第五話:目覚め
翌日の昼過ぎ、午前中に座学を終えた子どもたちとシスターは森の前まで来ていた。
「いいですねー。みなさん。今日の目標は『森の不思議を集めよう』です。森にある植物や虫、みなさんが不思議と思うものを一つ持ち帰ってきてください。また明日、その拾ってきたものについて調べます。けが無く安全に、注意して森を探検してきてくださいね。」
「はーい!」
子どもたちは各々に分かれて森へと入っていった。
レオとサニアは互いに力が暴走しないよう、二人で一緒に行動することにした。
「お兄ちゃん!見て!これ、きれいじゃない?」
「なんだそれ?キノコか?」
「これねー、いいにおいするの。この前アンちゃんに教えてもらったんだー。これにしよー」
「まあーいいんじゃね?俺は何にしようかなー。せっかくなら、でっけーツノがあるかっこいい虫がいいよなー」
「ふん!お前なんかに見つけられるもんか!」
顔を上げると、そこにはぽっちゃりおなかのソルドがいた。
「かっこいい虫は俺が捕まえるもんね!」
ソルドが駆け出した。
「なにっ!俺のほうが速く捕まえるもんな!」
レオはソルドの後ろを走って追いかけた。
「もう、お兄ちゃん、走らないでよー!」
サニアもその後ろについていった。
もう、どこまで行っただろうか。人気のない森の奥まで来ていた。しかし、ソルドとレオは走り続けていた。
「お!いたいた!」
二人はついに大きなツノを持つ虫を見つけた。それは、高さ十メートルくらいの木の枝にとまっていた。ソルドはボロボロの木を登っていく。木葉は風で大きく揺れていた。レオは先に登られてしまったため、木の下で虫が落ちてくるのを待つことにした。すると、
「う、うわー!」
ソルドが木の半ば五メートルの位置の太い枝の上で止まっていた。あまりの高さにすくんでしまったのだ。
すると、木のふもとに最悪の来客が来てしまった。サニアと同じくらいの大きさのイノシシであった。
ドスッ、ドスッ、ドスッ
イノシシが木に突進し始めたのだ。枝はだいぶ古く、振動で激しく揺れ動いていた。
「やばい、この枝、長くはもたないかもしれない・・・。おい!ソルド!早く降りて来いよ!」
「お、降りるものか!そうやって横取りしようとしてるんだろ!その手にはのらないぞ!」
ソルドはイノシシの存在には気づいておらず、無理をしてまだ進もうとしている。枝は激しく揺れ、ひびができてきていた。
(まずい、どうしたら!このまま落ちたら、けがじゃ済まないかもしれない!イノシシだって、どうしよう、シスターを呼びに行くか?いや、それじゃ間に合わない。どうする?どうする!)
ビキッ
ひびが大きく開く音が聞こえた。ソルドは目をつぶって震えている。
「う、うわーん!だ、誰かーたたた助けてー!」
次の瞬間、レオのあざが青く光り、目が青く輝きだした。青いオーラが彼の身を包んでいた。レオも体中に力がみなぎってくるのを感じていた。ジャンプをしようとした瞬間、
「お兄ちゃん!」
サニアの声が聞こえた。レオが振り返る。サニアが、『や・く・そ・く』と口パクしているのが分かった。しかし、それどころではない。サニアも木の上のソルドの存在に気がついた。
「ど、どうしよう・・・。シ、シスター呼んでくるっ!」
サニアが駆け出したその時、レオがサニアの手をつかんだ。
「時間がない!俺たちでどうにかするんだ!」
「で、でもどうやって!ダメだよ!力は!あ、お兄ちゃん!」
レオはイノシシに向かって駆け出した。右手をグーにして、肘を引き、拳にめいいっぱい力を込めて、イノシシへまっすぐ突き出した。イノシシが四メートルほど飛んでいった。サニアは両手で口を覆って立ち尽くしていた。幸い、近くの木が揺れただけで大きな爆発にはならなかった。イノシシは数秒気絶した後、ビクッと飛び起き、猛ダッシュで遠くに逃げていった。
レオは即座にソルドのもとへ向かった。
「そこは危ない!手を伸ばせ!ソルド!」
「ううっ・・・。こ・・・怖い・・・」
ソルドは泣きながら震えている。声が届いていない。仕方なく、レオはソルドのほうに向かっていった。すると、次の瞬間、
バキッ
二人の体がふわっと浮いた。木の枝にしがみついていた足が離れ、腕だけでしがみついている状態になった。そう、とうとう木の枝が折れたのだ。
「や、やばっ!」
レオの青い光が消えた。
「あー!しにたくないーーー!」
ソルドの断末魔が森に響いた。
サニアが小さい体でありながら、二人を抱えようと走り、目をぎゅっとつぶって、両腕を広げたその時。
サニアの手の甲にあるあざが、青く光り出した。
すると、青く半透明で大きな手が二つ、サニアの手と共鳴するように現れた。
(ん・・・?なんだ?確か俺たち落ちて、やわらかい・・・手のひら?)
