ビッチたちと料理
林間学校の施設に着き、最初に施設の説明などのオリエンテーションがあったあと、各班は山の中に数ヶ所設けられているキャンプ用の炊事場で料理を作ることになった。
「よーし、今から各班ごとにカレーとサラダを作れー。食材は中央の炊事場に用意してあるから、それ持って各班の炊事場で料理するんだぞー。あとは怪我のないように気をつけて作れー。ということで以上だー」
ゴリラの剛力先生の若干適当な説明が終わるやいなや、各班一斉にカレー作りに取りかかった。
「さてさて、担当とかど〜しよっか〜」
班のリーダー、西澤は誰が何の担当にしようか考えているようだ。指をあごのあたりに当てて「う〜む」と言っている。
「とりあえず俺が食材を取ってこようか。食材、重いだろうしさ」
「あ、じゃあマー……じゃなくて坂本くんお願いするね〜」
さっそく呼び方を言い間違えそうになったな……。
と思いつつ、俺はカゴを持って食材を取りに中央の炊事場へ行った。
中央の炊事場には、じゃがいも、人参、牛肉、カレー粉、などのカレー用食材と、キャベツ、トマト、キュウリ、などのサラダ用食材がそれぞれ並んでいた。
「坂本く〜ん。ウチもソレ、運んだげる〜」
俺が食材をカゴに入れていたら背後から声がした。振り向いたところ、そこにいたのはイケてる女子の一人、金山さんだった。
金山さんはつけまつ毛をつけてるのか、目が異様に大きく見える系の女子だ。
語尾をよく伸ばしていて言葉はやわらかめ。だが、とにかく目から発せられるこの威圧感。
怒らせたりなんかしたら目がさらに大きくなるかもしれない。
失礼な言動なんかしたら山でしばかれそうだ。気をつけないと。
「ありがとう。じゃあ一緒にカゴ持って運んでくれないか」
「りょ〜かい〜」
俺と金山さんで一緒にカゴを持って俺たちの班の炊事場へと向かう。
いやしかし、ヤバいな。これまで女子といったら西澤としか話したことなかったからな。何か会話したほうがいいのかな。怒らせないように無難に丁寧に。とりあえずビッチ発言だけは禁句だな。
「金山さんって、西澤と昔から友達だったのか?」
「いや〜高校生になってからだよ〜!てか、名前にさん付けいらないって〜!あ、そういう坂本くんは〜、最近彩香と友達になったんだよね〜?」
「ああ、そうだけど」
「これから彩香のこと、大切にしてやってよ〜」
「あ、はい」
ん?
大切にしてやって?
この言葉の部分がちょっと気になったが……まあいいか。
とにかく俺たちは無事にカゴから食材を落としたりすることなく炊事場に戻ってきた。
そして金山さんとの二人っきりのトークイベントはいったん終了だ。あー緊張したー。
「坂本くん、金山っち、おつー!」
「茶ったんこそ、おつ〜!」
炊事場でせっせと食器類を準備していた茶谷さんが「おつー!」って言ってきた。
そしてそれに対して金山さんが「おつ〜!」って返した。
えーと、なんだ。俺も「おつー!」ってテンション上げて返した方がいいのか?
ちなみに「おつー!」は「お疲れさまー!」で合ってるよな?
「あれ〜?彩香とほわっちと渋田さんは〜?」
「三人はいま火起こす機械的なヤツ?取りにいったよー」
「なる〜!」
ふむふむ、どうやら今の会話から察するに、白川さんは『ほわっち』と呼ばれているようだな。
しかしなぜほわっち?
白川さんの名前に白が入っているから、ホワイトでほわっちなのか?
あと、「なる〜!」は「なるほど〜!」だよな?
なんか未知の言葉を覚えてるみたいで、ある意味非常に興味が湧いてきた。
ギャル語?ビッチ語?
気になるな……。
あとで西澤に色々と教えてもらおう。
その後、食材を水で洗ったりしていたところで西澤たち三人が戻ってきた。
そして茶谷さんが「三人ともおつー!」と、例の「おつー!」を言った。
それに対して白川さんことほわっちさんは「ありー!」と返事。
「ありー!」はありがとうだよな。たぶん。
「火起こす機械借りてきたよ〜」
西澤が手に持っていた火を起こす機械とやらを炊事場の上に置いた。それはガスコンロだった。
ガスコンロは機械……なのか?
