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 サイクロプスが出現したという岩山は、王都から西へ馬車で2日ほど行った所にある。

 出現する魔物のレベルはさほど高くないので、王都周辺の草原や森で戦闘に慣れた冒険者が次に向かうくらいの難易度のフィールドである。

 西の岩山は本来サイクロプスが出現するような場所ではないのだが、記録によれば数十年に1度くらいはどこからか迷い込んでくることがあるらしい。


 冒険者ギルドではサイクロプス討伐に参加するメンバーを募集し、今回集まったのは王都を拠点としている3つのパーティーだそうだ。


 1組目は剣士3人のみで高ランクに上り詰めた、全員が30代後半で妻子持ちのベテランパーティー。


 2組目は若いが剣士・魔法使い・僧侶・シーフとバランスの良いメンバーでメキメキと頭角を現しているパーティー。


 最後に、実力は王宮の近衛騎士にも匹敵するというローゼンハイム家の護衛2人と学園一の魔法使いである私のパーティー。

 公にはただの魔法使いと剣士ということにしてあるが、どちらも魔法剣士だ。


 サイクロプスは王都周辺では強敵認定されているが、魔物図鑑を読む限りそれほど強い訳ではないので正直この3組ではオーバーキルだと思う。



「イザベラちゃん王都から離れて大丈夫なのかい?」


 駆け出しの頃からよくしてくれているベテラン冒険者のロイドさんは、少し心配そうに私を見下ろす。

 一応素性は隠しているのだが、ほとんど街中の依頼や王都付近の採集・討伐依頼しか行わないことから彼らには多分貴族だとバレている。


 貴族の中には箔を付けるために冒険者として登録する者もいるし、私のようにお忍びで登録している者も少数だが存在するそうだ。

 それに、貴族の長男以外は家を継げないので違う職に就く必要があり、下級貴族の子供は冒険者になる者も多いらしい。世知辛いぜ。


「えぇ。ちゃんと許可はもらってるから大丈夫よ。心配してくれてありがとうロイドさん」


「ま、これだけのメンバーが揃ってりゃ大抵の魔物は大丈夫だろ。さくっと退治してさっさと戻ってこようぜ」


 ロイドさんに心配いらないと笑い返したら、仲間のギルバートさんが明るく笑ってロイドさんの肩を叩いた。


「もう!ギルバートさんは楽天的なんだから。いくら王都のギルドで上位のパーティーが揃ってるとはいえ、サイクロプスですよ?」


 別のパーティーの魔法使いであるメリルがぷくりと頬を膨らませると、ギルバートさんは苦笑して肩を竦める。

 私と同い年くらいなのに頬を膨らませる仕草が可愛いとか、美少女は得だな。私がやったらウィル辺りに嫌そうな顔をされるに違いない。


「メリルちゃんは心配性だな。お前らのパーティーはワイバーンも楽勝だったんだろ?サイクロプスだって難易度的にはそう変わらんだろ」


 ワイバーンは亜種とはいえ竜種に分類されるため、トカゲ系の魔物とは一線を画す存在だ。竜からするとあんな奴羽の生えたトカゲじゃねーかという認識らしいが。

 それを倒したことがあるなら、ギルバートさんの言うようにサイクロプスも問題ないと思う。しかし、メリルの表情は曇ったままだ。


「楽勝という訳では…それに私、サイクロプスの弱点である雷系の魔法は使えないんです。イザベラさんに負担をかけることになってしまうかもしれないじゃないですか」


 メリルは平民の魔法使いなので魔力量があまり多いとは言えず、使える魔法も少ない。

 この国では魔法の資質は血統によるところが大きく、平民より貴族の方が魔力量が多い。王子の婚約者の選定条件に魔力の項目があるのも、高い魔力を持つ子供を産ませるためだ。

 また、下級貴族でも学園に通ったり家庭教師をつけたりして魔法を学ぶので、必然的に平民より使える魔法が多くなる。

 中には貴族並みに魔法を使える者もいるが、数はあまり多くない。


「大丈夫よ。サイクロプスは初めてだけど、ギルバートさんの言った通り難易度ではワイバーンと変わらない…というかむしろ低いはずだし」


 どちらも巨体で攻撃力も高いが、ワイバーンは飛行能力がある分サイクロプスより難易度は上だ。

 私はどちらとも戦闘経験がないので確かなことは言えないが、普通に考えて同じような条件の身体なら翼がある方が倒すのは大変だと思う。


「そうだよメリル。それに、魔法しか効かない訳じゃないんだから僕達も戦力になるはずだし、皆で頑張ろう」


 メリルの仲間の剣士でリーダーのカイがふわりと柔らかく微笑む。

 カイは剣士にはあまりいないタイプの、大抵いつも微笑んでいる癒し系の青年である。

 少し気が小さく小動物みたいな可愛い系魔法使いのメリル、おっとり系巨乳僧侶のロザリー、美脚が自慢の姉御肌なシーフのシルフィの3人とは幼馴染みで、全員美女なので羨望と嫉妬の眼差しでカイを見つめる冒険者は多い。


