第四話:青い力
二人がルシアンとマルゴのもとに来てから四年の月日が流れた。
二人は近くの村の教会に通っている。教会では主にシスターらが、読み書きをはじめとする生きる上で必要最低限の技術や知識を子どもたちに教授していた。二人はあざを隠しながら『普通の子ども』として生活していた。
「おい、サニア!遅れっちまうぞ!」
レオが玄関の扉を開けて、サニアのことを待っていた。
「待って!まだあざ消せてない!」
サニアは肌色の粉を手にパフパフさせながら走って玄関に向かってくる。
「あっ、やべ!忘れてた」
「はいどーぞ!まずクリームからね!」
サニアは肌色のクリームをレオに差し出した。
「あんたが忘れてたのかい!もう、しっかりしなさいな。」
「ははっ、うっかりうっかり・・・」
レオが頬にクリームを塗る。
「すこし減ってきたね。また増やしておくよ。」
「ありがと!お母さん!行ってきまーす!」
サニアが玄関から飛び出した。
「お、おいサニア!置いてくなー!」
その後ろをレオが追いかけていった。二人の影が森の中へ消えていった。
カーン カーン
教会の鐘が村中に鳴り響く。
「何とか間に合ったぜー」
「五分前には着いてたし、余裕なほうでしょ!」
サニアとレオは席について話している。朝の講堂は子どもたちの声でにぎわっていた。
「はーい、みなさん座ってくださいねー」
シスターが講堂に入ってきた。教会では座学は自由席で、各々のレベルに合わせた学習を行っていく。レオは、国語はサニアと同レベル、算数は年齢相応のレベルを習っていた。サニアはどちらも年齢相応のレベルを習っている。
「それでは朝の集会を始めます。明日についての連絡です。明日の午後に森へ散策しに行きます。ズボンと靴を履いてきてくださいね。」
「シスター!ってことはレオの家に冒険に行くってことですかー?」
お調子者のぽっちゃりなソルドが、レオのほうを見て、にやりとしながら大声でシスターに問いかけた。
「いいえ、レオのおうちのほうとは真逆の小さな森ですよ。けれど少し坂があるので動きやすい格好で来てくださいね。」
「はーーい。」
ソルドが細めでぷすっとすねたように答えた。レオも少し顔をしかめて、軽くうつむいていた。こうしてその日の朝の会を終えた。
まず、朝の時間には座学を行う。
「レオ、上手に書けているわ。よし、次はこれを書き写して見なさい。」
主に国語の学習は書き写し、作文を反復し文字の定着を図っている。算数はおはじきを用いながらの計算を経て、紙での勉強に移る。サニアはおはじきを動かしながら問題を解いている。しばらくすると手が止まった。シスターのほうを見るが他の子を教えている。サニアはしばらく考え込んでいた。
「ここはね、こうして、こうするとわかりやすいよ。」
とある少女が机の上にリボンを置いて、おはじきを右のグループと左のグループに分けて見せた。
「ありがとう!アンちゃん!」
「わからないところがあったら、私に聞いてね!」
彼女は村の地主の娘であるアンだ。レオと同い年である。二人の兄がおり、どちらも優秀であると村でも有名だ。その妹だからか彼女も優秀であった。年齢よりも二歳上の内容を勉強しているらしい。特に二人と一緒にいるわけではないが、わからないところがあるとすぐに教えてくれ、サニアにとって頼もしいお姉ちゃんのような存在であった。
「アンはいいよなー。勉強できて。」
レオがぷすーっとしながら言った。
「お兄ちゃんの倍の大きさののーみそがあるんだから仕方ないよ!もう出来が違うのよ。」
「あれー?それは褒められてるのかなー?」
「めっちゃほめてる!」
サニアが目を輝かせながら言った。
「ありがとう。サニアちゃん。」
アンは嬉しそうに、サニアの頭をなでながらそう言った。
その日は午後の行事がなかったため、お昼に帰る時間となった。
「じゃあ、みなさん。明日は元気に来てくださいねー!」
「はーーーーい!」
子どもたちの元気な声が教室一杯に響いていた。
「「ただいまー!」」
二人の元気な声が家中に響き渡る。
「おや、今日は早いお帰りだね。」
マルゴは畑から戻ってきたばかりの様子だった。
「お昼ご飯は!何!」
