勇者、王城に至る。
朝の支度もそこそこに、俺たちは早速王宮へと向かった。早くから、迎えの馬車が到着していたらしい。
使いからの話によると、王宮までは平服で向かい、向こうで用意してくれた礼服へ着替え、王に謁見することとなるそうだ。
こっちの世界でも、前の世界でも、平服というのが一番難しい。しかも、今回は着替えが用意されているという。礼服らしい服を着ていけば、王が用意した礼服なんて着れない、という意思表示に取られかねない。かと言って、本当の普段着で行くと、王宮に入る客、ましてや勇者らしい人物とその家族が、なんてみすぼらしいのだろうとか思われてしまう。
結局俺たちは、下ろしたての小綺麗な服を纏って、王からの使いの馬車に乗り込んだ。
馬車が動き始めて驚いた。昨日乗った馬車とは段違いに揺れない。馬車の中で話しても、舌を噛んでしまう心配は無さそうだ。
「おぉ、この馬車すごい! 全然揺れない! 」
とまぁこのように、フェルダもご満悦である。
「この馬車には、特殊な物理魔法が施されております。地面からの衝撃をある程度吸収できるのです。御者がその道の達人でして」
「え! これ物理魔法でできるの!? 」
「すみません、この子は物理魔法の才覚をお告げいただいているので......」
ヒティネが、フェルダをなだめながら使いに謝った。
「いえいえ、お気になさらず。また後で、御者へフェルダ様にお声をかけるよう伝えておきますね」
「え、僕の名前......」
「もちろん、存じております。アルタム様、ヒティネ様、フェルダ様、そして、セタン様」
まるでわざとだと言うように、俺の名前が呼ばれる前、一拍の間が置かれた。
「昨日もお伝えさせていただいたように、この後、王宮へ入られましたら、お召し物を替えさせて頂き、セタン様は王へ王座の間にて謁見して頂きます。その際、王都に住まいを構えられる貴族様もご参列頂きますが、もちろんご家族様も、その場へのご参列頂けます。その後、ご家族様とご一緒に場所を移り、王家の皆様とご昼食を。それから、勇者様にお伝えすべき、つまりは魔王の情報を、宰相様並びに騎士団長様よりご説明させていただきます。また、勇者様が今後、どのようなご活躍なされるべきか、我が国からのご提案もさせていただく次第です」
「よくわかった。お気遣い感謝する。一つ質問はいいかな? 」
「はい。なんなりと」
「その、宰相様や騎士団様とセタンとお話する席に、我々も同席してよろしいのかな? 」
「もちろんでございます。ただ、特に魔王の情報に関しましては、勇者様以外には箝口令を敷かせていただくことになると思います。なにぶん、こと戦において、情報は命でございますから」
「心得ているさ。情報の大切さは、商人もよく分かっているつもりだ」
「痛み入ります。では、もう間もなく正面に、王宮が見えて参ります」
そう言われ、使いが案内した方を見ると、馬車は分厚い砦を通り過ぎて、これまで王都からは隠れていた、城の全容が見え始めていた。
その大きさは、街のどこからでも見えるほどの物だったが、こうして間近に見るとやはりでかい。淡い色のレンガでまとめられたその城壁は、一つ一つが真新しく見えて、劣化の気配を感じさせない。これもこの世界の魔法によって、保たれているものなのだろうか。
騎士団と思しき、大ぶりな金色の鎧を身にまとった者や、官僚だろうか、質の高そうな衣服を着けた者、教会の関係者らしき者たちも見える。王都内で、そう易々と見かけるような人々ではない。しかしここではそこら中で見られた。
「セタン様、新鮮にお見えになりますか? 」
「はい。このような、ご身分の高い方々をこう一斉に見る機会はあまりありませんでした」
「それでは、これからはもっと大変でございますね。王宮の中は、格別でございますから」
使いの言った通りになった。
馬車を降ろされて、人が縦に何人入れるのだろうと疑ってしまうような扉を抜けると、床には全て絨毯が敷かれていた。目移りするような装飾の数々や、等間隔に置かれる絵画や花たち。一体何人で管理すれば、この王宮は保てるのだろうか。
絨毯、もといカーペットの掃除のしずらさを前世で体験している俺は、見ているだけで目が回りそうだった。
「こちらが控え室でございます。中にメイドがおりますので、お召し替えは彼女らにお申し付けください。私はまた、頃合を見計らって伺いまして、ご家族様を王座の間へとご案内致します。ではごゆるりと」
中には本当にメイドがいた。それも、前世で想像するとおりのメイド衣装を身につけて。
俺たち家族は、メイドたちに着替えをさせられた。どんな仰々しい儀式をする時に身につけるのだろうかと、首を傾げたくなる衣装は、やはり重たく動きにくかった。フェルダにはにやけられ、アルタムとヒティネには微笑まれた。着替えが終わると茶と菓子が出されて休憩の時間を貰えた。
出された菓子は、砂糖をふんだんに使ったことが分かる甘さで、フェルダがいつも以上にテンションを上げて喜び、ヒティネに小言を言われていた。
落ち着いた頃合で、再び使いがやってきて、俺を残した家族たちを案内して行った。
メイドと俺だけになった部屋で、やはり感じたのは、メイドたちから向けられる視線だった。
そして最後に、俺が案内される。
長い廊下を使いと歩いて、城内で一際大きな扉の前で待たされる。
「まもなく扉が開きます。そうしたら中へお進みいただいて、王の前で片膝をおつきし、頭をお下げください。そのままのご姿勢で、王の勅言をお聞きください」
そう言って、使いは下がった。
大きなファンファーレが鳴り響く中、騎士の声がつんざいた。
「勇者、セタン様の御成」
大きな扉が、今開いた。
甘いクッキーを食べたいと思いながら書いていました。