 個々の能力もさることながら幼馴染み故の連携の良さで危なげ無く戦闘をこなす、若いながらも中堅組に肩を並べる実力者なので手を出す馬鹿はほとんどいないが。


「そうよメリル。大丈夫よ」


 今日もけしからんおっぱいが揺れるロザリーが、にっこりと微笑んでメリルの手をそっと握る。


「最悪イザベラちゃんが消し炭にしてくれるわよ。あ、勿論素材剥ぎたいから基本は加減してほしいけどね?」


 美しい脚を惜し気もなく晒すシルフィが、私を見てバチンとウインクしてくる。


「了解。任せて」


 素材の回収や討伐証明部位の確保を考えなければ、シルフィの言う通り最悪消し炭にしてしまえばいいのだ。最優先するのは全員の生還なのだから。


「さ、お喋りはその辺でおしまいだ。馬車の準備ができ次第出発するから、1時間後に西門に集合してくれ」


 今回私達の分まで馬車の手配をしてくれたロイドさんの仲間のサムさんがパンパンと手を叩いて場を締める。


「はーい」


 ギルドでメンバーの顔合わせをし、情報共有してからということだったので馬車の手配はしてあったが時間まで指定できなかったらしい。

 ある程度準備はしてあるが、最終調整をして西門まで連れていくのに多少時間がかかるとのことだ。


「じゃあ馬車の方お願いしますねサムさん」


「おう。また後でな」


 ロイドさん達と別れ、私達はギルドを出た。

 カイ達も買い物をしたいというので別れ、私も護衛と一緒に市場を少し見ることにした。



◆◇◆



「お嬢様」


 人通りの多い道を外れ、建物の陰に入ったところで市場の喧騒に紛れるような絶妙な声量で呼び掛けられる。


「街ではイザベラって呼んでほしいのだけど?」


 頭1つ以上高い場所にある顔を見上げて首を傾げると、彼はぴくりと眉を動かした。


 何度も一緒に依頼を受けている護衛達だが、未だに時々お嬢様と呼んだり敬語を使ったりしてくる。

 幼い頃からローゼンハイム家に仕えるよう訓練しているという彼らは、基本的に従順でハイスペックなのだが敬語を止めたりするのは難しいらしい。

 仕える家の、しかも当主が溺愛している娘にタメ口聞けとか私が無理なお願いをしているのが悪いのだが。


「申し訳ございま…すまない。イザベラ、馬車の手配はこちらで行う方がいいのでは?」


「ロイドさん達の好意を無下にはできないわ。冒険者は横の繋がりも大事だし」


「分かった。だが、馬車の点検は許可してほしい」


「うん。でもバレないようにこっそりね?せっかく用意してくれたのに嫌な思いをさせたくないから」


「心得ている」


 護衛のリーダーであるアスベルは無理矢理敬語を止めているからか口調が堅い。

 ロイドさん達が気付いたのってアスベルのせいも少なからずあると思う。


 不満が顔に出ていたのか、もう1人の護衛が私を見て苦笑しながらアスベルの肩を叩く。


「まぁまぁ、そう難しい顔をするなよアスベル。俺達が調べて何も出てこなかったんだから怪しい連中じゃあないだろ」


「シヴァは楽観視しすぎだ。我々とて万能ではないのだ、常に最悪を想定していろ」


「それは分かってる。でも、お嬢の数少ない楽しみの1つなんだ。あまり水を差すなよってこと」


「…善処する」


「そーゆーとこな」


「アスベルは真面目すぎよね。シヴァくらい砕けてくれると嬉しいんだけど…まぁ、無理を言ってるのは理解してるわ。本当は嫌よねこんな仕事」


「そのようなことはない」


「そうそう。これで俺達も楽しんでるから気にしないでくれお嬢」


「ありがとう。あなた達がいてくれて本当に良かったわ。これからもよろしくね」


「「はっ」」


 ……そこはシヴァもアスベルと一緒に返事しちゃうのな。

 跪いたりしないだけまだマシというところか。


「遅くなって悪…って、ん?これどんな状況?」


 用事を頼んでいたもう1人の護衛が足音も立てずに物陰から現れ、姿勢を正して私を見ている同僚の姿に首を傾げる。


「これからもよろしくねってお願いしてたとこ。ジルもよろしくね?」


「うん? えぇ、勿論全力でお守りしますとも」


 ジルはわざと芝居がかった仕草でお辞儀をして片目を瞑り、悪戯っぽく笑う。


 ジルとシヴァは似ているが、ジルの方が茶目っ気のある性格のようでこういうこともできる。

 シヴァもアスベルと同様に真面目なタイプなので、砕けた喋り方はできるが友人のようにふざけたりはできない。

