勇者、貴族になる。
「あら、もう着替えちゃうの? せっかくよく似合っているのに」
俺が着替えると知るやいなや、ヒティネが拗ねたように言い出した。
「お食事を摂られるお姿としては、いささか大袈裟でございます。この御衣装、ひいては御装飾は、重要な儀式、例えば叙爵や婚礼の際で身につけられるものでございます。どうかご理解ください」
「ヒティネ、無理を言ってはいけない。それよりも使いの方、セタンが爵位を、それも伯爵とは一体どういうことですかな? 」
「はい。まずはご説明が遅くなりまして、大変申し訳ございません。規則でして」
「それはいい」
「はい。先程、王からの勅言の通り、セタン様はつい先程より、勇者の号と伯爵位をお受けになりました。勇者は文字通り、神が勇者と認めた者にのみ授けられる称号のようなものでございます。これで晴れて、セタン様は人間界において正真正銘の勇者となられました。これはセタン様の一生涯、剥奪されることはありません」
「この号に、意味はあるのか? 神が認めたのは皆が知っているだろう」
「ええ、この国はもちろん、他の国においても、勇者を騙る行為は固く禁じられております。よって、勇者と名乗ることを、国として許すというのがこの号でございます。また王は、諸外国に対して、セタン様を正式に勇者として認める旨の書簡を既にお送りです。今後セタン様が国外に出られましても、遺憾無くその威をご発揮いただけます」
「なるほど、勇者の号についてはよく分かった。それで、爵位の方は? 」
「はい。この王国における貴族位、公爵、侯爵に継ぐ伯爵位でございます。その下の子爵、男爵位までの下位貴族とは違い、上位貴族としての登用となっております」
王国では、子爵、男爵といったいわゆる下位貴族が貴族のほとんどを占める中、公爵、侯爵、伯爵の上位貴族は、その数を極端に減らし、国の中枢である行政機関を管轄する家が多い。前世で言う所の内閣のような機関を、世襲制で治めるのが上位貴族ということだ。
「そんなことは分かっている。聞きたいのは、貴族の果たすべき責務のことだ」
「アルタム様が苦慮されているのは、応召の義と、進上の義に関してですね? 」
「そうだ。魔物や魔族を倒すのが勇者の責務なのであって、戦争のために人を斬るのが仕事ではない。それにセタンは世界を救うために魔王を討つのだ。それで金を寄越せというのは非情ではないか? 」
「その点に関してはご安心を。セタン様にかかる貴族の責務について、その一切を王は免除されております。よって、応召も進上も、つまり戦争へ呼ばれることも、納税の必要もございません」
「免除、か」
「はい。ただし、これはあくまでお願いなのですが、セタン様が王都に居らしている間、上位貴族が招集された際には、ご同席いただけると助かります」
「なるほど、分かった」
「まだまだ、お聞きされたいこともたくさんあると存じますが、王家の皆様のご支度が終わられたとのことです。お食事後のお席には、私も参上しますので、続きはそちらでお願い申し上げます」
使いの話に聞き入っている間に、いつの間にかメイドに着替えさせられていて、アルタムやフェルダと同じような装いになっていた。
いつもの服より動きづらいが、さっきの服とは比べ物にならない。多少手間でも、着替えた方が良かった。
今度は、家族みんなで控え室を出て、使いに案内されるまま城を歩き、連れられた部屋の扉が開けられると、先程とは違った装いの王と、王座の間では見なかった王家の人たちが揃っていた。
「失礼いたしております、陛下並びに王家の皆様。勇者セタンの父、アルタム・ルーと、妻のヒティネ、セタンの兄のフェルダでございます。このような誉れ高い席をご用意して頂き、恐悦至極にございます」
「あぁ、即日の召喚に応じてくれたこと、感謝する。我はエウィン王国国王、マクルである。妻のフリウと、息子のクリス、娘のフィンも同席させて貰おう。では諸君、掛けなさい」
アルタムの、王に対する堂々とした立ち居振る舞いにも驚きだが、先程の儀式における王の姿と、家族を前にした王の姿のギャップに衝撃を受けた。
公の場と私的な場で、ここまでの落差があることに、俺はむしろ好印象を受けた。この王は、厳格なだけではないらしい。
「今日はこの国に、この世界にとって祝福すべき日だ。それにセタンよ、告命が昨日であったということは、昨日で五歳になったということだろう。これはルー家にとっても喜ばしい。この幸せを神に感謝し、食事をいただくとしよう」
王の音頭によって、王家との会食が始まった。
俺たち家族は、王の言葉に心を動かされていた。
前半は、貴族社会の説明回みたいになってしまいました。次はどうなるのでしょうね。




