勇者、王家と会食す。
王の気の利いた挨拶で始まった会食は、和やかな雰囲気で進行していった。
なんと言っても、用意された皿の数々はどれも彩り豊かで、味も抜群だった。高級食材をふんだんに使いながらも、それに頼りきりという訳ではなく、しっかりと素材の味が生かされた品々だった。
そしてこの味は、フェルダにも楽しめたようで、先程までクッキーを沢山食べていたにも関わらず、さらに腹に詰め込んでいる。
「セタンも、フェルダも、この食事が気に入って貰えたようで何よりだ」
「子どもたちの味覚にまでご配慮いただき、ありがとうございます」
「いやいや、うちもクリスとフィンがいるのでな。料理番が、家族皆で楽しめる献立の開発に取り組んでくれたのだ」
「もちろん、大人も楽しめるように、ね? 」
王と妃の仲睦まじいオーラが、テーブルを挟んだこちら側にも届いてきている。二人は政略結婚で結ばれたと聞くが、それを感じさせない距離感だ。
それに慣れているのか、王子のクリスと王女のフィンは、食事に夢中のようだ。時間が少し遅くなってしまっていたから、お腹がすいていたのだろう。
二人はそれぞれ、クリスが十歳、フィンが八歳で、俺やフェルダよりも年上だが、まだまだ幼い。しかし、教育の差なのだろうか。前世で言う小学生中学年から低学年の子女には見えず、ましてやフェルダとフィンが一つしか変わらないようには全く見えない。大人びている。
「して、セタンよ。昨日以降、告命を受けてから、体になにか異変などはないか? 例えば体が少し軽く感じたり、耳や目が良くなったように感じたり......」
「あと、剣を振るう太刀筋が鋭くなったり」
王の言うような変化は、正直まだ感じられない。それにクリスが言うような変化は......。
「いえ、まだ特別な変化は感じられません。それと、クリス様の仰った剣については、生まれてこのかた握ったことがありませんので分かりかねます。すみません」
「え、剣を握ったことがないのですか? 勇者様なのに? 」
「こらクリス。セタンはつい先程まで貴族でなかったんだぞ。一般家庭で、告命前に剣技の指導を受けている方が稀だ」
「はい。それもあるのですが、そもそも僕は体が強い方ではなくて」
「本当か? 勇者が? 」
「誠でございます。セタンは幼少期から、よく熱を出す子でして。それに外を駆け回るよりも、読書を好んでいるです」
「ほう、読書か。後ほど宰相に、セタンが王宮内の図書室へ出入りできるようにしておけと伝えておこう」
「ありがとうございます! 」
「よいよい。ささやかだが、我からの誕生日の贈り物だ。それに勇者にとって、旅するものにとって情報は利となる」
「はい! 存分に活用させていただきます」
「そういえば、セタン。お前は五歳とは思えぬ程に落ち着いている。それに言葉遣いもだ。アルタム殿の指導か? 」
「い、いえ。私たち家族も、先程の儀式で驚いておりました。しかし、きっとそれらは読書習慣の賜物でしょう。お恥ずかしながら、フェルダはあのような言葉遣いはしません」
「それ酷いよお父様! 」
フェルダの悲しげな声。
「読書か。クリスとフィンの教育にも取り入れるか。よいな? 二人とも」
「はい」
「お手柔らかに......」
フィンは真っ先に返事をした。しかしクリスは、少し憂鬱そうだ。本が好きではないのだろうか。
「いやしかし、マクル陛下は大変な家族愛をお持ちで」
「あぁ。家族を愛さずして、なぜ国民を愛せる」
「その、家族思いの陛下に一つ、お願いしたいことがございます」
「言ってみよ」
アルタムが、お願いしたいと言った時の真剣な目つきに呼応するように、王の態度にも凄みが出た。
これは、儀式の時に感じた存在感だ。一言で、王に切り替わったのだ。
「先程使いの方から、セタンが王都にいる間は、上級貴族の招集に応じるようにとのお達しを頂きましたが、その役目、セタンの名代として私めが果たしたく思います」
「ほう」
いきなりのアルタムの申し出に、俺やヒティネはたじろいだ。まさか、こんなことを考えていたなんて。
「私は普段、商人としてこの王都で暮らしておりますが、それらで得た情報を、家業に転用することのないよう、ここに誓いますゆえ」
「うむ」
「ただ、様々なものを背負ってゆく息子の、少しでも手助けがしたいのでございます」
「許そう。だが、決して悪用はするな。また、ルー商会の、他国との取引を禁ずる。国内のみにしろ。情報漏洩の危機管理だ。それでよいなら認めよう」
「ありがたき幸せ」
「その商会、国とも取引はしておったな? 」
「はい。ご注文を頂いております」
「それを増やして補填しよう。また、将来的には国との取引に限定することも考えておけ」
「承知しました」
「我も、同じような齢の子どもを持つ親だ。気持ちくらいは汲んでやれる。後日にはなるが、財務を司る公爵家と、宰相とで話し合いの場を設けてやる。その場で細かい取り決めをすると良い」
「ありがたき幸せ」
王は言い終わると、また先程までの穏やかな雰囲気に変わっていた。一方でアルタムは、表情には出さなかったが、安堵しているように思えた。
「あなたと、アルタムさんってなんだか似ているわね」
「王妃様! なんてことを! 陛下が私に似ているなどと滅相もございません! 分不相応でございます」
「いやいや、アルタム殿よ。私も感じていたことだ。私も、王である時以外はただの人だよ。家族を愛するただの父親だ」
その後の会食の時間は、それはそれは穏やかに流れていった。一度、フィン王女にタメ口をききかけたフェルダが、アルタムとヒティネにゲンコツを食らっていたが、それでさえ席は笑いに包まれた。
作中の食事は、コース料理イメージです。けど、ちゃんとしたコース料理は結婚式くらいでしか食べたことがありません。食べたいです。