 ジルは童顔だから実年齢より若く見えるし、それに合った言動をするので私と同い年くらいに感じる。実際はアスベル達と同じ20代後半なのだが。


「それはさておき、ご所望の物をお持ちしましたよ」


 ジルはにっこりと笑って形の異なる鞄を3つ差し出してくる。


「ありがとう。1つはアスベルが持っていてね。2つはロイドさん達とカイ達に貸すわ」


 サイクロプスは巨人なので、取れる素材も多いだろうから大容量のマジックバッグをロイドさん達に貸すために取りに行ってもらっていた。


 マジックバッグとは、見た目は普通のリュックやショルダーバッグだが、空間拡張や重量軽減等の魔法で改造された鞄であり、大きさや重さに関係なく大量に物をしまえるまさに魔法の鞄だ。

 容量や性能により値段が異なり、性能が良ければ良いほど高価になるため普通の冒険者はあまり持っていない。


 ダンジョンや古代遺跡から発見されたものは性能が良いと言われており、数が少なく貴重な物なのでほとんど王族や貴族が所有している。

 お前ら使わねぇだろ!と思うが、貴族は珍しい物が好きだしそれを自慢するのが大好きなので金にモノをいわせて手に入れるのだ。


 一般に出回っている物は大体見た目の3倍くらいしか容量がなく重量があまり変わらないため、一部の冒険者と商人くらいしか使っていないようだ。


 ローゼンハイム家所有のマジックバッグは私と兄が作った特別製で、私の理想を兄が構築し、2人で豊富な魔力にものをいわせて作り上げた傑作だ。


 やっぱり無限収納袋はロマンだよね。


 容量ほぼ無制限、重量無視、時間経過無し、自動整理機能まで付いている。

 正直魔法式が複雑過ぎて何をどうしてそれが成り立っているのか分からないが、とにかく何をどれだけ入れても大丈夫で入れた物の品質劣化も防いでくれる素敵な鞄が出来上がった。私の兄は天才だと思う。


 盗難防止に私と兄の承認が無ければ使えなくしてあるので悪用される心配も少ない。私達以上の魔法使いに破られれば仕方ないが、今のところ宮廷魔導師でもコレを解除できたのは父くらいらしいので多分大丈夫だろう。魔法の扱いに長けたエルフとかには破られるかもしれないけど。


 形は一般的な物に近いリュック型なのであまり目立たなくてすむと思うが、性能については内緒にしてほしいとロイドさん達にお願いしておこう。

 まぁ、こんな物を持っていたら無駄に狙われるかもしれないので不用意に情報を漏らしたりしないだろうが。


「じゃあ、買い食いでもしながら西門に向かいましょ」


「数日分の食事とか必要そうな物はもうバッグに入れてあるから、後はイザベラの好きな物を買えばいいよ」


「ありがとう。相変わらず仕事が早いわね」


 旅に必要なものを揃えるのも冒険の醍醐味だが、私より彼らが行った方が万全だと思うし、どんな物が必要でどんな品物か、選び方、適正価格はいくらか、等と必要な情報は街を巡りながら教えてくれる。

 彼らの仕事は私の護衛であり、準備不足で私に何かあれば彼らの首が飛ぶのだからそこは妥協している。


「まぁね。そういえば、イザベラがよく行く屋台に最近新作の串焼きが出たって話だよ。行く?」


「行く!」


「お嬢は食いしん坊だからなぁ」


 ジルの言葉にすぐに頷けば、シヴァがカラカラと楽しそうに笑う。反対に、アスベルの表情はやや曇っている。


 何だ。何が不満なんだ。屋台なんてよく行くじゃないか。

 今更ダメとか言わないよな?


「行くのは構わないが、状態異常無効化の指輪をしているからといって初めに食べるのはやめてくれ」


 どうやら、前に待ちきれずにアスベルより先に食べてしまったのを根に持っているらしい。

 そんなの街に行き始めた子供の頃の話じゃないか。

 あの時はアスベルに泣きそうな顔で今後絶対に止めてくれと言われたから、それ以降はちゃんとアスベルの言う通りにしているというのに。心配性め。


「そこはアスベルが頑張ってお嬢より早く食べればいいだけだろ。な、お嬢?」


「ちゃんとアスベルが食べるまで我慢するわよ。そこまで子供じゃないわ」


 そんな言い合いをしながら市場を回り、西門に向かった。



 さぁ、楽しい冒険の始まりだ。



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