不穏な山登り
無事にカレーとサラダを作って食べることができた俺たちは、次のイベントである夜の山登りイベントに備えていた。
山登りといっても登山靴が必要だとかそういう本格的なものではなくて、ちゃんとところどころに街灯が付いている舗装された山道を歩いて、難なく山頂まで登る、という安全なルートが確保されている容易な山登りらしい。
また、登るルートと下るルートは別で、それぞれのルートはともに一本道なのだとか。
そして遭難とかそういう危険はないとのことだ。
これを登山用語で言うと、ルートファインディングなんてする必要はなく、アンザイレン、アイゼン、ピッケルもいらない、そしてピストンではないピークハント、らしい。
というのが剛力先生の山登りに関する説明だった。どうやら剛力先生は登山好きのようだ。
しかし登山用語か……。聞いただけでは全く意味がわからなかった。まだまだ知らないことばかりだ。勉強しないといけないな。
「夜の山登り!楽しみだね〜!」
すっかりと元気を取り戻した西澤は、それはそれはウキウキとしていた。
いつもの西澤だ。その姿を見て俺は安心した。
「坂本くん、あの、さっき西澤さんに応急処置してるとき、その、カッコよかったよ……」
俺が西澤のはしゃぐ様を見ていたところ、隣にいた渋田さんが声をかけてきた。
いや、まさか大人しめの渋田さんからお褒めの言葉をいただけるとは思ってもいなかった。なんか素直に嬉しい。
「ありがとう。そういう渋田さんも、さっきの千切りは本当にすごかったぞ。もっとその、アピってもいいんじゃないのか?」
「アピ?」
「あ、たぶんアピールするってことだと思う。詳しくは班の女子たちに聞いてくれ」
「ふふっ、うん。あのね、実は私、今日で班のみんなに色々と励まされて自信もらったの。だから今度から、頑張って色々とアピってみようと思う」
渋田さんはそう言うと両手をぐっとして、笑顔で去っていった。
それにしても、みんなから励まされた、か。やっぱりあのビッチ軍団、見た目はアレだが心は優しいんだな。
◆
山登りが始まった。
この山登りイベントも、基本は班で集まって山頂を目指すことになっている。
なのだが……。
「ご、ごめん……あたし疲れちゃった……ちょっと遅れて、ゆっくり後から……山頂に行くから……」
まさかの西澤がお疲れモードになってしまった。心配だ。
「西澤、大丈夫か?」
「う、うん。なんとか平気……」
平気とは言っているが、キツそうではある。
「先生呼ぼうか?」
「いや、そこまではしなくて大丈夫だから……」
西澤は先生の救援は遠慮した。
それにしても西澤のこんなに辛そうな姿は見たことがない。
なんか食あたりにでもなったか?
もしかしてじゃがいもの芽が完全に取り除かれてなくて悪さをしたとか?
いやはや、とにかく心配である。
「じゃあさ〜、彩香は後から来なよ。ウチらは先に山頂で待ってるからさ〜」
「でも一人であやっぺを登らせるのは可哀想じゃない?」
「まあそうだね。あ、じゃあ、坂本くんにあやちをお願いしよっか!」
「は?お、おいっ!」
俺が西澤のそばに寄り添って心配しているうちに、なんか俺が西澤と一緒に遅れて山頂まで行く流れになろうとしている。
ちょっと待てよ、勝手にそういうのは決めないでくれ。
「坂本くん?坂本くんは彩香の友達でしょ〜?そして男だよね〜?だったら彩香を支えてあげなきゃだよね〜?」
おっと、ここにきて金山さんの眼圧!
俺、金山さんに言いごたえなんてできませんよ。だって目が大きすぎて怖いんだもの。
「わかった。西澤もキツそうだし、俺が責任もって山頂まで連れていく」
「じゃ、坂本くんよろ〜!」
茶谷さん渾身の「よろ〜!」が飛び出したところで、俺と西澤の二人だけの山登りが決定した。
「あ、あの……私も坂本くんたちと……」
「渋田さん!ちょっと話があるから私たちと一緒に山頂に行こ?」
「え、でも……」
「お願い!」
「う、うん……わかった……」
渋田さんは俺たちと一緒に山頂へ行こうとしてくれていたようだが、白川さんに言いくるめられてそのまま連れられていった。
なるほど、これは何か裏があるな……。
俺は突然起きた一連の流れに違和感を持ちつつも、とりあえずは西澤の介抱をしながら山頂を目指すことにした。