レオが目を開けてみると、地面が青く光っているように感じられた。しかし、この青白い光を放っているのは、どうやら地面じゃなさそうだ。
「サニア!お、おま!」
サニアがゆっくり目を開く。
その青く大きな手は、地上三メートルほどの位置で、落ちてくる二人を見事キャッチしたのだ。
「わ!な、ななにこれ!?」
「す、すげぇ・・・!」
レオもサニアも初めて力が実体化したものを見たため、息をのんだ。
幸い、ソルドは恐怖のあまり、気を失っていた。
「サ、サニア!ひとまず下ろしてくれ!」
「う、うん。わかった・・・。」
サニアは戸惑いながらうなずき、自身の両腕は伸ばしたまま、ゆっくりかがんで片膝立ちになった。それに合わせて、その手もゆっくりと降下した。サニアは自身の両手をゆっくり離し、二人をそっと地面に置いた。
その後、ふわっと手が消え、あざの青い光も消えた。
カー、カー
もう日がゆっくりと沈み始めていた。
「サニアの力、手・・・、なのか?」
「そ、そうみたい・・・。初めて出た・・・。」
サニアは目をぱちぱちさせていて、固まっていた。
「他の人に気づかれたらまずい!なんかてきとうなもの持って帰って、シスターのところ戻ろう。俺、ソルドおんぶするから、なんか俺のものてきとうに帰り道で拾ってくれ!」
「わかった・・・。」
サニアはまだ自分の手のひらを見つめていた。
「ほら!行くぞ!サニア!」
サニアはハッとし、レオの後ろをついていった。
キキキキキ キキキ
落ちた太い木の枝が夕日に照らされ、静かにたたずんでいた。
数分前・・・
アンは女の子二人とともに散策をしていた。彼女らは、木のふもとにある花々に夢中であった。
「アンちゃん、これなんて言うの?」
「あー、これはねー。ルカシュビナかも!この星みたいな花びらが特徴なんだよ。」
「へー!そうなんだー!私これにしよー!」
「えー、いいじゃん!」
「あー!しにたくないーーー!」
森の奥からソルドの声がした。
アンはすっと立ち上がって、声のするほうへ向かっていった。
「アンちゃーんどこ行くの?」
「ちょっと気になることがあって、二人で先戻ってて―」
アンは走って、奥へと進んでいった。二人はわけのわからない様子で目を見合わせた。
十何分歩いたところで、太い枝が落ちている小さな平地があった。その枝の近くの木からホロホロと木の粉が降ってきていた。また木の幹の裏には、何かが横からぶつかり続けたような跡があった。
「イノシシでも来たのかな。相当大きいサイズだわ。ここでなにかあったのかな・・・。確かこのあたりだと思うんだけど、ソルドの声がした気が・・・ただ事じゃない感じがしたけど・・・。」
誰もいない目の前の平地にアンは疑問を抱いた。
(もし、この太い木の枝が折れて落ちてきたとしたら、きっとすごい音がするはず。でも、そんな音はしなかった。なんでだろう?)
落ちた木の枝に触れながら、アンは考えた。
するとアンは、一時間ほど前にソルドとレオが森の奥へ走っていくのを見かけたことを思い出した。
(もしかして、レオが・・・?)
しかし、日が沈み始めていたため、アンはひとまず切り上げることにした。
「ん・・・?あれ?なんで寝てたんだ?」
ソルドがレオの背中の上で起きた。
「おまえ、つかれてお昼寝するんじゃねーよ。起きたなら降りてくれるか?」
「お・・・おう。」
ソルドがレオの背中から降りた。三人で歩いていく。
「レオ!おまえ!え・・・?俺がお昼寝してた・・・?違うよ!虫を捕まえるために競争してたじゃないか!虫はどうなった!」
「あー、逃がした。」
「逃がした!そんなことあるか!おまえ隠してるんだろ!」
「隠してないよ。まあ、収穫なしはまずいので、サニア、見せてあげて。」
サニアはソルドにさっきの虫より二回り小さい虫を見せた。
「どうぞ。」
「あ、ありがとう・・・。」
ソルドは戸惑いながらも、サニアからその虫をもらった。
「ひとまず、いそいでシスターのところまで戻ろう。勝負は次だな。」
「おっ・・・おう・・・。」
三人は夕日が差し込む森を後にした。




