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異常な俺の夏休み

 林間学校が終わってから数日後、夏休み期間に突入した。


 高校生になって初めての夏休みだ。

 部活やバイトがない通常の高校生にとっては待ちに待った夏休みだろう。


 だが異常な高校生の俺は夏休みを待ちに待ったといった感覚は一切なく、夏休み3日目の今日も今日とて勉強と、休憩がてらに彩香から借りた本『黒猫探偵の殺人』の読書に勤しんでいた。


 夏休み期間中は原則毎日午前9時から勉強を始め、休憩を挟みつつ午後11時で終了としている。


 今は午後8時。

 晩ごはんも食べ終え風呂にも入った。あとは休憩がてら歯を磨く時間を除き、寝る直前まで勉強するだけだ。


 こうやって俺が孤高のボッチ時代のように勉強ばかりの日々を過ごしているのには訳がある。



 俺はペアで買ったボールペンを置いて勉強の手を止め、今日何度目かのスマホのメッセージアプリを開いた。

 そして今日何度目かの夏休み前日に届いた彩香からのメッセージを確認した。



『マーくんごめん。あたし夏休みの期間バイトがびーっしり詰まっちゃってて、ぜんっぜん休みがないの。週に1回は完全オフがあるんだけど、あとは毎日午後1時から午後8時までバイト。休憩は一応1時間はあるんだけど……もぅマヂ無理って感じ……。本当はマーくんと毎日でも会いたいのに……会って話したり触れ合ったりしたいよ……マーくん……』



 俺は最初このメッセージを見たとき絶望した。

 彩香の気持ちとはうらはらに、絶妙なバランスでシフトが組み込まれてあったからだ。


 労働基準法によると、満18歳未満の場合は、原則として1週間の労働時間は40時間、1日の労働時間は8時間を超えてはならない、となっている。


 また、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上の休憩時間を取ることが定められている、となっている。


 そして彩香の労働時間は午後1時から午後8時までの7時間。だが休憩時間が1時間入るので実質は6時間。


 6時間×6日=週36時間。


 うまい具合に労働基準法をクリアしているのだ。


 まあ、本当に怪しくないところで働いているのだろうということは、この情報から見て改めてわかる。


 だが、これではせっかくの高校生の夏休みが浮かばれないではないか。

 彩香は可憐な華の女子高生なんだ。そして俺の大切な彼女なんだ。

 なのに。なのに……。



 こんなのってありか?



 労働基準法を超える勉強時間をやっている異常な高校生の俺が言うのもなんだが、あんまりじゃないかと思うわけだ。



 しかし一方で、俺は彩香の家庭の事情も聞いている。彩香の母さんが離婚により病んでしまったと。

 だから彩香は我慢して、家庭を支えるために労働基準法ギリギリまで働いているのだろうとも思う。


 彩香は陰ながらの頑張り屋だ。見た目こそは派手ではあるが、心は真面目だ。やはり人は見た目では判断できない。


 そしてこんな忙しい日々の中で俺との時間を作ってくれたり、勉強も頑張っていたのだ。そんな彩香のことは心から尊敬する。


 だから俺は彼氏として彩香を支えるべきだし、彩香の望んでいることをできるだけ叶えてあげるべきだ。少なくとも俺はそう思う。



 では今の俺が彩香に今してやれることはなんだ?



 それから今の俺が彩香に今してやれることについて数時間必死に考えた結果、一つの案が浮かんだ。

 彩香がOKと言ってくれるかはわからないが……。


 でも、俺はもう我慢できん。

 そして彩香にメッセージを送ることにした。


『彩香、今日もバイトお疲れ様。突然だけど、俺も彩香に会いたくて会いたくてもう堪らないんだ。週に1回オフの時に会うだけじゃ足りないんだ。だから、俺が彩香のバイト先に行くから、よかったら俺をご奉仕してくれないか?』


 ボタンを押して送信完了。

 今の俺の想いをメッセージで届けてやった。


 彩香は前に、『その時がきたら〜、マーくんにもた〜っぷりご奉仕してあげるねっ』と甘い声で言っていたが、その時なんていつになるかわからない。

 だから俺がその時を作ることにした。



 そして数分後、スマホがピロンと鳴った。

 彩香から返信が来た。


『マーくんマジでありがと……。ほんと嬉しい……。まだあたし、バイト始めて3か月くらいしか経ってないから上手くできないかもだけど……。マーくんのためにいっぱいご奉仕するねっ』


 よかった。

 彩香は俺の提案に乗ってくれた。

 俺がほっとしたところ、間もなくしてまたスマホが鳴った。


『バイト先は春葉原(はるはばる)駅の西口を出たすぐ近くのビルの3階にあるの。住所は春葉原駅西1-2春葉原ビル3階。お店の名前は……あえて言わない。実際に来てお店の前で確認して。あと、お店に入ったらアヤって名前であたしを指名してね』

『わかった。ちなみに明日も午後1時から午後8時までバイトなんだよな?』

『そうだよ〜。あ、あたし明日できたらバイト終わったあとにマーくんと一緒に帰って夜ごはん食べたいから、よかったら午後7時ちょい前にお店に来てくれないかな?』

『ああ、そうする。じゃあ明日の午後7時頃に会おうな』

『うんっ、待ってるね』


 メッセージはこれで終わった。


 明日は久々に彩香と会える。

 俺は喜びで胸を躍らせた。

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