勇者、告命の前夜。
五歳の誕生日前日。食卓に並ぶのは、俺の好物ばかりだった。
ブイヤベースに、少し硬めのパン、ローストポークに、ポテトサラダ。その他にも豪華な品々が机を埋め尽くしている。
本当なら、アルタムのグラスに注がれたワインも楽しみたいのだが、五歳の体に酒は耐えられない。
「セタン。分かっているとは思うが、いよいよ明日だな」
「はい、お父様。明日が楽しみです」
嘘をついた。明日からこの生活がガラリと変わってしまうのだ。憂鬱が先立つ。
「神殿へは馬車で行く。中には俺やヒティネは入れないから神官殿の案内に従いなさい」
「セタン、告命だけどな、あれものすごく痛いんだぜ」
「こらフェルダ、変な嘘をセタンに吹き込むんじゃありません」
ヒティネがフェルダを睨む。フェルダは肩をビクつかせた。
「じょ、冗談だって......。別に痛くもなんともないよ。神官様の言うことを聞いていたらすぐ終わるさ」
「俺たちは神殿の前の広場で待っているから、終わったら戻りなさい。明日に備えて、今晩本を読むことはないように」
「分かりましたお父様。お気遣いありがとうございます」
「それにしてももう五歳か。お前は体が弱いから、長く生きられないとも思ったのだが、無事告命を受けられる歳になれて良かった。セタンよ。どのような才覚が欲しいのだ? 」
「人の役に立てるような才覚がいいです」
「セタンったら、本当にまだ五歳なのかしら。フェルダなんて、『きれいなどろだんごつくれるようになりたい』って言ってたのに」
「えぇ。俺そんなこと言ってたの? 」
「あら、覚えてないの? 」
「それに比べてセタンは本当に大人びて......」
ここらで止めておかなければ後でフェルダが拗ねる。
「そういえばお母様。このブイヤベースはお母様が作ってくれたのですか? 美味しいです」
「そうよ? ありがとう」
ヒティネの頬が瞬く間に綻んだ。普段の食事はメイドに作らせるのだが、祝い事の時いつも添えられるブイヤベースは、どういうこだわりなのか、ヒティネのお手製だった。
俺やフェルダにとって、真っ先に思いつくおふくろの味と言うやつだ。
食事が済み、甘味が出された。これも祝い事の時にしか出ない。いくら裕福な商人とはいえ、この世界では砂糖を容易く入手し使用出来るほど、流通しない。
「誕生日の贈り物は、明日、セタンの才覚が明らかになってから選ぶとしよう」
去年は贈り物に新しい本を貰ったのだが、そういえば今年は、欲しいものを聞かれなかった。
「分かりましたお父様。楽しみにしています」
勇者に相応しい贈り物とは一体何なのだろうか。剣か、あるいは旅に役立つアイテムだろうか。前世の創作物で見てきたファンタジーに自分を重ねて、胸が高なった。
「今日はもう寝なさい。明日に響いては、いけない」
甘味を食べ終えて一息つくと、アルタムに急かされた。
「分かりました。おやすみなさいお父様、お母様、お兄様」
朝、メイドに起こされて支度を始めた。
庭に、馬車が見えた。
校正していたら、「セタン」を「セダン」と書いている部分を発見しました(訂正済み)。
僕はスカイラインが好きです。