レオが元気よくマルゴに言った。
「はいはい、準備するからお待ち。二人とも暑かったろう。顔洗って、クリームも落としてしまいな。」
「「はーい」」
二人は洗面台へ向かった。蛇口を絞ると今朝川で汲んだ水が出てくる仕組みだ。サニアはぎゅっと蛇口を力いっぱい握りしめ水を出した。出てきた水でパシャパシャと洗う。意外とごしごしとしなくてもクリームは落ちるものであった。近くのタオルで水を拭きとり、再びリビングへ向かうのであった。その手のあざは、ルシアンに拾われた時よりも大きくなっていた。
「おー、おまえたち帰ってきてたのか。」
ルシアンが汗を拭きながら家に戻ってきた。
「うん。明日、森の散策があるんだ。」
「あーそうなのか。じゃあせっかくの機会だし二人に話しておこうかなー。」
そう言ってルシアンは二人を椅子に座らせた。
「はなしって?」
「うん。二人の力についてだ。明日は森への散策ならいつもと違いちょっとしたハプニングが起こるかもしれない。でも、約束してくれ。絶対に」
「「力は使わないこと。」」
「もう何十回も言われてるからわかってるよー。」
サニアが少し困ったようにそう言った。
「サニアの場合は、まだ具体的な力がどういうのか分かっていない。一番気をつけなくちゃいけないんだぞー。この傷だって、レオも悪気があってつけた傷じゃないんだ。」
ルシアンはサニアの前髪を上げ、おでこにある傷をなでながらそう言った。
二年前・・・。
二人は小川で水遊びをしていた。
「これは俺の!おまえのものじゃない!」
「今はわたしが使ってるもん!わたしの番!」
二人はあるものを取り合っていた。
それは、ルシアンがかつて水を汲むために使っていた木製のバケツだった。レオは、そのおさがりをおもちゃとしてもらっていた。それをサニアはうらやましくなったため、レオが使っていない間にバケツを使うようになっていた。
「俺の!」
「わたしの!」
その時、何かがレオを押した。
「うわっ」
「今は私のなの!」
サニアがぎゅっとバケツを抱えている。
「それは俺のなんだ!」
その瞬間、レオを青い光が包み込んだ。
ドーン!
小川の水が空高くまではじけ飛んだ。爆発音のような大きな音がしたため、マルゴとルシアンが家から飛び出てきた。走って行ってみると、レオの顔が青ざめているのが分かった。レオの額は青く光っていて、あざが広がって行くのが見えた。小川周辺が水浸しになり、軽く地面がえぐれていた。あたりには草や石ころが散乱している。そこには、二つに割れたバケツと、その近くにサニアが横たわっていた。
「どうしたんだ!何があった!」
レオは立ち尽くしている。呼吸は浅く、動機がしていた。あまりの出来事に気が動転し、目の前がゆがむようだった。
「サニア!大丈夫か!」
「レオ、けがはないかい?何があったんだい?」
ルシアンがサニアの体を起こすと、おでこから血が出ていた。近くに血がついた石が転がっていた。爆破の反動で飛んで行ったものであると推測された。
「お、俺・・・。わ、わざと・・・じゃ・・・ないっ・・・。」
「わかった、わかったから。大丈夫だから、落ち着きなさい」
マルゴはレオを抱きしめ、背中をさすり続けた。少しずつ呼吸が元の速さに戻っていく。額のあざの光が徐々に消えていった。
「ひとまず、けがの治療だ。」
ルシアンはサニアを抱えて、家まで走っていった。―――
「この傷は二人が気をつけなくちゃいけない証でもある。それはレオが一番分かってるとは思うが、」
「俺はもう力は使わない。出さないようにしてる。教会でも。」
レオは俯きながらそう言った。
「ああ、この力はおそらく、出そうと思って出せるものじゃない。気持ちが高ぶると出てしまうんだ。きっと。もう少し二人が大きくなったら制御する練習もしよう。ただ、今は、明日は、絶対に使わないこと。気持ちを落ち着かせること。いいな?」
「わかった。」
サニアはうなずきながらそう言った。
「さあ、昼食の準備ができたよー。手伝ってちょうだい。」
「「はーい!」」
二人はマルゴのもとへ駆け出した。その姿を見ながらルシアンは、二人がこのまま何事もなく大きく育ってくれますようにとと祈るのであった。




