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勇者だから、魔王を倒す。  作者: つぶあん


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勇者、初めての勇者を知る。

 昔の昔のそのまた昔。

 神が、土を盛って山を作り、水を流して川を作り、その水を貯めて海を作った。

 そこに、種々が芽吹くように、木々が生い茂るように、命が栄えるように、そう祈った心が空へと打ち上がり、太陽が煌めくようになった。

 神は大いに喜び、照らされている場所すべてを命で埋め尽くした。

 やがて見えるところ全ての大地を作った神は、まだ照らされていないところを目指して、強く大地を蹴った。すると大地は回って、今まで影だった部分をも照らし始めた。

 神はまた喜んで、新しく照らされたところも、どんどんと命で満たしていった。


 やがて神は少し疲れて、眠りについた。長い長い眠りだった。神は動かなかった。何年も、何十年も、何百年も、何千年も、そのまま眠ってしまった。

 神の体に遮られて、光の届かなかった影が成熟し、やがて意識が宿った。影でいるうちは、神から逃れることが出来なかった。

 影は世界が夜であるうちに、神の体から離れた。そして考えた。自分も神のように、大地を作ってみたいと。

 そのためには、影は影としてではなく、神にならなくてはならなかった。影は決意した。神を殺そう。


 影はまず、他の影を集めた。 夕方の夜の間際と、朝方の夜の終わりにだけ現れる、夜の中にある影を集めた。そして、そこに意識を少しずつ注いで、魔物を作り出した。

 次第に増えていく魔物の中に、自我を持つ者が現れた。影はその者に、自分の見た景色や、野望を打ち明け、強く、ただ強く、神を殺せるくらいに強くなるように育てた。


 その頃神は、ようやく起きて自分の影がなくなっていることに気づいた。そして、自分の生み出した命ではない何者かが、大地に蠢いているのを感じた。

 神は泣いた。その涙は、また空へと打ち上がって、今度は夜を照らす星々となった。その中でも、一際大きな涙の粒が月になった。


 影は、月の出現に怯えたが、それでも止まらなかった。そしてついに、神に刺客を差し向けた。初めは魔物だった。それは、神によって芽吹いた命が次第に群れを成していた頃だった。

 命たちは、自分たちが狙われているのだと思って、その魔物を退治しようとした。しかし、刃向かった命たちは皆殺されてしまった。神は、心を痛め、命たちに自分の持つ、様々なものを作り、操る力を貸し与えた。そこでようやく、命たちは魔物を退治する術を身につけた。


 影は、命達が邪魔だと思うようになった。そして、育てた自我のある者に、闇から色々なものを作る力を貸し与え、魔王と名乗らせた。そして、その力で命たちを滅ぼすように命じた。


 魔王の力は凄まじかった。そこら中の命を、切って捨てて、夜に生み出した魔物を色々なところにけしかけた。そしてついに、大地の命の灯火は消えかかった。


 神は祈った。この魔王を討ち滅ぼす救世主が世界に生まれることを。すると突然、音もなく、神の目の前に一粒の星が落ちてきた。星は大地に舞い降りて、神を見つめた。

 神は驚いた。世界にありふれていた、どの命よりも強かで、大きな器を持った星の存在に。

 神はその星に、残った力のほとんどを注いで眠りについた。その星に、勇ましい者──’’勇者’’という名前をつけて。


 勇者はまず、世界の命を助けて回った。山の命も、川の命も、海の命も。勇者が訪れた大地は蘇り、命が栄えていく。

 世界中を旅して回り、魔物を倒し、そしてようやく、魔王の元へたどり着いた。


 辛く苦しい戦いを経て、ようやく魔王を討ち滅ぼした。


 その反動で、影も眠りについた。


 世界から、魔物が居なくなった訳では無い。それでも、命たちの力は取り戻され、また世界に光が満ちていく。

 勇者は、神から貰った力を使い切るその時まで、命たちに称えられ、幸せに過ごした。


────────────────────


 アルタムが、勇者となった俺へ、贈り物として用意してくれたのは、この世界の創世神話のようだった。

 この物語では、この世界の成り立ち、神と、影、勇者と魔王、人と魔物の戦いの歴史が描かれていた。


「お父様、これは? 」

「ここに記されているのは、初めの勇者だ。この後にも、いくつもの魔王が現れ、そしてその度に勇者が討ち滅ぼしたのは、知っているな? 」

「はい」


 歴代の勇者は、様々な伝説で語られ、それが物語になり、歌になり、劇になる。それらは俺も、これまで本で読んだことがあった。しかし、この初めの勇者の物語はまだ見たことも、聞いたこともなかった。


「他の勇者の物語は、勇者が中心で、その旅路や、仲間とのやり取りに華がある。しかし、初めの勇者の物語はあまり華がなく、人気があまりないんだ。だから、それこそ教会伝手の聖典に近いものでないと手に入らない」

「だから、僕はまだこの物語を知らなかったのですね」

「あぁ、だけど、昨日助祭と話していて神の声が聞こえ、セタンが勇者になったと知った時、思わず助祭に頼んでいたんだよ。どうにかしてこの本を手に入れてはくれないかと。その時はなぜこんなこと頼んだのだとも思ったが、きっとセタンに渡すためだったんだ。少しでも、お前が勇者について、よく知ることができるように」

「そうだったのですね、ありがとうございます」

「それに、剣や装備は、お前の能力や、好みに合わせたものを使う方がいい。親がしつらえてやるよりも。お前は本がずっと好きだったからな。これの方が喜ばれると思ったんだ」

「本当に、その通りです」


 勇者となって、初めての息子への贈り物は、息子が好きなものだった。

 俺の頭には、昨日の思い出が巡らずにはいられなかった。

 神話って書いてて面白いですね。稗田阿礼の気持ちがのーんの少し分かった気がします。

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