勇者、王に会う。
開かれた扉の先には、真っ直ぐに王座へ続く、真紅の絨毯が敷かれていた。道の両端には金色の刺繍が施されている。
刺繍の向こうを見やると、柵越しに、貴族と思しき豪奢な衣装を纏った人々が、拍手をしながら俺を出迎えている。その中に家族も見えた。こうして見てみると、衣装のせいか、自分たちの家族が貴族のひとりとなったようにすら感じる。
そして正面。絨毯の続く先には、王がいた。赤いマントの襟には白色のファーがしつらえてあり、その頭上では王冠が誇らしげに輝いている。手には何やら、ステッキのようなものを携えていて、その頂点には水晶か、透明の玉が乗っている。
王の姿には、圧倒的な存在感すら感じた。入場した時、あえて直視出来なかったのはそのためかもしれない。
皺の彫りが深く、厳格そうな口髭、鋭い目つきに、固く結ばれた口元。広い肩幅と、服の上からでも分かる隆起した筋骨は、男が理想とする男を体現したかのように見えた。
この王をして、この国は強国たらしめるのだと痛感する。この世界に傀儡王などというものがいるのならば、決してこの王のことではないのだろう。そう思わせられる程の存在感があった。
拍手とファンファーレが鳴り響く中、俺は絨毯を歩き、王座へ続く階段を前にして片膝をついた。王の後ろから日差しが後光のように入り込んでいて直視できずに、自然と頭は俯いた。
「お主が、勇者と告命を受けたセタン・ルー、その人であるな? 」
王の、腹に響く低い声が俺に問いかける。
「は。お呼びに預かり参上致しました」
「ほぅ、まだ五歳だと言うのに、礼儀が行き届いているようだな。褒めて遣わす」
「ありがたきお言葉」
「此度、セタンの名は世界へ轟いた。今は誰もが知る勇者となった。これは神からの奇跡である。このような者が我が国から輩出されるのは、我が国にとってこれ以上ない栄誉である。まずは、神に感謝を」
その場にいた全てのものが、胸の前に手を組んで天を仰いだ。俺と王を除いて。
「して、セタンよ。我が国も神に習い、勇者の号を、そなたに授ける。これに並び、勇者が我が国に誕生したことを祝し、爵位をそなたに授ける。位を、伯爵とす。異論のある者は、今この場で申し出よ。ないものは、喝采せよ」
......は?何がどうなっている。何故俺が貴族になったんだ。俺はまだ何もしていない。
しかし、周りの貴族は大喜びで手を叩いている。
こんな空気で、理由を尋ねるなんてできるわけがないだろう。
「では、勇者セタンよ。今度はそなたの名前と武勇が、世界に轟くことを期待している」
「ご期待に添えるよう、努力致します」
また鳴り始めたファンファーレに促されるようにして、俺は王座の間を後にした。扉の奥には、先程の使いが待っていた。
「大変に立派なお姿でした勇者様。本当に」
「いや、さすがに人生で一番緊張しました」
前世も含めて。
「そうでしょうとも。つい先程まで、一般の民としてお過ごしになっていたセタン様にとっては、余程強い刺激であったこと、お察しいたします」
「そういえば、勇者は分かるのですが、爵位って......」
「ご説明が遅くなり申し訳ございません。叙爵に関しては、行われるまでその内容を、当人含め何人にも伝えてはならないことになっておりまして。後ほど、ご家族様とご一緒にご説明させていただきます」
「わ、分かりました」
人事についての先触れは、国絡みになるとご法度らしい。これも、 “情報”か。
「それでは勇者様、また控え室にて、お召し替えをお願いいたします」
「え、また着替えるんですか? 」
「ええ、相手が王家とはいえ、食事の場でそのお姿は仰々しすぎます。何より、動きづらいでしょう」
「そう、ですね」
貴族の世界にはついていけない。なぜさっきも会った相手と会うのに、着替えなければならないのか。
そう、ついていけない。こんな俺に、爵位、それも伯爵なんて務まるのだろうか。
強烈な不安が俺の中を駆け巡った。
「ご家族様、勇者様をお連れいたしました。お待たせして申し訳ございません。
メイドたち、勇者様のお召替えを」
「はい、かしこまりました」
ぐるぐると考えていたら、いつの間にかさっきの控え室に着いていた。控え室の中では、これから食事だと言うのに、フェルダがまた菓子を頬張っていた。
その姿を見て、俺は密かに安堵した。
そういえばこの場所は、一言コメントみたいな感じで、その話を書き終わった私が思っていることを適当に書きます。
Xみたいなものと捉えてくださいm(*_ _)m




