さんは例の仕来りを退けたと」

「セツナ先生、これは明らかに悪い風習ですよ。僕の方から学園長に直訴――」


 学園長に直訴して、学校の体制をすみやかに改善して貰おうと思った。


 だが、どういう訳か僕は前方から来た衝撃に襲われ、後方へと吹っ飛び。


「まったく、困ったことをしてくれましたね。諸先輩方も仰っていたように、これはこの学校の伝統的な習わしです。私の方からその先輩方に謝罪しておきますので、皆さんの魔法具を寄越しなさい」


 朦朧とする意識の中、セツナ先生の声でこんな台詞が聞こえ。


 僕は酷い失望と、怒りを覚えていた。


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