第二話:紡ぎ
その少女もけがをしており、服が汚れていた。服装を見るに、いいところのお嬢ちゃんではないかと思ったが、光ってはいないものの少年と同じような藍色のあざが手の甲にあったことで、そうではないと確信した。
「この子は君のお兄ちゃんか?」
男が問いかけると、少女は首を横に振った。
「お父さんやお母さんは?」
少女はうつむき、首を横に振った。その目は静かに小さな足を見つめていた。
男は少しの時間、うつむき考え、ふっとため息をついた。
「よし!お嬢ちゃんもついておいで。スペシャルにおいしいスープを食べにいこう。腹が減っては戦はできぬだからな。また明るくなったらお母さんたちを探しに行こう。な?」
少女は少し笑みを浮かべ、こくんと頷いた。
「よし、おいで。歩けるか?」
男は荷物を前に持ち、少年を背負った。左手で少女と手をつなぎ、夜の森をあとにした。
「・・・いしいか?」
「・・・ちい!」
「・・・っくりお食べよ。・・・くさんあるからね。」
少年は、なんだか心地よい会話の中で目を覚ました。少年は柔らかいベッドの上で寝ていた。近くでは大人二人と子ども一人がスープを食べ、微笑みあっていた。
「お、目を覚ましたか。」
男がベッドへ近づいてくる。
「大丈夫か?ひどいけがだったからな。」
男がそっと少年の頬に手を伸ばす。
「ッッ!ニヒット、トログライ!」
少年はひどく拒絶した。しかし、彼の額のあざは光らなかった。
「大丈夫だ。大丈夫。ほら、何にも持ってない。」
彼は手をグ―パーグーパーし、ゆっくりと回ってみせた。少年はまだ男を威嚇するように見つめていた。
「無理に触っちゃいけないよ。」
遠くで少女にスープを食べさせていた女性がそっと近づいてきた。
「私は、マルゴ。ここにスープを置いておくから、食べたくなったらお食べ。」
するとマルゴは静かにスープを小机に置き、そっとスプーンですくって飲んで見せた。
マルゴは男の手を引き、そっと二・三歩後ずさりをした。
しばらくすると、少年はマルゴをなめるように見わたし、スープの器をぐっと引き寄せ、がつがつと食べ始めた。十秒で食べ終わり、器を力いっぱい差し出してきた。
マルゴはその器を手に取り、別の器に入ったスープを少年に手渡した。
「たんと、お食べ」
彼女が笑顔で手渡すと、少年はまた強引に器を取り、また十秒足らずで平らげてしまった。
「だいぶとおなかが空いていたんだね・・・。」
いつもであれば、翌日の昼頃に洗う鍋を洗いながらマルゴはつぶやいた。
二人の子どもたちは、すやすやと同じベッドの上で並んで寝ている。
「これからどうするんだい?ルシアン。」
ルシアンは盗賊らが落としていった猟銃をじっと見つめてこう答えた。
「あの子たちの親を見つけるのは至難の業だ。まして、生きているのかも定かではない。かと言って、この子たちをかくまうということは、マルゴ、君にかなりの負担をかけてしまうことになる。」
マルゴは洗い物の手を止めこう言った。
「もう何度もあんたを支えてきたさ。もう言うて怖いものはないさ。まして、この子たちのもらい先なんてどこを探しても見つからないんだろう?」
「すまない・・・。今回ばかりは本当に・・・。」
「謝ることはないさ。この子たちに罪はない。あんたが謝るんじゃないよ。」
ピ、ピピピピ、ピーー。
少年は小鳥の鳴き声とともに目を覚ました。
隣には小さい女の子がすやすやと寝ていた。
外の音が気になり、少年は家の扉を開けた。
そこには広大な畑と小川、それらと家を囲むように山が広がっていた。近くの小屋からは動物の鳴き声が聞こえてくる。太陽が空のてっぺんからあたりを照らしており、空気がとても暖かく感じられた。静かな畑にキッ、キッ、キッと元気な音が聞こえてくる。
少年は二人の大人が畑にいることに気づいた。
「おっ、起きたか。」
「すっかり顔色もよくなったね。よかった。」
少年は少し後ずさりした。
「ほら、おいで。」
少年は恐る恐る近づいてくる。マルゴはやさしく手を取り、少年の手のひらにそっとのせた。赤くて丸みを帯びた三角形、つぶつぶが表面にいっぱいある。食べるととても甘く、みずみずしかった。
「イチゴっていうんだ。食べたのは初めてかい?」
少年は首を傾げた。
「外国の子だろう。昨日もよくわからない言葉を話していた。」
「こうやって少しずつ話していくのさ。この年代の子は物覚えがいいからね。もう一個食べるかい?」
マルゴはそう言って少年にもうひとつイチゴを差し出した。今度は自ら手に取り、一口でほうばった。
「少しずつでいいんだよ。大きくなるまではここにいるんだから。」
「ゔわーん、ゔわーん」
家の中から鳴き声が聞こえてくる。
「あれ、起きたかね。」
マルゴは小走りで家に向かった。
「うまいか?」
ルシアンは少年に尋ねた。そして、イチゴを一口でほおばり、空に向かって笑顔で
「うまい!」
すると少年も
「う・・・うまい!」
「そうか、そうか!うまいか!」
ルシアンは少年に向かって満面の笑みを見せた。すると少年も少しだけ笑みが見えた。
「おーい、そこの二人―!この子も起きたし、遅めの朝食にしようかー!」
家からマルゴが大声で呼んでいる。その腕には少女が抱かれていた。目をこすってまぶしそうにしている
「わかったー!今行くよー!」
ルシアンの声が届いたのかマルゴたちは家の中に戻っていった。
「ほい、行こうか」
ルシアンが少年に手を出す。その手は葉っぱのように大きく、ごつごつしていた。いたるところに豆や傷跡があり、その勇ましさを物語っている。
少年はルシアンの手の上に自分の小さな手をかさね、ともに家へと向かっていった。




