第六話:追っ手
その帰路。
「サニア、今日のことは父ちゃんや母ちゃんには秘密だ。ソルドもなんか気づいてなさそうだったし、誰にも見られてない。二人とも力を使ったんだ。二人とも怒られて終わるぞ。」
「うん・・・。でもさ、本当に言わなくて大丈夫なのかな?私、初めてだったし・・・。だって、今回は誰にも迷惑かけてないよ?人助けだし。怒られないんじゃないかな?」
サニアはうつむきながらそう言った。
「そんなこと言ったら、俺だって初めてちゃんと使えたんだ。前は一瞬出ただけだったし。父ちゃんたちは使うなって言ったんだ。約束破ったのは破ったんだから怒られるだろうよ。」
「うーん。」
森の中を行く二人を、やさしく夕日が包み込んでいた。月が見え始めていた。
「「ただいまー」」
「あれ?どうしたの二人とも・・・?」
ルシアンとマルゴがひとつの紙を見つめていた。
「あら、お帰りなさい。二人とも、夜ご飯の前に大事な話があるから、ここに座ってくれる?」
レオとサニアは恐る恐る座った。
(怒られる・・・?もう二人に知られちゃったのかな・・・?)
レオはそう思いながら椅子に座った。
「二人に伝えないといけないことがある。」
ルシアンが今までにないような真剣な面持ちで二人を見つめた。
「今日この紙が配られたんだ。」
ルシアンが、机の上にある紙の上に手を置いた。
「なんなのそれ・・・?」
「これは、『国が、お前たちのように青いあざを持っている人たちを探している』というものだ。」
「それの何がいけないの?」
サニアが不思議そうに問いかけた。
「カネ、お金・・・?」
レオが何かを察したように、青ざめた。
蘇るのは、あの日の記憶―。どんなに走っても追ってくる奴ら。奴らが時々口にしていた、『カネ』という文言・・・。
「また、俺、追いかけられるの?捕まったらどうなるの?」
レオが唇を震わせながら、ルシアンの袖をぎゅっと握りしめ、聞いてくる。
ルシアンがレオの両肩を強く握り、しっかりと目を見て話した。
「大丈夫だ。絶対に二人は守る。悪い奴らなんかに渡したりしない。だから・・・、だから二人とも、今まで以上に注意が必要だ。外であざが見つかったら、連れていかれるかもしれない。もう絶対にあざは人に見せてはいけないよ。そして、家の中だろうと外だろうと関係ない。力を絶対に出さないようにするんだ。いいな?もし出そうになったら、深呼吸して、人のいない場所に行くんだ。」
「そして、力が落ち着くまでは絶対に家の外に出ないこと。その時は、教会もしばらく休むんだよ。」
マルゴが声を震わせながら、二人の目を見てそう言った。そう言って、二人をぎゅっと力いっぱい抱きしめた。
「絶対に連れて行かせないから。」
サニアが恐る恐る、不思議そうに聞いた。
「国に連れていかれたら、どうなるの?」
「捕まったら最後、ずーっと牢屋に入れられるんだ。出てこられなくなる。」
そうルシアンは答えた。
「なにも悪いことしてないのに・・・?」
「ああ・・・。」
ルシアンはうつむきながら答えた。そして、再び二人のほうを見て、
「絶対に守る。俺を信じてくれ。言うとおりにしてくれれば、絶対につかまらない。」
ルシアンも二人を抱き寄せた。
レオとサニアは目を合わせる。果たして今日のことを話すべきなのか・・・。二人は何も言い出せないまま、夜が明けた。
―翌日―
カーン カーン
教会の鐘が鳴り響く。二人は着席し、少し遠くを見つめていた。
「おい!おまえら聞いたか!」
ソルドが得意げに他の子たちに話し始めた。その手には昨晩のチラシが。
「こいつらを見つけると、国からいっぱいお金がもらえるんだとよ!俺、これで一攫千金狙っちまおうかなぁ~。なんつって!」
「へー!」
「すごーい!」
「なになに?」
子どもたちがソルドの話に興味津々になってる間、レオは下を向いて目をつむっていた。
(話しかけられませんように、話しかけられませんように・・・)
「おい!レオ!どうだ!今度はこれで勝負しないか!」
ソルドがチラシを持って、近づいてくる。
「ん~、俺、あんまりそういうの興味ねーしなー。もっと面白い勝負ないの?」
レオは目をそらした。
すると、少し離れたところにいたアンがソルドにこう答えた。
「お言葉だけどソルド、それは大人宛に届いたお便りで、私たちには到底できない話よ。」
「えっ!?そうなのか?」
「子ども相手に、国が金払うわけないでしょ?まして、相手が大男だったら?国に伝える前に、見られただけで私たちのほうが消されてしまうわ。」
「おお、それはやばいな・・・。」
「こういうのは大人に任せておくのが一番よ。お父さんにでもお願いしたら?」
アンの堂々とした態度にソルドだけでなく、周りのお子ども達も圧倒されていた。
「はーい、みなさん席についてください。朝の会を始めますよ。」
シスターの声が講堂に響き渡った。
午前の座学を終え、下校時間になった。
「お兄ちゃん、お腹すいたぁ。早く帰ろう。」
サニアが、レオの帰りの支度をせかしていた。
「おう、」
二人はいつもどおり下校した。
二人が森を抜け、家の前の小さな坂道を下っていた。
そこに、二人を追う影がひとつー。
「今日は危なかったね。」
サニアがレオの顔色を伺いながら聞いた。
「なんとかなったな。」
レオがサニアに微笑みかけた。
「これから、どうなるんだろう。教会に行けなくなったりするのかな?引っ越しとか・・・」
「大丈夫さ、なんとかなる。心配しなくていいよ、サニア。今まで通りにしていれば、見つからないさ。」
「うん。」
山から流れてきている小川は、二人の帰路に沿っていた。水はよく冷えていて、夏は水浴びには十分すぎる冷たさであった。
「足だけ浸かってもいい?暑いんだもん。」
「下流になってからな。足だけだぞ、手はだめだからな。あと、俺にはかけるなよ。」
レオが目を細めて忠告した。
「ふふっ、はーーい。」
サニアが駆け出した。レオもその後ろをついていく。
ササッ
(?)
レオは草むらでしたわずかな物音に気がついた。
「お兄ちゃん!先行っちゃうよー!」
サニアが二十メートル先で呼んでいる。
「お、おう!今行くよ!」
(イノシシか?)
レオは違和感を覚えながらも、サニアについていった。




