勇者、役割を知る。(1)
「今日の席は楽しいものであった。そう何度も用意できるものではないが、またいずれ、家族同士で皿を囲もう」
「こちらこそ、お忙しい中このような時間をとって頂きありがとうございます。その際には、必ず家族揃って伺います」
「あぁ、楽しみにしておるぞ。そうだ、セタンよ」
「なんでございましょう」
「セタン、それにフェルダは、これから、王宮へ出向くことも増えよう。その時に時間があれば、またクリスとフィンと遊んでやってくれ」
「もちろんでございます」
「任せてください! またなー王子様! 王女様! 」
「こら、フェルダ! 」
「うむ。ではさらばだ」
王に連れられて去っていくクリスとフィンが、こちらに向けて手を振ってくれている。王家の子女ともなれば、同世代の人間と関わる機会も、巷の人々と比べると少ないのだろう。
初めの表情は固く、距離感を感じる二人だったか、フェルダの接しやすさのお陰で、最後の方には随分と我が家と打ち解けてくれていたように感じる。
「王家の人たち、思ってたより話しやすかったですね! 父様、母様! 」
「そうだな、フェルダ」
「こんな美味しいものを食べれて、王家の人とも話せるなんて、セタンのおかげだな! 」
「兄様こそ、お陰で王子様や王女様と、沢山お話できました」
「お話中のところすみません。宰相様と、騎士団長様がお待ちです。どうかご移動願います」
「あぁ、分かった」
使いに急かされるように部屋を後にした。
先程の、玉座の間や会食をした部屋、控え室もそうだが、今向かっている部屋も、それなりに距離があるらしい。続く廊下には、様々な間隔で扉が設置されていて、数えるのも億劫になるほどの部屋数があるようだ。それに入り組んでいる。敵の襲撃を想定した作りなのだろうか。
なんにせよ、この王宮の全貌を把握するのは無理とさえ思える。使いに案内されていなかったら、まず間違いなく迷っていたことだろう。
「こちらで、宰相様、騎士団長様がお待ちです」
連れてこられた部屋は、玉座の間、会食の部屋とは違い片開きの扉だ。
「勇者セタン様と、そのご家族のご到着でございます」
「ご案内しろ」
扉の奥から、王と比べて少し若い、それでも声だけでその屈強さが分かってしまうような、低く逞しい声が聞こえてきた。
「失礼致します」
使いが扉を開けると、机と椅子が、集団面接会場のような配置で並べられている。違うのは、真ん中の机が広く、部屋に大きな世界地図が掲げられていて、本が数冊積み上がっている。面接官の位置に二人の男が座っていた。
片側の男は、金色の鎧を纏い、そこから伸び出る四肢に強靭な筋肉と、そこに刻まれた無数の傷跡が見て取れる、まさに歴戦の猛者という容貌だ。顔立ちは四十歳前後に見えて、予想よりも若い。この人が、さきほどの声の主であり、また騎士団長を務めているのだろう。
もう片側の男は、紫色の衣装を纏っていて、騎士団長と並んでいると、やはりか細く見える。王よりも老年に見え、片目にはモノクルをつけている。いかにも頭脳派と言った様子だ。宰相らしい。
「どうぞおかけ下さい皆様」
モノクルの男に促されて、俺たちは用意された椅子に座る。王家との食事でも緊張したが、この二人にはまた別の圧迫感のようなものを感じる。
「ようこそお越しくださいました。私はこの国の宰相を務めております、ハンセンと申します。こちらは王国の騎士団長を務める──」
「ルグスと言う。堅苦しいのは苦手だ。ご容赦願いたい」
「いえいえ、お気になさらず。勇者セタンの父、アルタム・ルーと、妻のヒティネ、セタンの兄のフェルダでございます」
「今日は、叙爵に会食と長時間に渡って拘束してしまい申し訳ありません。ただ、ここからのお話は、より実際的なものになっていきます。よくお聞きください」
宰相の口ぶりだと、ここからが今日の本番だとでも言いたげだ。
「まずはセタン様にこちらを」
宰相の合図で、机の上に大きなケースが置かれ、開かれると中には、装飾の細かな剣と、金の指輪、蓋側に上等そうな羊皮紙がつけられていた。
「こちらは、叙爵された方に送られる品々でございます。本来であれば式の前にお渡しするものでしたが、なにぶん急な事でしたので、つい先程になってようやくご準備出来たのでございます。ご説明させていただきますね」
「はい、お願いします」
「まずは、勅許状が蓋側についております。こちらには、セタン様が伯爵位を賜った旨が陛下名義で記されております。どうか厳重にお控えください」
紙には、それは美しい字で文言が書かれていて、最後に王の署名と、王家の紋章が判してある。
「次に剣。これはあくまで儀式用のものでして、戦闘に使用されるのはお控えください。刃も一応付いてはいますが、丈夫には作られておりません」
さすがにこの装飾の数で戦えというのは酷だと思ったが安心した。
「最後に指輪。恐らく勇者様にとって、最もよくお使いになるものだと思います。こちらは一種の魔道具で、様々な機能が備わっています」
出た。異世界設定だ。
「まずは金庫の役割。本来は貴族に対し、進上の義が課され、年に一度税金を収めていただきますが、お聞き及びの通り、セタン様は免除されております。また、貴族には配当金の制度がございまして、これも年に一度、国庫へ集められた資金の一部を再分配しております。そちらがその指輪に記録され、使用されたい場合は念じていただければ、金貨が王宮から転送されます」
「お待ちください。セタンは進上していないのに配当金を受け取れるのですか? 」
「はい。可能でございます」
「それでは採算が......」
「それでは、こうお考え下さい。国を挙げてセタン様に協賛している、と」
「協賛、ですか」
アルタムが戸惑いながら聞き返した。
「ええ。さらにいえば、今後の成果によっては世界中の国々からの協賛を受けられることになるでしょう。もちろん、他国で貴族になることはできませんが、他国から協賛の申し出がありましたら、我が国を通じてセタン様に振り込むことも可能です」
「承知しました。続きをお願いします」
「はい。次に、セタン様の身分を証明するものにもなります。同盟国、友好国であれば、この指輪を国境で見せるだけで、お連れ様と通行頂けます。また、その他の国でも余程の事がない限り、便宜が取られるでしょう」
行商人などが、喉から手が出るほど欲しがる機能だ。
「最後に、その指輪は使用者の指の大きさに合わせて自由に形を変えます。また、万が一落とされることがあったとしても、一定以上の距離が離れると元の指に戻ってまいります。ご安心して、肌身離さずお持ちください」
凄まじい技術力だと思った。もちろん魔法ありきの技術だが、それらの機能をこの小さな指輪一つに集約している。
「もしよろしければ、今この場でつけられてはいかがですか? もちろん、指に着けたあとも、念じれば外すことができます」
俺は促されて、指輪を手に取った。
右手の人差し指に指輪を差し込むと、みるみるうちに姿を変えて、五歳の指のサイズにぴったりと縮んでしまった。
宰相、騎士団長との会話編はまだ続きます......
説明ばかりになってしまって申し訳ない......