「みんなそれより聞いて聞いて〜!しぶたんって料理得意なんだって〜!」
「いえ、あの……。得意って言えるほど得意ってわけじゃないんですけど……」
「えー?でもキャベツをバババッて千切りできるんだよね〜?それってチョー料理できるってコトだよ〜!あたしも弁当とか作ったりするけどゆっくりしか包丁で切れないし、それによく指を切っちゃうんだよ?だからさ、しぶたんはもっと料理できるってトコをアピってこ!ねっ?」
「は、はい……」
おいおい……。渋田さん西澤に押され気味でタジタジじゃねーか。
渋田さん完全に恥ずかしそうに下向いてるし……。しかも『しぶたん』ってあだ名まで付けられてるし。
でも、さすが西澤はギャルでビッチといったところか。渋田さんのような大人しめな人でも関係なくコミュニケーションを取って、積極的に話しかけているところはなかなか一般人にはできないことだと思う。
それと西澤は班のリーダーでもあるし、そういうリーダーとしてのみんなの雰囲気作りを大切にするという部分で、自覚のようなものがあるのかもしれない。
「よっし!じゃあ料理できるカンキョーもできたし〜、カレーとサラダ作ってこー!」
西澤の元気な号令が班員にかかった。
こうしてなんだかんだでカレーとサラダ作りが始まった。
俺は西澤とカレー担当。
俺は食べやすい大きさに人参を切っていった。
「西澤、じゃがいもは芽に毒があるからちゃんと取れよ。あと指切って怪我するなよ」
「わかってるって〜。それよりマー……じゃなくて坂本くんも人参を千切りしたりしないでよね〜」
「誰がそんなことするかよ」
「ふふっ、じょーだんだよ、じょーだん」
他愛もない雑談をしながら西澤と隣同士で料理をしていく。
ふと、なんか不思議だな、と思った。
俺、つい数ヶ月前まで孤高のボッチだったのに、いつの間にか至高のビッチと一緒に料理する関係になるなんて。
人生何が起こるかわかんないな。
「おおー!さすが渋田さん!手さばきすっご!」
「これはもはやプロだよプロ!パないって!」
一方のサラダ担当では、歓声が沸き起こっていた。
ちらっと覗いて見たところ、渋田さんが目にも留まらぬスピードでキャベツの千切りをしていた。
確かにこれはすごい。将来エントリーシートとかの特技欄にキャベツの千切りと書いてもいいレベルだと思う。
「渋田さんすごいな。なんというか、尊敬するよ」
「えへへ……。坂本くん、ありがとう」
「むー。あたしも千切りしてやる〜!」
「は?ちょっ、おい!」
「ほわたたたたたっ!痛ったあっ!」
西澤は突然何をやってるんだ?
急にじゃがいもを千切りしようとして、挙句の果てに指切って……。
やっぱり西澤は謎が深い。頭がいいのか悪いのか……。本当に一体何を考えているんだ……。
「ほら、まずは水道水で指をよく洗え」
「うー」
「で、洗ったあとは俺に見せてみろ」
「うん」
西澤は泣きそうな顔になりながらも、俺に言われたとおりに水道水で指を洗った。
「はい」
「うん、傷は浅そうだな。じゃあ清潔なハンカチとかで傷口に当ててしばらく押さえてろ」
「うん」
「で、止血できたら湿潤療法のできる絆創膏を貼ってやる」
「絆創膏、持ってるの?」
「当たり前だろ?絆創膏はこういう時の必需品だからな」
そう言うと俺はポケットから絆創膏を取り出した。
「ほれ、これで応急処置は完了だ」
数分後、西澤の指の止血も終わったため俺は絆創膏を貼った。
「あ、ありがと……」
「まったく……。先生も俺も言っただろ?怪我しないようにって」
「うん」
「その、今後は無茶したりしないように気をつけろよな」
「わかった。気をつける……」
西澤は自分の行いを反省したからなのか、怪我をしてからは口数が少なくなっていた。終始しょんぼりしていた。
しかし、いつもは明るくビッチ感満載な西澤がしおらしく大人しくなるってのも、なんかいいもんだな。
もちろん珍しいものを見られたって意味で。
「あやち、よかったね」
俺の応急処置が終わったところで白川さんが声をかけてきた。
辺りを見てみると、班のみんなが俺と西澤を見ていた。どうやら俺たちの一部始終が班のみんなに見られてたらしい。
「ちょっ、ちょっとこっち見ないでよっ!」
そして西澤は恥ずかしそうに耳まで真っ赤になっていた。




